風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第三部)六小編 其の参拾四

2010-05-25 15:15:56 | 大人の童話

やがて夕方になり、夢はそろそろ帰ろうと思い、六小に話しかけました。

「六小さん、もう夕方だから、わたし、そろそろ帰るね。」

六小は、え、もうそんな時間、とあわてて夢に言いました。

「あ、うん。ほんとだ、もうこんな時間。夢ちゃん、今日はありがとね。また来てよ。

待ってるから。」

六小のいつもの「また来てね。」の言葉に、夢はにこっと笑って答えました。

「うん、また来るよ。そうだな、今度は、タイサン木の花が咲く六月頃かな。来ると

したら。」

六小は、ああ、そうか、と頷きました。

「うん、そうね、その頃ね。楽しみに待ってるわ。」

「じゃあ六小さん、またね。」

「うん、夢ちゃんまたね。」

六小は、六小が出せる精一杯の光を、歩き出した夢の後ろ姿に射して見送りました。

 

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の参拾参

2010-05-23 21:11:40 | 大人の童話

「でも、夢ちゃん、卒業して38年、いろいろなことわかってよかったね。」

「うん。懐かしいものに会うこともできたし、気になっていたこともだいたいわかったし、

新しいものも見ることができた。あとは卒業記念樹だけね。それも、六月に来れば

わかると思う。」

夢は六小の言葉に、笑顔で答えました。

「あ、それからね、去年運動会見に来た時、もう一つわかったよ。」

「え、なになに。」

六小の放つ光は、夢の言葉に輝きを増し、六小は夢の言葉に興味深深のようです。

「うふ、あのね、わたしたちより2年前の、第ニ回卒業生が卒業記念に残したテントが

まだ使われていたの。」

「へぇ~、それはすごいね。」

「でしょ?あのテントは、わたし、よく覚えているんだ。5・6年生の運動会の時、

使っていたもの。まだ使っていたんだね。なんか、うれしかった。感激しちゃったな。」

六小は、懐かしそうにテントの話をする夢を見て、夢ちゃんにとっては、ほんのテント

一つでも、わたしの所にいた時の大切な思い出なんだな、それはわたしを大切に

思っていてくれているということでもあるんだな、と思い、いつまでも自分を大切に

思ってくれている夢に、小さな声で「ありがとう。」と言ったのでした。この時、夢は

六小と向かい合っていました。しかし、六小には、夢の眼がどこか遠くを見ている

ような気がしてなりませんでした。その眼には、40年前の懐かしい小学校時代が

映っているように六小には見えました。六小はそんな夢の顔を、いつまでも

そっと見ていました。


風の向こうに(第三部)六小編 其の参拾弐

2010-05-22 23:54:45 | 大人の童話

五月、夢は六小と話がしたくなり会いに行きました。夢が着くと、六小はすぐ夢に

気づき話しかけてきました。

「わぁ、夢ちゃん、来てくれたの。うれしい、フフッ。」

六小は、夢が最近よく来てくれるので、うれしくてしかたないのです。にこにこして、

夢を迎えました。

「ほんと?ほんとに、そう思ってる?」

夢は、ほんとかなぁ、と思いながら六小に訊いてみました。

「うん。だって、夢ちゃんが来ると話ができるもの。あれから、もう、ずぅーっと

わたしと話できる子いなくて、わたし、つまんなかったんだもの。」

六小は、ふーっとため息をついて、ちょっと淋しそうに言いました。

「ふ~ん、そうなんだ。でもわたし、どうして今でも六小さんと、四小さんともだけど

お話できるんだろうね。中学生になった時、四小さんに、これからは、もうわたしと

話すこともなくなるでしょう、って言われたのに。その通り、中学の三年間は

四小さんと話すこともなかったのに、ね。」

夢は、不思議だなぁ、という感じで、六小に言いました。六小はにこっと笑って、

「それはね、夢ちゃんが、まだ子どもの頃、わたしたちと心通わしたあの頃のままの

純粋な心を持っているからよ。だから四小さん、夢ちゃんが来た時、自分の方から

声かけたの。わたしも、そう。夢ちゃんが来た時、すぐわかった。ああ、ゆめちゃん、

まだあの頃の、子どもの頃のままだなって。あ、誤解しないでよ。子どもの頃の

ままっていうのは、夢ちゃんの純粋な心のことだからね。だから、わたしうれしくて、

昔みたいに声かけたの。」

と、体全体をキラキラ光らせながら言いました。

「そうなの?」

「うん。」

夢は、六小に子どもの頃のままの心を持ってる、と言われてうれしそうに言いました。

「ふ~ん、そうなんだ。これからもずっと、その心を持っていられたらいいな。」

「大丈夫だよ。夢ちゃんなら、この先もずっと、子どもの頃の純粋な心を持って

いられるよ。」

「そう?」

「うん。だって、今まで持ってこれたんだもの。わたしが保証する。」

六小は、光の輝きを強くして夢に言いました。

「え~、六小さんに保証されてもなあ。」

「またぁ、夢ちゃんたらぁ。」

「ウフフフ・・・・・」

夢は、笑いながら心のなかで、六小にお礼を言っていました。

「ありがとう、六小さん。」

と。

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の参拾壱

2010-05-20 14:45:16 | 大人の童話

夢は、記念樹から少し離れた所で、もう一度、木を眺めました。青い空に向かって

高く伸びるケヤキの木、その姿はもう、あの細くて弱弱しい感じの木ではありません。

大地に深くどっしりと根をおろし、太くどうどうとしています。そう、六小の校歌に

あるように、ケヤキの若い芽は伸びる命となって、今現在まで力いっぱい、しっかりと

今日を歩いてきたのです。六小の校歌を口ずさみながら、夢は涙ぐんでいました。

そして思ったのです。六小には、これからも元気でいてほしい、と。これは、多くの

学校が閉校となり、精霊が姿を消していくなか、せめてもの夢の願いです。

また、夢がいた時には、樹の横にきちっと『市制施行記念樹』と書かれた立て札が

立っていたのですが、残念なことに40年経った現在では立て札が立っていません。

これでは、何かの時にせっかくの樹が切られてしまうのでは、と夢は心配に

なりました。六小は、そんな夢の心配をよそに、相変わらず楽天家です。

夢の心配を聞いても、

「え~、別にぃ~、いいんじゃない。大丈夫だって。」

なんて言っています。

「大丈夫じゃないよ。」

「大丈夫だって。」

「じゃない・・・。」

そんなやりとりを何回か繰り返したあと、

「ん、もう六小さんは。本っ当に呑気なんだから!」

夢がムッとして言うと、六小は

「いいじゃない、切られたら切られたで。しかたないよ。」

と、さらっと言ってのけます。六小は、ホント呑気です。

「しかたないって、ねえ、六小さん!」

夢は、六小のあまりの呑気さにあきれてしまいました。

「だって、心配したってしかたないもの。わたしが、どうこうできるわけじゃないから。」

どうやら、これが六小の本音のようです。夢は、もう、しようがないなあ、と思いながら

六小に言いました。

「わかったわよ。じゃあ、今日はもう帰るから。」

「もう?わかった。じゃあ、またね。」

「うん。」

そう言って夢は歩き出しました。六小は夢のため、夕方で暗くなりかけた道を、自分が

放つ光でいっぱいにして夢を見送りました。

 

 

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の参拾

2010-05-19 01:39:45 | 大人の童話

平成二十二年四月、夢は、記念樹を植えた役所なら、樹の名前もわかるだろうと

思い、戸久野市役所へ行きました。何ヶ所かの課をまわって、やっとちょうど役所に

来ていた造園業の人に、当時の記念樹の写真を見てもらいケヤキだと

わかりました。夢は、『ああ、やっぱり。じゃあ、あれでいいんだ。』と一人頷くと、

その人にお礼を言って役所を後にし、その足で六小にむかいました。六小に着くと、

夢は改めて「ケヤキ」を見上げました。すると、夢に気づいた六小が声をかけて

きました。

「あ、夢ちゃん、また来たの?」

夢が、六小の言葉にちょっとムッとしたように、

「何よ、来ちゃいけないの?前は来て来てって言ってたくせに。」

というと、六小は

「もう、夢ちゃんたら、すぐそうなんだから。わたしは、夢ちゃんが来てくれて

うれしいの!」

と言って、ふふっと小さく笑い、

「今日は何?」

と、興味深げに訊いてきました。

「あ、うん、『市制施行記念樹』がどれかわかったの。思ったとおり、この

ケヤキだったよ。大きくなったねぇ~。あの頃は、こんなかわいい若木だったのに。」

夢は、両手の平で○を作って、当時のケヤキの幹の太さを表し、その何十倍も

大きく育った今の木を、じっと感慨深げに見つめていました。六小は、そんな夢を

不思議そうに眺めていましたが、やがて、納得したように頷きました。そうです。

夢が見た当時の木は、幹の直径約十センチ、木の高さ五・六メートル、それが、

今では、幹の直径約四十センチ、木の高さは数十メートルになっています。

夢にとって、まさにそれは、夢が六小を巣立ってからの、年月の長さを表す

ものだったのです。しばらくケヤキを眺めていた夢は、そっとその場をはなれ、

「ほんと、大きくなったねぇ。もう、40年・・か、この木が植えられてから。そうか、

そんなになるんだ。」

と、そんなに時が経ったのが信じられない、というように何度も呟いていました。夢の

呟きは、六小にも届いていました。六小は夢の呟きを聞きながら、

『今まで、あまり気にもとめなかった木だけど、そういえばこれだったんだ、記念樹。』

と、夢と同じようにちょっと感慨深げになって、自分にせまぐらいの高さになった

ケヤキの木を眺めました。