久しぶりに、映画を観た。
ファティ・アキン監督の『消えた声が、その名を呼ぶ』
大変、重いテーマだった。
今から百年前のオスマン・トルコで起こったアルメニア人虐殺事件。
「20世紀最初のジェノサイド」の犠牲者は、100万人とも150万人ともいわれ、
いまだアルメニアとトルコ両政府の見解が一致していない。
ヒトラーが、ユダヤ人大虐殺の手本とした事件とも言われている
1915年、オスマン・トルコ、マルディン。
鍛冶職人ナザレットは深夜、憲兵によってたたき起こされ、大勢のアルメニア人男性と
ともに強制連行され、苛酷な労働をしいられる。
衰弱して働けなくなった者は、容赦なく打ち捨てられる。
こんな光景が映し出される。
砂ぼこりにまみれ、着の身着のままの女性や子どもたち、老人たちが、隊列をなして、
よろよろと歩いていく。
なかには、裸足の者もいる。
馬に乗った武装したトルコ兵に威嚇され、かれらはどこへ向かって歩いていくのか。
それは、「死の行進」と呼ばれていた。
アルメニア人難民キャンプの場面。
枯れ枝のような手足で、ただ死を待って
ぼろきれのように地面に横たわる無数の人々……。
百年のときを超えて、
まったく知らなかった歴史的事件のシーンに重なるように、
IS掃討の名の下に激しい空爆にさらされているシリアが浮かんでくる。
有志連合の空爆で命を奪われ、あるいは食糧を絶たれ、
餓死する子どもたちの姿が立ちあらわれてくる。
マルディンは、実際にシリアに大変近い場所にあった。
“これは一世紀前に封印された悲劇の物語りではない。
場所はほぼ同じくして繰り返される現実への糾弾でもある。”
やく みつるさん(漫画家)
やくみつるさんのコメントに共感している。
いま、中東で繰り返されているジェノサイドに糾弾の声をあげたい。
世界各地の戦争、戦乱とともに安倍政権が自衛隊を海外派兵することに反対したい。
さて、この映画は、愛と希望の物語でもある。
声を失いながらも、虐殺を奇跡的に生き延びた主人公は、
引き離された娘を探す旅を始める。
地球半周、8年の歳月をかけて……。
かけがえのない人への愛こそが、絶望の淵から生きる希望となった。
主人公ナザレットが何人ものトルコ人に助らけられて、虐殺を生き延びたこと。
そして、トルコ人のファティ・アキン監督が、この映画を描いたこと。
重いテーマのなかで、一条の光が行く手を照らしているようだ。
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