桜の蕾が膨らむ頃、お腹に宿り、桜の花が散る頃、居なくなった子。
その内、1回は自分が殺したも当然だった。
当時は正常な子供が生まれる確率は低かったし、それをおして生まれたとしても、あの時は子育てなんて無理だった。二人とも自分の事もままならなかったのだから。
毎年、桜が満開になると楽しそうな宴をする人々やニュースを尻目に、生まれなかった子に思いを馳せる。それは彼女にとっても同じだろう。いや、自分のお腹に宿っていたから、彼女の方が想いは強いに違いない。
「忘れてなかったんだね」泣きながら電話をかけて来た彼女が言った。
手にする事が出来なかった幸せは、他の幸せで埋め合わせる事は出来ない。
それは彼女も理解しているが、足掻いていたと言う。そして、やはり、埋められなかった事を改めて知り、絶望感に襲われ連絡して来たのだと言う。二人でケジメではないが、区切りをつける事をしようと提案したが、やるなら自分一人でやると言う。それはそれで異論は無い。
これからも桜を見る度、思うのだろう。もっと大きく、重い物を背負っている人が居て、そんな人と比べれば自分の物など笑われてしまいそうだが、これが一生背負っていく自分の十字架。
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