スケッチブック

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最も好きな写真

2013-03-31 08:43:27 | 人生



ペロヤンの勇姿です (ルリビタキ ♀ 2011年1月撮影) 最も好きな写真です

今日3月31日は兄の命日でして、先日一周忌を終えました。そのことを記念して、
3月17日の記事でお約束したとおり、その続きを書きました。
駄文ですがお読み下されば幸いです。


現在は色々なタイプのヨットがあって、みな軽量だからチン(沈没)しても容易に復舷できる。
そして方位磁計や救命胴衣は必携でして、安全対策は優れている。
しかし、ヨット草創期であった昭和24年にはそんなものはなかった。
ディンギー(甲板なしで帆は一枚)とスナイプ(甲板ありで帆は二枚)の二種しかなかった。
もちろん救命胴衣も方位磁計もない。チンしたときの備品としては腰にはシーナイフ、
艇にはオール二本と水をかき出す柄杓2本が細引きでくくりつけられていただけだ。
いま思えばそれでもって、外洋に出ているのだから危険きわまりない。

私たちはディンギーに乗っていた。どっぷりと海水が入るタイプだ。
当時マストは一本ものの木材を切り出したものだからかなり高価なものだった。
これだけは失いたくなかった。しかし荒れる海ではマストは邪魔だ。
なくなくブーム(横棒)も捨てた。続いてラダーとセンターボードも捨てる。

二人で艇を復舷して立ち泳ぎをしながら水をかき出す。徐々に船縁が上昇して身軽な私が
よじ上り中に入る。どのくらいの海水をかき出したのだろう。風呂桶三杯ぐらいだろうか。
私たちは幸運だった。風は和歌浦の湾内へ向かって吹きつけている。いわゆる海風だ。
推計では、相当南へ流されているからこのまま進めば陸地は見えるだろうが、
海南市あたりへ行ってしまうだろう。私たちは和歌浦へ帰りたいのだ。

波の線と30度の角度をとって左へ左へと進んだ。木の葉のように揺れながらではあるが、
しっかりとした意志のある動きを始めた。左手に旅館街らしい家々が見てきた。
最悪の場所に漂着したのだ。そこは岩場で背後は切り立った崖だ。
兄は舳先にロープをくくりつけ、端を口にくわえて岩場を目指して海へと飛び込んだ。
たった二つ違いの兄弟だが、この頃の2歳は随分と違うものだと思った。決断が速い。
私たちには守るべきものが三つあった。それぞれの命とディンギーひとつ。

兄は難なく一つの岩によじ上りロープも確保した。それを見て私も飛び込んだ。高い波に
乗って岩を滑りあがる。が、引き波で体は引きずり込まれる。水中で体がぐるぐる回って
上下の感覚がなくなる。さんざん海で鍛えられているから、息を止めてじっと我慢をする。
肺に空気が入っている限り必ず人間の体は浮き上がるのだ。かなり離れたところに顔を出した。
それから後は、引き波のときには岩を蹴って背面飛びで遠くへと飛ぶ。兄は『ナイフを使え!』
と叫んだ。私はなるほどと合点をした。ナイフを横にして使えば体を支える道具になる。
兄の指示は正しかった。次の大波を待って岩場を押し上げられて、その瞬間
私はシーナイフを岩の隙間へと差し込むのに成功した。左手は指で支え右手はナイフで支えた。
つまりピッケルのようにして使ったのだった。はい上がる力がまだ残っていたのは幸いだった。



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19 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
遭難からの脱出 (korekore)
2013-03-31 11:29:47
まるで、小説を読むかのようでした。
polo様の文才に惹き込まれてしまいました。
映像も頭に浮かんできます。
荒れ狂う海からの必死の脱出模様。
冷静沈着なお兄様の判断が、功を奏したのでしょうね。
こんな冒険を経験しながら、少年は大人になっていくのでしょうか。


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korekoreさん、こんにちは (polo181)
2013-03-31 12:44:27
コメとを有り難う。
駄文を読んでくださって、心から感謝いたします。兄の死を悼み、二人で体験した
恐ろしい遭難事故を忠実に書き記しました。年が近かったのでともに行動することがままありました。
兄の的確な指示に従ったので命拾いしたのでした。そうでなければ、現在の私は存在しません。
当時は、今と違って外遊びが多く、一日中遊びほうけていました。お腹がすいたときと
眠いときにだけ家に帰りました。今の子供たちは勉強に追われて気の毒だと思います。
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凄い! (花ぐるま)
2013-03-31 16:35:24
急死に一生を得て~2歳違いのお兄様と一緒に
協力して、岩場をクリアーされたときにはきっと
ご両親も安堵されたことでしょう

映画のシーンを見ているようで本当に危機迫る
その時をお兄様は的確に、指示なさったようで
流石ですね
そんなお兄様を31日になくされてpoloさんも
落胆なさったことでしょう
こんなに素晴らしい兄弟がいらっしゃったこと、
誇りに思われるでしょう

今日のペロやんが素晴らしい写真ですね
今まさに飛び出そうという瞬間、よく撮られましたね
有難うございました
URLを入れるとgooブログは以前は受け付けてくれませんでしたが~今日は大丈夫でしょうか?
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上の文字を (花ぐるま)
2013-03-31 16:53:11
再度お邪魔します
URLを入れてもコメントが入りましたので
上の赤い文字を消していただけたらと思います
パソコンに早く退院していただかないと不自由ですね
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こんにちは (ポージィ)
2013-03-31 17:07:30
お兄様のご命日に、ヨットでお二人九死に一生を得られた思い出のお話の続き
息をのむ思いで読ませていただきました。
ほんとうに、なんという体験をなさったのでしょう。無事お帰りになれてよかったです。
このような体験の共有は、お兄様とpoloさんとの絆を、より強く深いものに
したに違いないと思います。それだけに、お兄様の旅立ちは、
どんなにかお辛く寂しいものだったかとお察しするに余りあります。

ペロやんの、今まさに飛び立とうとしている瞬間のお写真、すばらしい一枚ですね。
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花ぐるまさん、こんばんは (polo181)
2013-03-31 17:21:33
コメントを有り難う。
この後、二人でヨットを引っ張りながら、磯伝いに海岸線を進んで船大工の小屋に到着したのでした。
今思えば、私が引き波に飲み込まれてもまれている間はとても苦しくていまか今かと待ったのでした。
生命の危険にさらされた時だったと思います。シーナイフをピッケル代わりに使うことを指示した兄は
命の恩人です。早いもので、兄が逝ってからもう丸一年になります。私が一家の最年長になりました。

ペロやんは私にとって特別な存在です。しかもこの写真は、もう日が暮れかかっている
薄暗いときに撮影したものです。全体の色がそれを表していると思います。
そうそう、貴女の現在のブログへは私は入れません。私の超小型のPCは、入れないのです。
デスクトップ型のPCは修理に一ヶ月かかります。ですから、
貴女のブログにコメントできないのです。申し訳ありません。
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ご命日に ()
2013-03-31 18:42:44
こんばんは^^;
今日はお兄様の命日でしたか。こうして九死に一生を得た思い出を綴り、感慨深いものがあるでしょうね。
まるでドラマのよう、ハラハラしながら読ませて頂きました。
この様なアクシデントはよりお兄様を尊敬し絆を強めたのではないでしょうか。
今があるのもお兄様のお陰、ご命日にpoloさんの一番お好きなペロヤンの勇姿を見せてあげられる
すばらしい感謝の気持ちの表れですね。 合掌
返信する
ポージィさん、こんばんは (polo181)
2013-03-31 21:20:39
コメントを有り難う。
長い駄文を読んでくださって、感謝しております。本当に有り難うございました。
兄とは年が近いので、喧嘩ばかりしておりました。ただ、ヨットで出るときは、私は従順でした。
経験と操舵術に格段の違いがあったからです。兄が去年意識をなくしてしまった時に、
耳元で、「ジュjンキチだ、こっちへ戻ってこい!」叫ぶと、口を開けて何かを話そうとしました。
それから後、6日間昏睡状態で、戻らぬ人となりました。一家の最年長となった今、
やっと、これまでの兄の気持ちが分かるようになりました。事業で華々しく活躍した
時期もあったので、振り返ってみて、良い人生だったと思います。
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紅さん、こんばんは (polo181)
2013-03-31 21:39:17
コメントを有り難う。
長い駄文を読んでくださって、感謝しております。六十数年まえの出来事です。
どうしても忘れることのできない恐ろしい事故でした。ちょっとしたロープの扱いを間違えた
ことによる沈没でした。兄は、決してその誤りを責めることなく、現実対処に懸命になりました。
私たちは最善の策を選び続けたので、目的を達成することが出来たのでした。
高価なマストに恋々としていたら、生還できていません。捨てるという選択は厳しいものでした。
よく分かってくれましたね。もっとも好きな写真を兄の命日に捧げることにしたのです。
ペロやんはもはや現れない。この撮影の瞬間は二度とこない。それを献花としたのです。

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こんばんは (kogamo)
2013-03-31 21:51:07
コメントが遅くなりました。
仲の良いご兄弟での若き日の出来事を思い出されながら、お兄様を偲ばれて、お兄様も遠くから微笑んでいらっしゃることでしょう。
大変な体験をされたことが、まるで映画のストーリーのように感じて、ハラハラしながら読ませて頂きました。
お二人の強い絆のお力で戻られたこと、大変感動いたしました。
今の子供たちは、甘やかされてなんとひ弱なことでしょう。
へロやんの勇姿、カッコいいですね。
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