中国に端を発したCOVID-19は、瞬く間に世界中へと拡散し、多くの感染者と死者を出したばかりではなく、各国の経済にも甚大な被害を与えた。国を跨ぐ移動が厳しく制限されて、おいそれと海外旅行や出張ができなくなり、私が再びスワンナプーム空港に降り立つことができたのは、PCR検査に基く非感染証明書を条件として、現地でのホテル隔離が1日に短縮されてからだった。確か2021年の12月のことだが、1年9か月ぶりに訪れたバンコクの街の様変わりに驚いたものだ。休業の貼紙をした店舗が目につき、露店はすっかり姿を消していた。私にとって痛かったのは、よく通っていたスラウォン通りのサリカマッサージが先の見えない休業に入ったこと、そして同じく馴染のマンゴー屋台がなくなってしまったことだ。
特に、このマンゴー屋台のおばさん店主とは、前を通ればお互いに声をかけて挨拶をするし、大好きなデザートの糯米マンゴー(カオニアオ マムアン)を買えば、いつもパックがはち切れるくらいのオマケをしてくれた仲だっただけに、何とも言えぬ寂しい思いが込み上げてきた。観光ガイドブック的には、BTS(高架鉄道)トンロー駅近くのマンゴー専門店「メーワーリー」が有名だが、量も価格も接客もこの愛する無名の屋台には遠く及ばず、私としては絶対に失いたくないお店であった。COVID-19が収束すれば、また会えるかもしれないと、一縷の望みをかけていたが、サリカマッサージが営業を再開しても、マンゴー屋台の行方は漠として知れず、心にぽっかり空いた穴を埋めることはできなかった。
しかし、幸せは忘れた頃にやってくる。この10月に同じ場所で5年半振りの予期せぬ再会を果たすことができた。おばさんも私を覚えていて、「どうしていたの?」と、しばし会話が弾み、嬉しかった私は、100バーツの糯米マンゴー大盛に加えて、スイカシェイク(テンモーパン)まで買ってしまった。会えなかった時間はとても長く、店にも変化があったようだ。一つは大きくなった娘さんがお店を手伝っていたこと。初々しく、まだマンゴーの皮むきが上手くできずに、シェイクを担当しているが、一緒に働くお母さんはとても嬉しそうだ。そしてもう一つは、集客係としてこのコモンマーモセットが加わったことである。あまりにおチビちゃんなので、見落としたり、ぬいぐるみと間違えてしまいそうだ。普段は屋台の梁にぶら下げられたポーチの中から顔を出しているが、狙ったお客さんが来ると、こうしてスイカの上に乗ったりして愛嬌を振りまく。おとなしくて撮影もOKだから、スマートフォン片手のお客さんで黒山の人だかりができる。もちろん、写真や動画を撮ったお客さんが手ぶらで帰れるハズがない。良心的なお客さんは、モデル代にと何かしらの果物を買うことになる。このコモンマーモセット、働く時間は短いが、非常に優秀なセールスレディなのであった。いや、ここはスカウトしたおばさんを称えるべきかな。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます