本日の美術展レビューは、刈谷市美術館で開催中の日本を代表するイラストレーター「和田誠展」です。
僕がアートの仕事に興味を抱き、現在の美術商の仕事をするきっかけになったのは、学生時代に目に触れることが多かったイラストレーターの世界でした。当時は昭和後期の70年代から80年代、雑誌を通じてイラストレーターを知り、空山基、横尾忠則、宇野亜紀良、及川正通、安西水丸さんなど、個性的な作風で雑誌や本の表紙を飾っていました。中でも東京イラストレーターズクラブの創設者のひとりとして黎明期から活躍し、イラストのみならず装丁やエッセイ、アニメ、作曲、映画監督など幅広く活躍されたのが今回の展覧会の主役、和田誠です。
和田誠は1936年大阪生まれ。世田谷の小学校に転入後、漫画や映画の世界に没頭、武蔵野美大図案科に入り学生時代から才能を発揮し、広告の世界で活躍、当時シャンソン歌手であった料理家の平野レミと結婚した頃からクリエーターとしての幅を広げていきます。若い世代にはトレイセラトップスの和田唱やその妻の上野樹里、二男の嫁で料理家の和田明日香などの父で知られてます。
今回の展覧会は、20代の学生時代から2019年にこの世を去ってからの60年に及ぶ活動を網羅した回顧展となっています。ハイライトのデザインから映画や演劇のポスターに絵本、白石和彌監督もリスペクトした作品「麻雀放浪記」の資料や映像、ライフワークと言える週刊文春の表紙絵など壁面いっぱいに飾られ、柱を使った制作エピソードや親交のある人々の証言など、どこを切り取っても楽しめる空間となっています。あらためて、氏のクリエーターとしての幅広さと深さに感嘆しました。
僕自身、今の昭和ブームには少々疑問を持っていますが、デザインにおいては当時のクリエーターの仕事の先進性と個性的な表現は現在にアートの世界に影響を与えているように思います。その意味でも昭和に活躍したイラストレーター」やクリエーターの仕事を直に観る絶好の機会が今回の和田誠展です。
今回の展覧会がここ刈谷市美術館が最終展です。イラストやデザインの世界に興味がある方はぜひ見逃すことなく足を運んでください。
「和田誠展 WADA Makoto」展示風景(東京シティオペラギャラリー)