ー 世 間 話 ー
世間話をする人が少なくなった。
知らない者同士が居合わせるクリニックや床屋の待合などでは入ってから出るまで申し合わせたように皆ダンマリを決めこんでいる。
余程忙しいのかと思って手元を見るが別段書き物をしている様子はない。さては何か悩み事でもと見る目を変えてみても、顔つきは至っておだやかである。
昔、子どもだった頃、田舎の床屋はにぎやかだった。「いらっしゃい!」から始まってジュースや菓子を出してくれ、椅子に座ると「お父さん元気?」。
話が途絶えることはなかった。
そんな子ども時代を過ごしたから、昨今のダンマリは異様に感じる。
先日床屋に行った。年配のおばさんと若いお兄さんのふたりでやってた。おばさんの方は「〇〇になってまーす。ハーイ」とよくある自分が言ったことに自分で返事をする癖のある人。好きではない。おばさんに当たりませんようにと神仏に念じていたら願いが通じてお兄さんが呼んでくれた。
座って、「お願いします」と声をかけた後、「何時までやってんの?」と訊くと「7時までです」。「えーっ、つらくはないかい?」・・・。
後は肩の張らない言葉のやりとり。思いがけない苦労話が聞けたし、向こうの話にこちらが吹き出す場面もあった。
なぜダンマリばかりになってしまったのか。
土地柄かもしれない。「知らない人と話してはいけません」。子どもの頃親に言われことばを未だもって引きずっているのかもしれない。しかし知らない人と話をしないでは商売も始められないだろうし、嫁さんだって探せない。