あげちうのブロマガ

不定期連載「ナオヤ戦記 ~奈落の巨顎~」 第二話

「ナオヤ戦記 ~奈落の巨顎~」 

第二話「悪夢は始まった」

1「勇者は自覚がない」

薄暗い曇天に支配された、この「リーカー」と言う地域には今、人の姿が見えなかった。眼前には町、と言って良い集落は見えていたが、見えるのは尖った頭部に大きな顎を持ちつつ、或いはカエルの様な皮膚、というべきか、青に近い緑の皮膚に覆われた、二足歩行の怪物でしかなく、それらは獲物を探すかのように周囲を見回しながら無気力に、数多、徘徊していた。そんな悪夢の様な空気の中に一人、頭まで黒いフードを被った人物が、その町までの道を歩いていた、周囲の怪物らも意に介さず、むしろ彼らはおののくように、自ら避けているようだった。フードの中も、口までシェードを覆っていて…表情は垣間見える視線にしか見えない。

「中々、しぶといね。トラッドの加護と言う奴か・・・忌々しい神め」

声は、女性の様だった。


「いや、何?つまり俺に、なんか怪物をやっつけてほしいって事?」

大池 直也は、今年で21歳には成る。高校は何とか卒業したが…親の勧めで入った大学は中退し、今は親の漁を手伝っていた。良くも悪くも昔からの環境だ、なじむ、というより当たり前の様に、今は親より先に漁の支度をする、そんな状態だったが。そんな経歴とは思えない程に、見た目は、それはヘレナの視線では、レイピアとかが似合いそうな、そんな風貌には見えていた。

「トラッド様は…そのように仰ってました。異世界アレス、そこから来る勇者なら、この悪夢を祓う事が出来る、と」
「誰だよ、それ」
『私だけど』

不意に直也の後ろから声があり、気配が無かった?為に驚いて振り返ると。そこには長身に豪奢な鎧をまとった、女性?が何か、透けた様な?直也の感覚では投影した映像の様な、そんな像としてそこに有った。この地域では主神として祭られている武神トラッドは、しかしそんな威厳を無視してそこにあり、そしてラフな口調で話を続けた。

『いらっしゃい直也。面倒に巻き込んじゃってゴメンね?ともかく、事はあなたの元の世界にも通じてくる話だから…まあ、ちょっと協力してもらえると嬉しいな』
「…いやまて、あんた…昨日夢の中に出てきた…?」
『”アレ”じゃ足りないかなーとは思ったんだけど、まあそう言う事だから。後は、ヘレナから話を聞いてね、私も一応神だから、あんまり人前に姿見せちゃダメなのよ、じゃね?』

徹底的にラフい説明で、そのままその女性は、まったく事態を把握できない直也を無視して消えてしまった。再び、ヘレナと二人だけになる。

「とにかく直也様、そう言う事ですので。服装も汚れてます、用意しますので、こちらへ」

ヘレナの、奇妙に嬉しそうな視線を前に、直也は事態を今も把握できなかった、ともかく。服は次第に乾きつつも逆に塩みを帯びて、不快感を増していた。それは少し、悪夢を思い起こさせた。


2「勇者、着替える」

扉の外の、その部屋の中では、ヘレナを中心とした神官の女性らが、ひそひそと、何かの熱の籠った会話を続けていた。

「わ、わりとポイント高くないですか?彼…」
「あの、トラッド神様は、なんで彼を?」
「詳しくは…でも、旧知の様な感じもしたんですよね、アレスと言う世界では、知れた人なのかも」
「勇者様か…」

そう、何かぼんやりする神官の少女に 微妙な危機感を感じつつ、ヘレナはふと気づいた。扉の向こうで歩く音がして。やがて、扉は開かれた。そこには、この地域では標準的な男性の服装に着替えた、直也が立っていた。

「シャワーかなんか使えるとありがたいんだけど・・・そう言うの無いかな」
「?それは、どんな?」
「いや、うーん…風呂場にある水が出るホース…って、まあないか、ここは現実じゃないんだよな」

それで、まだ少し濡れた髪をかき上げる。神官らの視線が集中する中、ヘレナは少し苦笑した。

「本来でしたら沐浴場が有るのですが…外部の水路から汚水を流されていて…今は使えないんです」
「汚水?」
「毒、と言った方が良いんでしょうね、ともかく私達には、あまり触れない方が良いモノです。シャグには、むしろ力を得られるという物らしいですが」
「シャグ?」

直也には、解らない話ばかり、だった。


ヘレナに促されつつ、それ相応の大きさで有る神殿から外に出る。外には今は曇天が広がっていて、薄暗かった。ともかく見た事ない…いや、ゲームのRPGでは馴染の光景、と言うべきだろうか?神殿の前には小さな公園くらいの広場があり、そしてその外にはレンガを基調とした街並みが続いていた。しかし、そこに有るのは多くのテントと、そして犇めくような…そして表情の暗い、今は直也の着ている服装に近い、そんな人々の姿、だった。神官らが、彼らに配給をしているのも見える。

「おいおい、震災かなんかか?なんでこんな・・・」

直也の問いに、表情を曇らせるヘレナ。

「トラッド神様と敵対する勢力のシャジャクが・・・数日前にこの町を襲ったんです。幸い、直ぐに結界を張る事は出来たのですが…この周りだけで。逃げ込めた人々はこれだけです。外には多くの犠牲者も出ていて…」

そんな話をしている時、不意に。街の奥の方から、人々の喧騒、というか騒乱だ、それが聞こえてきた。


3「それでもそれは勇者の様に」

黒いフードを被った人物が、何かを汲む様に手を開くと、そこには邪悪な、と言って良い炎が現れ、そしてそれは鈍く赤く輝きつつ膨らんでいった。彼女はそれを、眼前に見える光のシェード、そう言って良いモノに対して投げつけた。それは光のシェードにぶつかって、そして爆発を起こす。煙が晴れた時、その部分だけ光のシェードは消滅していた。その周囲から次第に補修はされていく、が。次の火球はそれよりも先に投げ込まれた、穴は、どんどん開いていった。そしてその開いた穴から逃げ惑う人々を追う様に、シャグの群れは、なだれ込んでいった。

「ヘレナ!結界が破壊された!!何とかならない?!」

遠くで起こる人々の悲鳴や騒乱に狼狽える直也らの前に、鎧を纏った女性が一人、駆け込んできた。ヘレナも狼狽えたが、それでも。

「結界を強化します、リーア、あなた方は何とか彼らをこれ以上、中に入れないで!」
「無理だ、もう入られてる!」
「何処だ?!俺に何が出来る?!」

女性らに割って入って、直也が声を上げた。それでも事態は直ぐに理解出来た。ともかく自分は、”この”事態をどうにかする為に連れて来られた訳だ、だとしたら、何かしない訳には行かなかった。

「連れて行け、俺も手伝う!!」
「こっち!ヘレナ、後頼んだ!」
「直也さん!?」

リーアはそう言って、直也を伴い騒乱の方へと走っていった。ヘレナは幾ばくかの悲痛を堪えつつも、仲間らを伴い、神殿の中へ戻っていった。

直也は、少し不思議な感じはしていた。体が軽い、その気に成れば屋根の上にでも飛び上がれそうな…そんな感じさえした。鎧を身に着けているとはいえ、先行したリーアをすぐに追い抜いていき、不意に気づいて立ち止まる。

「どんな奴らだ?」
「あ、あの…そう、シャグだよ!怪物。気を付けて?あいつら水のある場所なら何処からでも・・・」

そう、彼女が息を切らしつつ言った直後、それは現実のそれになった。街の中に流れる川は今は、何か赤褐色の剣呑さを纏う淀んだ色をしていた、が。やがてそこから何体もの、頭の尖った怪物と言って良い、大きさは動物園で見たトラ程はある?ただ印象は…そう鮫だ、”それ”が現れた。気づくと、直也とリーアは囲まれていた。リーアは鞘から剣を取り出しつつ言う。

「ナオヤ、だっけ?ごめん、右の道に詰所がある…そこまでは何とか切り開くから」

それは、ちょっと無理そうだった、一体のシャグが、リーアに襲い掛かってきた。リーアは何とか剣を振り回し、”それ”を追い払おうとはするが…、直也の方を護るには、あまりに相手の数が多かった。直也は周囲を見回すが、見えたのは道を敷く石や、或いはテントを創る際に使用したかの棒切れくらいだった、それでも直也は、石を掴んで。

そこで、直也は違和感を感じた。

直也はそれですぐ、その石を、リーアを襲おうとするシャグに向けて投げつけた。”それ”は見事にかシャグの頭部に命中し、しかしそれを、そのまま爆発する様に”粉砕”していた、シャグはそのまま後ろに倒れ込んで。状況の変化に少し呆然とするリーアだったが。直也の後ろからも、危機は迫ってきていた。

「ナオヤ!後ろ!」

”それ”で直也は咄嗟にしゃがみ込み、そこに有った棒切れを掴んだ。その途端、その棒切れは輝き始め、何かの力?それを宿した様に鈍く赤くオーラを発し始めた。彼はそれを横殴りに、襲ってきたそのシャグに向かって振り回した。鈍いというべきか、或いは暖簾を腕で押すような。そんな感触を残して、そのシャグは、単なる棒切れによって、その上半身を分離させられ…そしてそのまま燐光を発して消えてしまった。周囲のシャグが、何かの声?を上げ始めた。

まだ、街の外にいたフード姿の人物は。街の中で始まる剣呑の中に、一つの異物を感じていた。

「トラッドめ・・・勇者を呼んだというのか、忌々しい。まあいい、なら、あの世へ送り返せば良いだけだ」

直也の持った木の棒は、何かの燐光を発し続けそれは、直也にその、単純な話を理解させては居た。

ーーー

あとがき

ちょっと先行き解りませんが第二話何とか書けたんで、掲載。タイトルを色々あって「ナオヤ戦記」と改め、なろう系っぽさは捨てる方向で、果たして。テンション的には日刊っぽい気もしますが果たして。

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