
ひで氏です。
朝の電車の中にいる人というのはそのほとんどが会社勤めの人だ。
しかし夏休みシーズンになると、割合早い時間に見かける、この時間帯に似つかわしくない、新しい人種がいる。子供である。
お出かけだと思うが、8時台にすでに電車に乗っているというのは、結構な気合の入った「お出かけ」のはずだ。
テンションも得てして高く、ただでさえ通勤という朝の沈黙に、お出かけ中の子供が一人混じるだけで、車両が何やら楽しげな雰囲気になる。
そんなある夏の日、同じ車両に子供が座っていた。例によって半袖半ズボンにリュックを脇に置き「ザ・夏休み」という風体だ。私ひで氏は近くに立っていたのだが、この少年、実によく眠っている。
夕刻の電車で疲れて寝てしまった子供というのはよく見るが、朝のスタート時点で爆睡している少年は割と珍しいのでなんとなく気にかけていた。
見るとDSを持ったまま寝ている。
ははあ、朝から張り切って電車に乗って、座った途端DSを始めたものの、思わず寝てしまったか。。。
落とさなければいいが、と思っていた頃、ちょうど電車が大阪の中心である梅田駅に近づいた。
たいていの人はこの梅田で降りる。ありとあらゆる方面へのハブ駅だからだ。私ひで氏は無意識にこの少年の動向が気になった。
「君も梅田じゃないのか」、と。
しかしまさか寝ている子供を、憶測だけに基づいて、降りなくて大丈夫かと揺り起こすなどというのはさすがに異常だ。
梅田を超えても、まだ主要駅はあるし(事実私ひで氏も梅田では降りないのだ)、さらに路線の最後のほうは郊外の住宅地エリアである。そこに住んでいるおばあちゃんを訪ねに行ってるのかも知れない。
そんなことを考えているうちに電車は梅田駅に到着してドアが開いた。
仮に梅田で降りないとしても、せめて主要駅についた時のこの独特のざわざわ感で目覚めて確認してほしい。
「梅田、梅田」というアナウンスと喧噪。しばらく開いたままのドア。主要駅の停車時間は他より長めだ。
頼む!起きてくれ!
そう心で念じていた。
すると思いが通じたのか、彼は目を覚ました。
そして誰もがそうするように、きょろきょろとあたりを見渡しここがどこなのか確認しようとする。
そしてすんでのところでここが梅田だと確認した彼は、「あっ」とまだ声変わりもしていない声を上げて座席から飛び降り、あわてて電車から出る。
そこからドラマが始まった。
瞬間、降りた彼は振り返り、二度目の「あっ」を発した。
私も思わず彼の居た座席を見た。リュックがあった。
ドアが閉まることを伝えるブザーが鳴り響く。少年に車内に戻る時間はない。
大人なら一旦中に戻って次の駅で折り返して、という判断も可能であろうが、こんな年端もいかない少年にそれを求めるのは酷だ。
体が勝手に動いた。
私は無我夢中で彼のリュックを掴み、プシューと音を立てて閉まりゆくドアに向かってそれを放り投げたのだ!
すれすれで閉まるドアの間を通り抜けたリュックは美しい弧を描いて見事に少年の足元に落ちた。
すべてがスローモーションだった。
一仕事終えた充実感でいっぱいの私の心は満たされ、すっかり閉まったドアの窓からとびきりの笑顔と最後のサインを彼に送るべく、そっと右の親指を立てた。
「大丈夫。気にするな。」
朝の殺伐とした通勤の中に一滴の潤いをもたらす、少年と、あるバンドマンの心の交流。
あわただしく行き交う人々の間にようやく彼の姿を見つけたとき、彼は、
DSの続きをしていた。
リュックももう背負ってた。
あ、結構慣れてはったんやね。。。こういうアクシデント。
って、手を振って動く電車とともに走って欲しかったです。
うーん、本当、最近の子供ですね~
こちらもまさにそれを思い描いていたんですけどね~ ま、ある意味たくましくていいでしょう!
そんな映画みたいな結末をちょっぴり期待。
あーそれは思います。
子供って、照れて何も言わない割にものすごい覚えてますもんね。彼の潜在意識に残ったことを祈りつつ。。。