前編のあらすじ:
毎年一回の流しそうめん用竹切り出し作業のため今年も地元のお寺を訪れたひで氏。ファン付き作業着+蚊帳付き帽子という完全防備スタイルでグラインダー片手に半分に切った竹の節をとる作業中、どうしても奥まで取りきれない部分はグラインダーの安全カバーを外して対応。作業は順調に進んでいたかに思えた。
ここでもう一度私ひで氏のファッションを確認しておこう。
毎年一回の流しそうめん用竹切り出し作業のため今年も地元のお寺を訪れたひで氏。ファン付き作業着+蚊帳付き帽子という完全防備スタイルでグラインダー片手に半分に切った竹の節をとる作業中、どうしても奥まで取りきれない部分はグラインダーの安全カバーを外して対応。作業は順調に進んでいたかに思えた。
ここでもう一度私ひで氏のファッションを確認しておこう。
上着は風量調整可能な電動ファン付き作業着。蚊が好む暗い色を避けた上品なグレーだ。ズボンはゆったりとしたサイズで、足元はスネまで止めあげた地下足袋で軽快に動き回ることができる。きわめつけは晩夏の竹藪に大量に発生した蚊から身を守るための蚊帳付き帽子。蚊にかまれて最も不愉快な顔、そして首元を守ってくれる蚊帳はご丁寧に絞るための紐がついている。
そう、絞るための紐がついているのだ。
このイラストにもよく見るとこの絞りの紐が確認できる。
そして作業も佳境を迎えたその時。
それは一瞬の出来事だった。
突然ガクンと何者かに思い切り首元を引っ張られたような感覚のあと、
グラインダーが自分の手をものすごい勢いで離れ、
私ひで氏の顔をめがけて駆け登ってきたのだ。
そう、つまりあの紐がグラインダーに巻き込まれ、競り上がってきたのだ。普通は安全装置となる黒いガードがついているのでたとえ紐のようなものを巻き込んだとしても必ず止まる構造だが、この安全装置を「竹が綺麗に削げないから」という理由で私は外していたのだ。
顔まで来たグラインダーの轟音、そして黒い網を完全に巻き込んで暴れまくるそれはまさに獣のようだった。
うわあああとかたすけてーとか言える間はまだいい。
人間というのは本当に慌てた時は無言になる。
口元めがけて襲いかかってきたグラインダーを外そうと無言でもがく私ひで氏。
しかしグラインダーは全く無慈悲に暴れ続ける。先が丸くお尻が細いのはなんとなくツチノコみたいなイメージでなおさら気持ち悪い。もちろんこの場合のツチノコというのはドラえもんに出てくるアレだ。
顔まで来たグラインダーの轟音、そして黒い網を完全に巻き込んで暴れまくるそれはまさに獣のようだった。
うわあああとかたすけてーとか言える間はまだいい。
人間というのは本当に慌てた時は無言になる。
口元めがけて襲いかかってきたグラインダーを外そうと無言でもがく私ひで氏。
しかしグラインダーは全く無慈悲に暴れ続ける。先が丸くお尻が細いのはなんとなくツチノコみたいなイメージでなおさら気持ち悪い。もちろんこの場合のツチノコというのはドラえもんに出てくるアレだ。
異変に気付いたY住職が駆け寄ってきた。
彼もまた無言だった。とにかくツチノコを引き離そうとする私の手を加勢するような動きだ。
私も闇雲に手を動かしていたのではない。
グラインダーの電源スイッチは持ち手の一番後ろにある。つまりツチノコの尻尾の先ということだ。
暴れまくるそれのお尻の一角を手探りで探していた私の指がやっと電源スイッチにかかり、パチンと払った。ツチノコは急速に勢いを失い、シュウウウウンと音を立てながら絶命した。
ここでやっとY住職の口から言葉が出た。
「大丈夫ですか、ひでさん」
「う…うん、大丈夫。あーーびっくりした」
そういいながらゆっくりとグラインダーに絡まった黒い網を解いた。
黒くても、そこに血がついているのがわかった。
暴れている時は夢中で全くわからなかったが、唇が辛子明太子の3倍ぐらいに膨れ上がったようにジンジンと痛む。
Y住職が私の顔を覗き込んだ。顔は深刻だ。
私は思わず聞いた。
「え…どうなってる」
Y住職は「ひでさん、大丈夫です、大丈夫です」としきりに言っている。しかし大丈夫という割に、視線は私の唇に釘付けである。
これは戦争映画でよくある、爆撃を受けて手足も吹っ飛んだ兵士を抱きかかえた救護班が「大丈夫だ、すぐ治る。たいした傷じゃあない。」と言い聞かせて死んでいくあの感じのシーンと同じではないのか、と思った。
信じられないぐらい出血しているのではないか。
もしかすると自分の唇の一部はすでに脱落して歯ぐきが見えているのではないのか。
そうっと触ってみた。
果たしてそこにはちゃんと自分の唇があった。
スマホをインカメラにして見ても、やはりちゃんと口があった。
そして網にはたしかに血が付いていたが、驚くほど出血は少なかった。
全てはグラインダーの「刃」に救われたのだ。
相手が竹ということで、今回つけていた刃は「紙ヤスリ」タイプの刃だった。
果たしてそこにはちゃんと自分の唇があった。
スマホをインカメラにして見ても、やはりちゃんと口があった。
そして網にはたしかに血が付いていたが、驚くほど出血は少なかった。
全てはグラインダーの「刃」に救われたのだ。
相手が竹ということで、今回つけていた刃は「紙ヤスリ」タイプの刃だった。
もしこれがダイヤモンドカッターだったら…
考えただけで鳥肌が立つ。
これはGrinder Man の制裁ではなかろうか。
安全装置を自らの浅はかな判断で外し、奢りと過信にまみれた愚かな私ひで氏を戒めるために起こしたアクシデントなのかもしれない。刃がヤスリだったのはGrinder Manのせめてもの情けか。
そして何より、Grinder Man が削り教えてくれたものはその辺のものだけではないのだ。
それを証拠に、安全をないがしろにしてまで造形美だのなんだのと言ってとがっていた私ひで氏の心は、
この事件を境に少し角が取れ丸くなった。
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