甲斐荘楠音(かいのしょう・ただおと) 『横櫛』
この絵に描いたような(笑い)怪しい微笑みを浮かべた女人。シロガネが、学生時代、本屋で見た某本の表紙絵。とても怖い((( ;゚Д゚)))本でした。其の絵を描いたのが、甲斐荘楠音氏。しかしこれ、試作品でして、オリジナルの絵は、甲斐荘氏が後年、絵が傷んで劣化していた為、(顔の部分を)書き直してしまったのです!!それがこちらです。
なんという事でしょう~~!?全然別人の女性になってしまいました。ご本人が、もうその時、絵を描いていらっしゃらなかったので、画力が衰えてしまっていた為です。
でもあのお白粉の下には、この怪しい微笑みが、隠されていると思うと、人の心の奥底というのが、覗き見るような気持ちがしました。それで、この絵を上皇后陛下のお顔に使用しようと思ったのです。
二の姫宮様と若宮様のお二人が、上皇后陛下のヒステリックに捲し立てる言葉のほとんどを聞かれていたと知られた事を聞きまして、流石の上皇后様も大変、動揺されまして、崩れるようにその場に倒れて込んでしまいましたが、直ぐに皇嗣殿下と妃殿下が御支えになられました。
「貴女達は、そうまでして、わたくしを悪者にしたいの?そんなにわたくしが憎いの?あんまりだわ。酷いじゃない」
そうおっしゃられました。周りが、そのお言葉を聞きまして、どう思うかなど、お考えではない有り様でした。
「・・・・・・・・」
ご自分は、飽くまでも『被害者』というお立場なのです。上皇后様は、愛しい孫達にとっては良き祖母、理解のある祖母という態度を(もうバレバレでしたが・・・・・)取られていらっしゃいました。
そのせいで、一の姫宮様のご結婚問題の長い拗れの、原因となったので、皇嗣ご夫妻には、誠に困ったお方でいらっしゃいますが、しかしそれでも、どうにも助けずには居られないのでした。
「大丈夫ですか、おたーさん。全く(怒)⚡エリザベス女王じゃないんだから、お年の事も考えて貰わないと、こんな朝早くから・・・・・」
「あら、80代なんてまだまだ若いわよ」 dyエリザベス女王陛下
「わたくしが80代の時は全然元気で公務に行事に参加して居ましたよ」 by故エリザベス皇太后(クイーン・マザー)
「例え80でも90になっても何がなんでも、王妃(クイーン)になるわよ。最後に生き残るのは私よ」 by(世界一諦めない)カミラ公妃殿下
「全く、あれだけ捲し立てれば、倒れるのも無理ないでしょう。お立ちになられますか?」
「上皇后様、大丈夫で御座いますか?お気を確かに・・・・」
皇嗣両殿下は、それぞれにお声を掛けられました。上皇后様は、何かを仰られようと、されますが、上手くお言葉が、出ないようで、アーーという声しか、おっしゃられませんので、妃殿下は、大変ビックリなさいまして、
「上皇后様、わたくしの顔が分かりますか、お目がぼやけて見えていらっしゃいませんか?」
「宜しいですか、しゃ・ひゅ・みょ・にゅ・ひょと仰って下さいませ」
妃殿下は、上皇后様のお顔を真剣な表情でご覧に成られて、
「しゃ」
と、おっしゃいました。すると、上皇后様も
「しゃ」
と、言われて後は、妃殿下の言われるお言葉をしっかりとお答えになれました。もしや脳梗塞でもと、思われていた、妃殿下ですが、呂律が回らないということは、全く無い上皇后様のお答えに、ほっとされました。
「単に、頭に血が上られただけだろう。唐糸さん、済まないが、直ぐ院の御所に連絡して侍医をこちらに来てもらうよう、連絡して下さい」
「あっはい只今」
上皇后様が倒れられた時、もしやと思って血の気の引く思いをしていた唐糸ですが、妃殿下が、冷静に対応されるご様子にただただ感嘆とした思いで見つめていました。
しかし皇嗣殿下の指示に、我に返った心持ちで、急いで自身の、高齢者用のスマホで、院の御所の上皇職へ連絡をしました。
皇嗣殿下は、落ち着いておられましたが、妃殿下のお言葉にしっかりとした声で答えられる御母宮様のご様子にやはり、ほっとされ、又皇嗣殿下は上皇后様のお手を握られていましたが、そのお手に痙攣もなく、矢張安心されたのでした。
二の姫宮様も若宮様も、ご両親殿下のそば近くまでこられ、お二人に支えられていらっしゃる上皇后様のご様子にやはり不安を覚えられて、
「おばば様、大丈夫かしらね。脳梗塞とかでは無いみたいだから、ほっとしたけど」
「小姉様、(二番のお姉様という意味)脳梗塞とかだと、言葉が、上手く出なくなるのというけど、おばば様、ちゃんと言葉が言えたから、大丈夫だよね」
二人の後ろに控えて守護神の様に、姫宮様、若宮様を守っている、花吹雪は、
「ご心配遊ばされますな。あれだけしっかりとお言葉が、言えるのなら、何のご心配もいりませんわ。あの時みたいに、お言葉が失われたなんてことは無いで御座いましょう。本当に宜しゅうございました。あの時みたいに、同じくお言葉が出ないなんて事になられたら、又皆様がなんと非難されることことか・・・・・」
「本当に、しっかりとしたお言葉が仰ることが、お出来に成られて、とても安心致しました」
花吹雪は、上皇后様に聞こえる様に声を大きくして言いました。
二の姫宮様は、その意味を察してクスッと笑われましたが、
若宮様は何の事だか分からずに、不思議そうなお顔をなさっていらっしゃいました。
「?」
妃殿下は、「花吹雪さん・・・・」と小声でおたしなめになられましたが、
皇嗣殿下は、(本当にその通りですね)というお顔で上皇后様をご覧になられました。
当のご本人は、
「まあ・・・・・八十路を過ぎた年寄りが、倒れたというのに何て事をいうの・・・・・一体この家は・・・・・どうなっているの」
と、弱々しいお言葉ながらも、口調はハッキリとおっしゃられて居ました。しかし皇嗣殿下は、
「お立ちになられますか?此処にいらっしゃるとお寒いですし、お居間の方へ行かれたらいいと思いますが」
皇嗣殿下がそう仰ると、上皇后様はお立ちになられましたが、いかにも弱々しいご様子で、皇嗣両殿下に支えられてやっとという有り様ですが、しかしなんだか、お芝居めいても見えました。
御母宮様のそのご様子に対して、皇嗣殿下は、
「若宮、お前が、おばば様を、おんぶして居間までお連れなさい」
「え?」
というお顔を若宮様は、なさいました。当然です。しかし上皇后様は、それ以上に驚愕されて、
「どうしてです。そんな事をされなくとも、わたくしは自分で歩きますわよ」
今度は、強い口調で言われると、両殿下を振り払ってお歩き始められましたが、しかしよろけよる感じで、直ぐに壁に手を添えられました。
「お倒れになられたばかりで、いきなり歩かれるのは無理でしょう。俺がおたーさんをおんぶしてもいいのですが、背が高いですし、若宮なら丁度お楽におぶされるはずですし」
皇嗣殿下は、若宮のお顔をご覧になられておっしゃいました。
「・・・・・・・・」
若宮は、妃殿下の身長はもう越されていらっしゃいましたが、父宮のお背には届いて居ませんでしたので、父宮の『背が高い・・・・・』という言葉に少しムッとしたお顔をされましたが、
そうなるなとお察しの父宮様でした。そして、
「このなかでは、若宮が、一番力がありますからね。上皇后様もその方が、ご安心でしょう。なっ」
そう言われて、お側の妃殿下に同意を求められられました。
「はい・・・・・そうで御座いますね。若宮は、わたくしをおんぶすることが出来るのですから、大丈夫ですね」
妃殿下も若宮様のお顔をご覧になられて、そうお答えになられました。
そして、二の姫宮様は複雑な表情の若宮様に、
「宮、おばば様をおんぶされたら・・・・・」
と、言われました。
若宮様は、複雑この上無いという心持ちで、ご自分が産まれる事を『望んで居なかった』と言いはなったおばば様のお側によられまして、腰を屈めて、『どうぞ』と小声で、仰られました。
上皇后様は皇嗣殿下と妃殿下をジロリと見つめて、
黙って若宮様のお背にのられました。若宮様は、『よっ』という感じで、軽々と立ち上がれまして上皇后様をおんぶされまして、其のままお居間へ向かわれました。その歩みは普段と変わり無いご様子でした。
皇嗣両殿下は、後ろから支えられて居ました。その時、
「どうだ、おばば様は、重いか?」
皇嗣殿下が、そう聞かれた時、若宮殿下は、
「いいえ、全く。軽いですよ。とっても」
そう普通にお答えになられました。
皇嗣殿下は、『軽い』とこと投げに仰られた、若宮殿下のお言葉を聞きまして、「そうか・・・・おばば様は軽いか・・・・」と呟かれ、妃殿下のお顔をご覧になられまして、両殿下共に、年月の長さと改めて、若宮殿下のご成長を感じられました。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
お居間に着かれると、二の姫宮様や、唐糸達がソファーに上皇后様を寝かせようと、枕や、薄い掛け布団等を用意して居ました。その準備をしている間、若宮様は、上皇后様をそのまま、おぶさって居ました。
上皇后様は物凄く気まずい思いで、いらっしゃり、若宮様も何も上皇后様に言葉を掛けず、『じっと』準備を調えている様子をご覧になられて居ました。
上皇后様は若宮様のお背から、なんともいえない『圧』というものを感じられ、若宮様におんぶされている、お時間が大変長く感じられました。
「・・・・・・・」
普通なら、末の孫におんぶされている祖母は、孫の成長を感じられ、嬉しく思うものなのですが・・・・・・・
菊池契月 「媼(おうな)・春寒』
上皇后様は、素直にそう思うことが出来ません。その時、唐糸が
「お支度が整いました。若宮様、上皇后様を降ろして差し上げて下さいませ」
『はい』と言われて、若宮様が静かに腰を下げて上皇后様を下ろされました。
二の姫宮様が直ぐにお側に来られまして、
「さっおばば様、どうぞ。望んで居なかった孫のわたくしでお嫌でしょうけど」
二の姫宮様はそんな事をさらりと仰られまして、上皇后様のお手を引かれて、ソファーへと導きました。上皇后様は、そんな二の姫宮様の言葉を聞かれても、何も言われず、なすがままにされていたのですが、横になられますと、二の姫宮様とそして・・・・・・若宮様のお顔をご覧になられまして、
「二の姫宮さん、若宮さん、有り難うね」
と静かに仰せになられまして、お目をつぶられました。
二の姫宮様は『まぁ』というお顔をされまして
「いいえ、大した事もないようで宜しゅうございました。元は、おもう様達が、お騒がせしましたので、こちらこそ申し訳御座いませんでした」
そう仰られますと、上皇后様のお側にいる若宮様に小声で、
「悪いけど、先にシャワーを浴びたいの、良いかしら。でも昔みたいに一緒にシャワーを浴びる?(笑い)」
「何言ってんだよーー、冗談じゃない」
この状態で、何をたわけた事をいってるんだ?という感じの若宮様の口調と、若宮様のお気持ちを思い、少しでも逸らそうと、わざとからかわれる、二の姫宮様のお声、そんなやり取りをする日常のお二人の声が上皇后様のお耳にも入ってきました。
(朝、早くから賑やかな事・・・・・)
しかし若宮様は上皇后様にはやはり複雑な表情で、
「いいえ、どういたしまして」
そう静かにおっしゃられると上皇后様に対して一礼されて、お居間を出て行かれました。そんな若宮様のご様子を丁度、妃殿下の指示で、上皇后様の為に御膳所から、黒漆の『耳盥』と、濡れタオル等を持ってきた花吹雪が見まして、
『耳盥』です。
「若宮様は、本当にお優しいですね。わたくしでしたら、あんなお婆さんは、そのまま、姥捨山に棄てに参りますわ」
そんな事を言いったのでした。しかし若宮様は、花吹雪をじっと見られて、
「花吹雪さん、上皇后様に対して、そんな言い方はとても失礼だよ。勿論、オレも分かっているけど(嫌われている事)・・・・・・、でもオレのおばば様なんだからね」
若宮様の意外なお言葉を聞いた花吹雪は、
「これは・・・・・大変失礼な事を申してしまいました。お許し遊ばせ」
そう言いまして若宮様に頭を下げましたが、しかしあれだけ、ご自分を否定した上皇后様に対して、そう言うお言葉が出るとは予想外でした。花吹雪は心のなかで
(やはり、血の通った孫君でいらっしゃるのだわ。こんな良いお子をどうしてあの方は、全く・・・・・)
・・・・・・・若宮様のお優しさというべき態度に改めて深い愛情を感じた花吹雪でしたが、又上皇后様に対してやはり腹立たしさを覚えたのでした。
花吹雪は、この若宮様は、お生まれに成られるべくして、お生まれになられたのだと、若宮様のお顔を見てもう幾度めかの思いをしましたが、しかし惜しむらくは、ご誕生がもっとお早ければ、今の皇室も大分違ったはずだと、又改めて思ったのでした。それでも・・・・・
(でも若宮殿下がいらっしゃて、本当に良かった。皇室だけでなく、皇嗣家もどれだけ救われているか・・・・・・)
佐々木尚文 『稚子文珠』
(正『まさ』しく、天佑の皇子様でいらっしゃるのるのだわ)
花吹雪はそう思いました。一の姫宮様のお相手の金銭問題、そこから見えてきたそのお相手の人間性・・・・・・・それは多くの国民の嫌悪感を産み出し、それまで皇嗣家が積み上げてきたものを一気に崩れ去る程のものでした。
川端龍子 『爆弾散華』
そうしたなかでも一の姫宮様は、執念と云うべき意地を張り続けて、とうとうご結婚されました。
池田輝方 『お七』
ご結婚されて、一息つく暇もなくそれから、内親王の序列の問題が有り、皇嗣ご夫妻は、世間からの批判も厭わず、女一の宮殿下よりも、ご結婚後も内親王としてお残りになられる、二の姫宮様を今上のお上の皇女でいらっしゃる、女一の宮殿下よりも上位のお立場をと強く主張されました。
大変な非難を浴びましたが、結局は二の姫宮様が内親王の筆頭となられました。それを心良く思わない人々は激しく特に妃殿下をバッシングをして、今日まで至るわけです。
吉村忠夫 『地獄変』
側にお仕えする花吹雪達は、この数年の『嵐』を思い返すと我ながら良く、今この場所にいるものよと思うのです。
酒井抱一 『秋草図屏風』の一部分
花吹雪が、上皇后様の元に、耳盥等をテーブルの上に置いて、お居間を出た時、侍女の松波(しょうは)が、
「花吹雪さん」
「皇宮の方やけど、まだ朝のお晩(ご飯・御所言葉)食べてないんやて。栄養ドリンクだけ飲んで、こちらまで、走って来たんや。上皇后様のご様子はどう?まだこちらに居られるんやったら、こちらで食べさせたいと思うやけんど、どうやろ?」
松波は、瑠璃紺の縞お召しのエリを覗かせた割烹着姿で老女・花吹雪に尋ねて指示を仰ぎました。
「まだ、何も食べていなかったの?気の毒に・・・・・上皇后様は、まだしばらくは、こなた(こちら・御所言葉)にご逗留遊ばされるだろうし、食事をこちらで頂いても、構わないでしょう。両殿下には、私から伝えるわね」
そう松波に返答しました。妃殿下は上皇后様のお側におられましたが、皇嗣殿下は、お隣の和室におられました。若宮様は、一旦2階の自室に戻られましたが、スマホを手に持たれると、又下に降りて来られまして、父宮様のいらっしゃる和室にいらっしゃいました。
皇嗣殿下は新聞を広げておられました。
真剣な表情でお読みになられている皇嗣殿下に声をかけづらく、丁度若宮様がお側にいらっしゃいましたので、皇嗣殿下と別の新聞をお読みになられている、若宮様の方に声をかけまして、若宮様を通じて、皇宮警察官の事を伝えました。
これを聞かれて、ご機嫌がお悪くなるだろうと、思っていた花吹雪ですが、若宮様から話を聞かれて案の定ご機嫌がお悪くなられましたが、
若宮様がいらっしゃいますので、それ以上の事はなく、若宮様は、花吹雪の所までいらっしゃり、
「おもう様からお言付けです。『朝から無理をさせて申し訳有りませんでした。朝食は、遠慮なく取っても構いません。ご迷惑をおかけしました』そう、伝えて欲しいとの事だよ」
「はい、確かに承りました。有り難うございました」
花吹雪は、若宮様にお辞儀をして、奥の職員の 部屋へと行きました。
花吹雪と入れ替えるように、院の御所から侍医が来たという知らせが来ました。その知らせを受けとると妃殿下は、一緒に付き添っている唐糸に小声で、
「わたくしが、出迎えるわ、その方が良いから」
そう言われると、皇嗣殿下に小声で、何かを仰りますと、侍医を迎える為に、奥向きの玄関へと行かれました。
直ぐに車が・・・・・軽車が来まして、院の御所の侍医が、そして華やかな訪問着に道行を召された院の女一の宮殿下が、降りていらっしゃいまして、
伊藤小波 『秋の夜』
直ぐ妃殿下の元に行かれて、
「ご機嫌よう、君様には、早朝より、大変な思いをさせてしまいまして、誠に申し訳有りませんでした。お許しくださいませ」
そう言われると、皇嗣妃殿下に深く頭を下げて、院の女一の宮殿下は、お詫びを申し上げたのでした。
其の24に続きます。
中村大三郎 『ピアノ』