ー 嫁 の 条 件 ー
「たそがれ清兵衛」
藤沢 周平 新潮社
❝ 本日、わざわざここに出向いたのは余の儀にあらず。お前に縁談持ってきた。一刻も早く働き者の嫁もらって、このようなみっともない暮らしから抜け出さねばならん。・・・ ただし、色白であるとかべっぴんであるとか、そのようなぜいたくは言えぬことはお前もわかってんな!
なーに、体が丈夫で尻がでかく、子どもをたくさん産む女が一番。顔なんざあればいい。この話進めるぞ。文句あるか! ❞
先日 放映された時代劇、「たそがれ清兵衛」の一場面である。
真田広之演じる貧乏侍清兵衛の所へ、丹波哲郎演じる本家の主人がやってきて早く後妻をもらえと意見をする。
こわもての丹波哲郎が大声でまくしたてるのを、真田広之が神妙に聞いている。思わず吹き出してしまった。
さて、嫁の条件である。
昔は家と家の結婚だったから、本家の言うことには重みがあっただろうし、家同志のつり合いも大事にされた。 ❝ 顔なんざあればいい ❞ は言い過ぎにしても、昭和になっても娘に「おまえの嫁入り先は決まっている」と言う親がいた。
ところが時代が下って令和の今、嫁、あるいは嫁予備軍の方が婿の条件を決めているやに見える。やれ、婿も料理を作るべきだ、おむつを替えるべきだ、お迎えに行くべきだ・・・。
だれが言い出したか知れないが、察するにいわゆる “ 専門家 ”が アメリカあたりで夫が家事に割いている時間を調べ、これをテレビや新聞が執拗に取り上げたせいだろう。
他国がそうしているからといって、こちらもそうしなければならないことにはちっともならない。
また、嫁やその予備軍があまり「家事、家事」と言い過ぎると、婿またはその予備軍は「家事はやる。そのかわりそっちもこっちと同じだけ稼いでくれ」と言うだろう。
順風満帆の結婚生活は難しい。
特に子どもができると女は変わる。というより、本来の女が姿を現す。一方、男はロマンチストである。いつまでも ♪ 妻をめとらば才たけて、みめうるはしく、情けある ♪ 世界にいる。