The Alan Smithy Band

The band is on a mission.

Grinder Man がくる - 前編

2019年11月25日 | ヒデ氏イラストブログ
あの日の事を思い出すと今でも頬と唇が少しだけ熱を帯びる。

それは今年の暑い、暑い夏の日だった。

ひで氏です。

私が6年ほど前から取り組んでいる地元奈良でのとあるプログラムで、毎年恒例の流しそうめんをするために竹の切り出し作業をすることになっていた。

地元の千年以上続くお寺で行うこの一連のプログラムは、常に「自前で用意できるものは自前で」をモットーにやっているので、流しそうめんのレールとなる竹は寺の裏山に自生している竹を使う。

この作業をするときは決まって異常に暑く、そして裏山という立地もあり尋常でない量の蚊に襲われる。

これまでは暑さに負けてTシャツとジーンズという軽装で作業していたので、甘んじて蚊の吸血を認めてきた。

しかし今年は何とか対策をしたい --- 作業当日寺に行くと、きっと同じ想いだったのだろう、住職のY氏は私ひで氏が小躍りするほど嬉しくなるような装備を用意してくれていた。




そう、それは「ファン付き作業着」そして「地下足袋」。そして上の写真にはないがこれらに加え「蚊帳付き帽子」の三点セットだ。



これで猛烈な暑さをしのぎつつ、全身長袖+蚊帳もついているので顔も蚊に襲われることもない。そして腰のファンは涼しい風を絶え間なく内側に送り続けてくれる。

おまけに足元は履いてみてわかる、おどろきの動きやすさの地下足袋である。現場で作業する人が最終この手の恰好に落ち着くことに心底納得した。

万全の体制となった我々の作業はこうだ。

1. めぼしい竹を見つけチェーンソーで切り出す
2. 切り出した竹を縦にチェーンソーで切る
3. レール状にカットした竹の「節」を、グラインダーで削り取る

もちろん手伝いはするが、チェーンソーを使う1.2の作業は慣れていないと危険なのでY住職に任せ、私ひで氏は主に3の作業を毎回担当する。ここで使う流しそうめんのレールは非常に長いので、節を取る作業も大変な根気と体力がいる作業だ。

ここで使う道具がグラインダーという道具だ。



私もこの作業に関わるまでこの道具を見たことはあってもなんと呼ぶのかは知らなかった、そんな道具である。先の丸い部分はいわゆる「刃」で、ヤスリタイプのものからタイルなどを切り裂くダイヤモンドカッターと呼ばれるものまで多種多様な刃が存在する。grindというのはそもそも「挽く」という意味だから、とにかくありとあらゆるものを細かくして削る、といった道具だ。

蚊帳付き帽子を目深にかぶり、ブオーと音を鳴らしながらファンでぱんぱんに膨らんだジャケットを着て、右手にグラインダーを持つ自分自身の姿ははたから見るとこんな感じだ。






かなりまずい感じだ。

だがホラー映画の主人公みたいでもある。
いっそチェーンソーを持っている方がホラー感が増して良いと思うのだが、持っているのがグラインダーというのが悪事が細かそうで新しい。

この設定が万一ブレイクしてgrinder manというタイトルで映画化が決まった暁には私ひで氏が演じることになるであろう主人公はいうまでもなくしがない喫茶店のマスターだ。そこで毎日豆を挽く。しかし彼は豆以外のものも挽きまくるのだ。劇場公開時のポスターはきっとこんな感じになるだろう。






ということでグラインダーを片手に早速切り出して半分に切った竹の節を削っていく。つまり、グラインドしていく。

今回は竹の節を削り取るので、先につける刃は金属の刃ではなくヤスリタイプのものだ。それでも、ひとたび竹の節に当てれば面白いように削れていく。

経験者ならば分かると思うがやりだすと妙に造形欲をくすぐられるし、やるなら完璧に削り取りたくなってしまう。

だが、ご想像の通り竹というのは丸い。その円形のアールに沿って綺麗に節を削り取らないと、いざそうめんを流した時にひっかかってしまうのでできるだけ緻密に取りたいのだが、写真でもお分かりいただけるようにグラインダーには刃の外側に巻き込み防止の鉄のガードがついており、これが細かな作業をするのにどうしても邪魔になってくる。

実はこの安全ガードは外すことができる。
これを取ることでまさに理想の角度で節をグラインドすることができるのだ。

だが、もちろん自ら安全装置を外すのだから、100%自己責任だ。
良い子は絶対に真似をしてはならない。

1年に一回の作業なのでいつもそのことを忘れ、作業をし始めてから気づく。「ああ、そうだ。これを外さないと細かいところまでできないのだ。

思い出した私ひで氏はY住職に一声かけた。

「そういえばこれ取らないと奥まで削れへんのよなー、取るわ、これ

いつもおだやかなY住職もこの辺りの事情はよくわかっているので一言こう返してくれた。

「オッケーです、ひでさん、気をつけてくださいね。」

ちなみにY住職もほぼ同じ格好をしているのでお互いの顔は網に隠れてほとんど見えない。

人類が滅亡した後の地球でガスマスクをつけているたった二人の生き残りのような風情で互いに親指を立てた。

そしてお互いに黙々と作業を続けること1時間。






悲劇はこの後起きた。


後編へ続く。




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