風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第三部)六小編 其の弐拾九

2010-05-15 22:32:36 | 大人の童話

競技の合間、夢は校庭の端に植わっている樹々を見て歩いていました。夢に

とっては思い出のあるもう一本の記念樹、戸久野町が戸久野市になった時、その

記念として六小に植えられた『市制施行記念樹』を探しているのです。町が市に

なったのは、ちょうど夢が六年生の時でした。それで、その樹が植えられた時の

ことはよく覚えています。役所の人が何人か来て、校門のすぐ脇(校舎のある側)に

樹を植えていました。そして、植えた樹の横には『市制施行記念樹 戸久野市』と

書かれた立て札が立てられましたが、樹の名前は夢にはわかりませんでした。今、

その場所を見ると、そこには大きな「ケヤキ」の樹が立っています。しかし、当時は

あった立て札がありません。なので、夢にはこの「ケヤキ」が、あの

『市制記念樹』なのかはっきりわかりませんでした。ただ、卒業アルバムに

載っている『記念樹』の写真が「けやき」みたいなので、『これがそうかな。』とは

思いました。夢は、とりあえずめぼしだけつけて競技を見にもどりました。そんな夢を

見て、六小が言いました。

「夢ちゃん、何してたの?」

夢は、六小を見上げて答えました。

「あ、うん、あのね、6年の時に市が植えた『市制記念樹』を探してたの。」

「ふ~ん。で、見つかったの?」

「うん、たぶんこれだろう、というのはあったよ。」

夢は、「でも、まだ確定はできないの。」と言って、六小といっしょにまた競技を見て

いました。

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の弐拾八

2010-05-14 02:48:45 | 大人の童話

体育館を出ると、夢は隣りにあるプールの脇に立ちました。此処で、午後の部を

見るつもりなのです。夢の在学中、此処にはブランコと砂場がありました。夢は、

あまりブランコでは遊びませんでしたが、ブランコは当時、子どもたちに人気が

あった遊具の一つでした。此処からは、校舎を真正面に見ることができます。夢は、

じっと六小を見つめていました。すると、あまりじっと見つめられて気になったのか、

六小が声をかけてきました。

「夢ちゃん、なに、わたしのことじっと見てるのよ。はずかしいじゃない。わたしより

子どもたちを見てよ。運動会を見に来てくれたんでしょ。」

「え、ああ、うん、ごめん。」

夢は、いろいろ見ているうちに、昔のことを思い出していつのまにか、六小をじっと

見てしまったことを話しました。それを聞いた六小は、

「フフッ、夢ちゃんたら昔から変わらないね。何かを、じぃーっと長い時間見つめる

のは。わたしを見つめてくれるのはうれしいけど、子どもたちのことも、ちゃんと見て

あげてね。みんな、一所懸命やってるから。昔、夢ちゃんたちが一所懸命やってた

ように。」

と、見つめられるのははずかしいと、少し照れながら言いました。

「うん、もちろん。みんな、一所懸命だね。フフッ、かわいい~。」

「そうでしょ。」

夢は、自分が小学生の時、運動会が楽しくてしかたなかったことを思い出し、

遠い日を見るように懐かしそうに子どもたちを見ていました。

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の弐拾七

2010-05-11 21:30:58 | 大人の童話

昼休み、夢は周りを見回しながら、グルッと校庭を一回りしてみました。夢の

卒業したあとに行なった校舎増築や体育館建設・校庭拡張等で、その様子は

だいぶ違っていますが、夢は懐かしい思いで校庭を廻っていました。卒業するまで

とうとうできなかった逆上がり(鉄棒)・てっぺんまで上れなくて六小にからかわれた

はんとう棒・25メートル泳げなくて六小に励まされたプール、長い年月の間に

場所が変わったものもありますが、皆、此処にあります。皆で上って遊んだ小山の

あった場所には、体育館が建っています。校庭を一巡りすると、夢は体育館に

入りました。始めて入る母校の体育館、夢の胸は感激でいっぱいでした。その訳は、

実は小学生の頃、夢は創立の古い学校にあった体育館にあこがれていたのです。

しかし、新しく開校した六小では、卒業までとうとう、見ることも入ることも

できませんでした。その体育館に、やっと入ることができるのです。夢は体育館の

入口に立つと、まず周りを見渡し、次に、中をのぞきました。そして、思ったのです。

『ああ、やっと自分の小学校の体育館に入れる。小学生の時、思ってたなぁ、

学校に体育館があったらなぁって。ほんと、あこがれてたもんね。うれしい!今日

入れて。』

中に入ると夢は、まっ先に舞台の前にいきました。そして、カーテンの上部まん中に

縫いとられている[校章]を、さらに、舞台左側の壁に掲げられている[校歌]の

歌詞を感慨深げに眺めていました。すると、六小の声が聞こえてきました。

「夢ちゃん、何、感慨に浸ってるのー?」

そう、あの時、夢が6年の時、六小の時計台を見ていた時と同じようにです。

「何よ、じゃましないでよね。体育館に入れて感激してるんだから。」

「ふ~ん、そういえば夢ちゃんあの頃、体育館があれば、ってしきりに言って

いたもんね。」

「そうよ。体育館はあこがれだったんだから。わたしだけじゃなく、あの頃の

みんなのね。」

「ふ~ん。それはわかったけど、早くこないと運動会午後の部始まっちゃうよ。」

「えー、それを早く言ってよ。」

夢は、六小のせかす声に、それはたいへんと、急いで体育館を出ていきました。

 

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の弐拾六

2010-05-08 23:03:00 | 大人の童話

十月、夢は今時の運動会を見てみたいと思い、また六小を訪ねました。着いて

六小を見ましたが、六小は、子どもたちの競技を見るのに夢中で、夢が来たことに

全く気づいていません。夢は、六小に声をかけようとしましたが止めました。そして、

黙って六小といっしょに、子どもたちの競技を見ていました。少しして、夢に

気づいたのか、突然六小が大きな声をあげました。

「あれぇ、夢ちゃん、来てたの。全然気づかなかった。声かけてくれれば

よかったのに。」

六小は、夢に会えた喜びを表すようにチカッチカッと光っています。

「うん、そうしようと思ったんだけど、六小さんがあんまり夢中になって競技を

見ているから、悪いと思って声かけなかったの。」

夢が答えると、六小は、

「ふーん、そう。気つかわなくてもよかったのに。今日はゆっくりしていけるの?

ゆっくりできるんだったら、最後まで運動会見てってよ。ね!」

と、絶対最後まで見てって、と言わんばかりに夢に言いました。

「今日は、そのつもりで来たからいいよ。」

夢が言うと、六小は、

「わぁ、よかった。」

と言い、そして、うれしそうに何回もチカッチカッと光を放つのでした。


風の向こうに(第三部)六小編 其の弐拾五

2010-05-07 22:06:17 | 大人の童話

「それにしても六小さん、貫禄ついたねえ。」

夢が六小を仰ぎ見ながら言うと、

「ホント?」

と、六小がうれしそうに言います。

「うん、すごく貫禄ついた。」

夢はそう言って、まじまじと六小を見つめました。

「えへ、そうかな。」

 六小は照れていました。

「さすが、43年も経つとちがうね。歴史感じちゃった。六小さん、これからも、百年

めざしてがんばれ!フレー、フレー!」

「ウフフ、そーお?ありがと。でも、とりあえずは50年をめざす。」

そう、六小はあと7年で創立五十年を迎えます。夢は、ふっとため息をついて

言いました。

「50年って言ったら、六小さんも、開校して半世紀を迎えることになるんだなぁー、

ハァ~。」

「何?ため息なんかついちゃって。」

六小が怪訝そうに訊きます。

「うん、あのね、すごいなーって思って。」

六小は、ますます怪訝そうに、

「そーお?」

と訊きました。夢は、「そうよ、すごいのよ。」という感じで、

「うん。だって、わたしが六小さんの所にいた時は六小さん、まだ、できたての

ほやほやだったんだもの。それが、今や開校して43年。」

と、もう一回ため息をついて言いました。

「夢ちゃんも、歳とるわけだよね。」

「まっ、失礼ね。」

「本当のことじゃない。」

「まあ、そうだけど。」

「ウフフ。」

「でもさあ、六小さんの所にいた時って、ついこの間のことのように

思えるんだよねえ。それが、43年経ってるなんてなぁ。」

夢が、ふーっと長く息をついて言うと、六小も、

「うん、そうだね。わたしもそう思う。」

と、ふーっとため息をついて言いました。

「いつのまにか43年・・・・・早いねえー。」

「うん、」

ふたりは並んで、遠くを見るように、校庭の向こうに見える、林の保存のために

市が指定した保存林を、いつまでも眺めていました。