「難病モノが嫌いなオレでも、この映画はアリです」
「死にゆく」ことをテーマにしたドキュメンタリーが見たい、と常々思ってました。
「死」そのものがテーマとなっている映画は、それなりにあると思うんですが。
人がまさに死んでいこうとする(「死ぬ」のではなく、これから「死へ向かっていこう」とする)ことを、撮り続けた映画を見たいと思っていたんです。
この映画は、監督・砂田麻美の父親・砂田知昭さんがガンを告知され、臨終に至るまでを捉えたというドキュメンタリー。
まさに自分が見たいと思っていたテーマの映画でした。
っていうか、そんなところをずっと撮影していたな、と驚きもしましたが。
この映画のことを知り、かなり期待しながら見にいったんですが……この映画はイイです!
余談ながら、「死」を演出に使った、難病モノのお涙ちょうだい映画は大嫌いなオレですが。
この映画は好きです。
というわけで、以下にネタバレ――といっても、結末は「死」と明らかにされているんですが――感想です。
まず、何よりも主人公の「父」のキャラ、存在そのものがこの映画のウエイトの大部分を占めてます。
死を宣告されてもなお、段取りとユーモアを忘れない父のキャラクタ(を反映した監督・砂田麻美によるナレーション)が、この映画を覆う雰囲気を作っています。
おかげで末期ガンを患った主人公であるにもかかわらず、じめっとしたウェットな作りにはなっていません。
むしろ父のキャラに思わず、感情移入してしまいます。
でも、父が時折見せる表情のそこかしこに、やはり死の影は見え隠れしているのも事実。
それは家族の態度などにも現れていて、まるで父の心情の合わせ鏡のようにも見えます。
特に顕著なのは、長年連れ添ってきた妻の態度(過去に撮った映像や写真も使って、二人が過ごした時間の流れもある程度は描かれています)。
父の前では気丈に振る舞っているつもりだけど、明らかに精神的に参っているし、弱っているのもわかります。
トレーラーにもある、父が病床で最後に言葉をかけるシーンでは、これまでの経緯がわかっているだけに涙が出ました。
この映画は、父の「エンディングノート」にしたためられた「死へ向かって自分がすべきこと」を追いかける、という作りになっているんですが。
このエンディングノートが、うまく小道具として機能していたのも面白かったです。
臨終の間際、エンディングノートに詳細は書いてあるはずなのに、父のパソコンからはなぜかデータが消えていた……。
「どうしよう」という息子に対し、父はそれに備えてバックアップを取っていたことを伝える――このエンディングノートを巡るやりとりだけでも、いろんなものが透けて見えました。
一人の人間が死んでいく。
それにまつわる厄介ごとや面倒ごとや、長年の思いや感情や、人の縁とか、いろんなものが見えてくる映画。
もちろん、これは「父」の場合であって、一人ひとりの死にゆく様というのは異なっていますが。
でも、そのなかの一例を見事に捉えたドキュメンタリー映画の傑作だと思いました。
『エンディングノート』(映画館)
公式サイト
監督:砂田麻美
出演:砂田知昭(監督の父)、他
点数:8点
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