最後の夜は温泉津温泉。
ガイドブックで初めて見た時は読めず、「おんせんつおんせん??」と首傾げた。
正しくは「ゆのつおんせん」と読む。
まずは宿に入ってひと休み。
ところが早々に穏やかではない事態に焦ることになる。
部屋がみっつ、繋がっているのだ。
お茶を飲んでくつろぐ部屋と、食事を取る部屋と、寝る部屋。
案内してくれた女性は慣れたもので「皆さんびっくりされるんですよね〜」とにこにこ。
彼女が去ってから連れと2人で予約画面を覗き込んで、宿泊プランを確認してしまった。
大丈夫。ちゃんと予算の範囲内である。
昔はガラス障子を出入口として使っていたところを、今はつなげて一つの部屋として使っているようだった。
今は法律の関係で建てられないという木造3階建ての古い旅館。
座ってお茶を飲んでいるだけで、贅沢な気分になる。
このお宿を選んだ理由は料理。
魚を中心に、旬の地のものが食べられるということでとても楽しみにしてきた。
とにかく盛り付けられた料理の見た目が美しく、そして美味しい。
私は目の前の食べ物に夢中になるあまり、写真を取り忘れてしまうことが多いのだが、この時はほぼ全ての料理を撮影することができた。
まずは見た目からいただく、まさにそんな感じ。
夕食の後は外に出る。
温泉津温泉を選んだ理由の一つ、石見神楽を見るためだ。
宿からすぐの神社では神楽の定期公演が行われている。
温泉津温泉のある大田市周辺では神楽が盛んで、いくつもの団体があるという。
秋を過ぎるとあちらこちらから、お囃子が聞こえてくるそうだ。
さすが出雲大社のお膝元。
神社に入ると、舞台の前に観覧席が用意されていた。
あらかじめ電話で予約した席は一番前。
舞台と客席の段差はほとんどなく、あまりの近さに期待が膨らむ。
この日の演目はみっつ。
源頼光の鵺退治、恵比寿様の鯛釣り、須佐之男命のヤマタノオロチ退治。
まず目に入るのは絢爛豪華な衣装。
ひとつひとつ手作りで、ものによっては数百万円のものもあるという。
演者は飛んだり跳ねたり、くるくると回転したり、とにかく動きが激しい。
他の神楽も見たことはあったが、ここまで動きが大きいものは初めてだった。
動くたびに衣装に縫い付けられた金や銀の糸がきらめいて、とても美しい。
最前列でじっくり見られて、非常によかった。
しかしながら、最前列だからこそのハプニングもあった。
最後の演目では、大きな龍が何匹も舞台の上を暴れ回る。
そして、舞台はそこまで広くはない。
目の前すれすれを竜の体が通過し、そしてほんの少し、轢かれた。
私の隣に座っていた女性はもう少し強めに轢かれていたが、楽しそうに笑っていた。
観光客向けということもあるのだろうが、石見神楽には客席を巻き込んだ演出がたびたびあった。
けむくじゃらの鵺が客席から飛び出して子どもが泣き出したり、恵比寿様がアメをまいたり、釣り糸をこちらにたらしたり。
会場が一体になり、時折どっと笑いも起きる。
神楽が終わると社中をねぎらい、「御花」と呼ばれるご祝儀を渡す時間が設けられる。
渡すかどうかは任意だそうだが、連れと相談し、「良いものを見せてもらった」という感謝を込めてお渡しすることにした。
神社を出て、温泉街をぶらぶら歩く。
夜も遅いということもあり、空いている店は少なかったが、ノスタルジックなまち並みを見ているだけで十分楽しい。
次回はぜひ明るい時に来て、じっくり歩いてみたい。
山陰旅行その7。に続く。
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