唐突だが、私が好きな肉は、牛肉 > 豚肉 > 鶏肉であり、日本で日々の食卓に上る頻度もこの順だ。低脂肪かつ高タンパク質の優等生である鶏肉の順位が低いのは、我が家で購入する鶏肉に微かだが嫌な味を感じてしまい、どうにも好きになれないからである。もとより、美味い焼き鳥には目がなく、大ファンである立川の「かもしや」の味を思うと、すぐにでも飛行機に飛び乗りたくなるくらいなので、美味い肉は素直に美味いと思う。
それがバンコクに来てからは、この順位がまるっきり逆転してしまった。牛肉は基本輸入品であり、コストパフォーマンスが良くない。内国産の牛肉もあるにはあるが、結構固くて顎が疲れる。牛肉を炭火で焼いて、細切りにし、少しの香草や香辛料と和えた好物のタイ料理があって、その名をスアロンハイと言う。タイ語で、虎が泣くという意味であるが、美味過ぎて虎が嬉し泣きする説と、肉が固くて噛み切れずに泣くという説がある位である。学校がある日は買い物に出る時間が限られるので、スアロンハイを買って帰るのは週に一度程度だ。
次に豚肉だが、中華料理の影響もあってか、バンコクでは多彩な豚肉料理にお目にかかることができる。中でもよく目につくのが、コムーヤーンという喉肉の炙り焼き、皮付きバラ肉を揚げたムークロープ、甘いタレの串焼きムーピンなどだ。これらも美味しいのだが、脂身が多いので敬遠することが多い。一方で、スペアリブの辛くて酸っぱいスープであるトムセープ、コラーゲンたっぷりの豚足トロトロ煮込みはよく注文する。特に、付け合わせの生唐辛子とニンニクをちょびっと齧りながら頬張る煮玉子添え豚足ご飯は最高で、チュラ大近くの店にせっせと通っている。
特筆すべきは鶏肉で、蒸し鶏ご飯のカオマンガイ、タイ版唐揚げガイトート、焼き鳥ガイヤーン、チキンカレーなど、豚肉料理に匹敵するくらいの種類がある。店自体を選んでいるせいもあるだろうが、とにかく肉自体に嫌味がなく、美味いのである。コストパフォーマンスもいいので、いきおい普段の食事の主役は鶏肉になってしまった。中でも焼き鳥を買って帰ることが多い。焼き鳥と言っても、こま切れにした肉を串に刺して焼き、塩またはタレで味付けする日本スタイルではない。予め秘伝の調味液に丸ごと漬け込んだ鶏肉を竹串に挟み、焦げないように注意深く焼き上げて、付けダレ(ナムチム)で食べるのがタイ式。贔屓にしているゴントゥーイという店は、チュラ大の南出口付近にあり、昼過ぎには売り切れてしまう人気店である。なので、焼き鳥が食べたい日は、授業が終わったら、脇目もふらずにスクールバスに飛び乗っている。お気に入りの胸肉の焼き鳥とパパイヤサラダ(ソムタム)、それに蒸したもち米(カオニアオ)をこの店で揃えると、極上のイサーン(タイ東北部の別称)定食のでき上がりだ。