■この時期に文科省から発表されるのが公立学校教員の休職の状況です。「教員 精神疾患の休職最多」と朝日新聞(12月21日)の見出しは書いています。報道の要点は以下の通りです。
①2023年度の統計では精神疾患を理由に休職した教員の数は7119人で、三年連続過去最多となったこと。これは教員全体の0.77%(昨年より0.06%増加)であること。これはちょっと危機的な状況です。
②通常、90日間の病気休暇を取得しても治癒しない場合に休職に入ります。だから、実は休職者の数より精神疾患にかかっている教員の数はずっと多いのです。1ヶ月以上精神疾患で病気休暇を取った者の数を①に加えると13,045人で教員全体の1.42%(昨年より848人増加、0.09%増加)になります。
(厚労省発表では民間労働者の精神疾患による1ヶ月以上の休業は全労働者数の0.6%ですから、教員は2倍以上の割合で精神疾患にかかっているということになります。)
③年代別で見ると20歳代が最も多く、新任教員が1年未満で退職する理由の約3分の1が精神疾患によるものと考えられること。若い教員ほど心を壊されやすいということ、これも深刻です。
■実は前日12月20日の朝日新聞は「教員の給与増2案・現場ため息」という見出しで、文科省と財務省の教員の「賃金改善案」について報道していました。
①文科省案は教職調整手当を4%から13%にすることで教員のなり手を増やそうという案。…しかし定額働かせ放題の「給特法」は維持されるので、現場は長時間労働の状況は変わらないだろうと反応しているとのこと。
②財務省案は仕事量を減らして時間短縮ができる度合いに応じて教職調整手当を10%に増やしてゆき、将来は「給特法」の廃止も考えようというもの。…しかし、そもそも仕事量が減らないのでこれは「絵に描いた餅」だと現場は反応しているとのこと。
更に、この記事では「時間外勤務が毎月80時間を超えていた5年ほど前、妻から『あなたといる意味がない』と切り出されて離婚した」という東京都内のある中学校教員を紹介しています。離婚するほど「熱心な教員」にならないとやっていけないという笑えぬ話が当たり前に転がっているのなら、若者が教員になろうとは思わないでしょう。
■私は1985年に先輩教員を自殺で失い、8年間公務災害認定闘争を闘いました。もちろんその頃は「精神疾患の労災認定基準」なるものがありませんでしたから、闘いには勝てませんでした。しかし、その頃調査した「公立学校の教員の精神疾患での休職数」の統計があります。(後掲のグラフです。)
①1979年にはたったの664人でした。現在の10分の1以下です。
②1986年に1078人となり1000人のラインを超したと思うとぐんぐん増えてゆきました。2009年に5458人となるまでの増え方は異常です。
③しかしその後は2020年の5180人まで高原状態をキープしています。
④そしてこの3年間、また急増しています。2022年に初めて6000人を超えて6535人になったかと思うと2023年に7000人を超えて7119人になりました。
■②の教員の精神疾患の異常な急増期は「新自由主義」がはじまった時代とぴったり重なります。日本の社会全体が「格差社会」になり、「一億総中流」が壊されていきました。地域も家庭も荒廃しました。…困難を抱える子どもも当然に増えてゆきました。学校は社会の鏡、社会の矛盾がそのまま持ち込まれます。教員の仕事は増え続け、更にその上に、教育制度や教育内容の「新自由主義的改変」が持ち込まれました。
子どもは競争漬けの中を生きねばならなくなります。教員と子どもの権利を守ろうとする教育労働運動は「日の丸・君が代」問題で大弾圧され、職場に労働組合が生きているところは希になりました。教員の生活も民主的な教育も守れない… 子どもの成長も保障してやれない公教育の現状がこうしてできあがりました。
(*④に見られる過去三年間連続の「記録更新」はコロナ禍で加重負担になった学校の状態を表現しているように思われます。)
■教員採用試験の倍率が年々減っている、教育学部の学生が教員になることをためらう比率が高まっていると伝えられているのに、どうして本格的な予算投入をやらないのでしょう?公教育は末期的状況にあって呻いていると感じます。… 軍事費を削って教育を立て直そうとは考えないのでしょうか!
*教育だけでなく、介護も医療もこんな状態にしておいて…「手取りを増やそう!」というほとんど無意味なスローガンに投票してしまうほど国民を貧乏にしておいて、軍事費を増やして何を守るのでしょうね?
国民の生活とは違う「国家なるもの」 を守って何の意味があるのでしょう?
(2024/12/21:出口研介)
<上記の文章は、管理人の友人である元高等学校教員である出口研介さんより許可を得て掲載したものです。12月22日のFacebookに投稿された文章です。>
①2023年度の統計では精神疾患を理由に休職した教員の数は7119人で、三年連続過去最多となったこと。これは教員全体の0.77%(昨年より0.06%増加)であること。これはちょっと危機的な状況です。
②通常、90日間の病気休暇を取得しても治癒しない場合に休職に入ります。だから、実は休職者の数より精神疾患にかかっている教員の数はずっと多いのです。1ヶ月以上精神疾患で病気休暇を取った者の数を①に加えると13,045人で教員全体の1.42%(昨年より848人増加、0.09%増加)になります。
(厚労省発表では民間労働者の精神疾患による1ヶ月以上の休業は全労働者数の0.6%ですから、教員は2倍以上の割合で精神疾患にかかっているということになります。)
③年代別で見ると20歳代が最も多く、新任教員が1年未満で退職する理由の約3分の1が精神疾患によるものと考えられること。若い教員ほど心を壊されやすいということ、これも深刻です。
■実は前日12月20日の朝日新聞は「教員の給与増2案・現場ため息」という見出しで、文科省と財務省の教員の「賃金改善案」について報道していました。
①文科省案は教職調整手当を4%から13%にすることで教員のなり手を増やそうという案。…しかし定額働かせ放題の「給特法」は維持されるので、現場は長時間労働の状況は変わらないだろうと反応しているとのこと。
②財務省案は仕事量を減らして時間短縮ができる度合いに応じて教職調整手当を10%に増やしてゆき、将来は「給特法」の廃止も考えようというもの。…しかし、そもそも仕事量が減らないのでこれは「絵に描いた餅」だと現場は反応しているとのこと。
更に、この記事では「時間外勤務が毎月80時間を超えていた5年ほど前、妻から『あなたといる意味がない』と切り出されて離婚した」という東京都内のある中学校教員を紹介しています。離婚するほど「熱心な教員」にならないとやっていけないという笑えぬ話が当たり前に転がっているのなら、若者が教員になろうとは思わないでしょう。
■私は1985年に先輩教員を自殺で失い、8年間公務災害認定闘争を闘いました。もちろんその頃は「精神疾患の労災認定基準」なるものがありませんでしたから、闘いには勝てませんでした。しかし、その頃調査した「公立学校の教員の精神疾患での休職数」の統計があります。(後掲のグラフです。)
①1979年にはたったの664人でした。現在の10分の1以下です。
②1986年に1078人となり1000人のラインを超したと思うとぐんぐん増えてゆきました。2009年に5458人となるまでの増え方は異常です。
③しかしその後は2020年の5180人まで高原状態をキープしています。
④そしてこの3年間、また急増しています。2022年に初めて6000人を超えて6535人になったかと思うと2023年に7000人を超えて7119人になりました。
■②の教員の精神疾患の異常な急増期は「新自由主義」がはじまった時代とぴったり重なります。日本の社会全体が「格差社会」になり、「一億総中流」が壊されていきました。地域も家庭も荒廃しました。…困難を抱える子どもも当然に増えてゆきました。学校は社会の鏡、社会の矛盾がそのまま持ち込まれます。教員の仕事は増え続け、更にその上に、教育制度や教育内容の「新自由主義的改変」が持ち込まれました。
子どもは競争漬けの中を生きねばならなくなります。教員と子どもの権利を守ろうとする教育労働運動は「日の丸・君が代」問題で大弾圧され、職場に労働組合が生きているところは希になりました。教員の生活も民主的な教育も守れない… 子どもの成長も保障してやれない公教育の現状がこうしてできあがりました。
(*④に見られる過去三年間連続の「記録更新」はコロナ禍で加重負担になった学校の状態を表現しているように思われます。)
■教員採用試験の倍率が年々減っている、教育学部の学生が教員になることをためらう比率が高まっていると伝えられているのに、どうして本格的な予算投入をやらないのでしょう?公教育は末期的状況にあって呻いていると感じます。… 軍事費を削って教育を立て直そうとは考えないのでしょうか!
*教育だけでなく、介護も医療もこんな状態にしておいて…「手取りを増やそう!」というほとんど無意味なスローガンに投票してしまうほど国民を貧乏にしておいて、軍事費を増やして何を守るのでしょうね?
国民の生活とは違う「国家なるもの」 を守って何の意味があるのでしょう?
(2024/12/21:出口研介)
<上記の文章は、管理人の友人である元高等学校教員である出口研介さんより許可を得て掲載したものです。12月22日のFacebookに投稿された文章です。>