会社員時代は、毎年労働安全衛生法に基づく健康診断があり、痛いこと、苦しいこと、血を見ることが大嫌いな私はとても憂鬱だった。中でもバリウムを飲む胃部レントゲン検査とデリカシーのない下手くそな採血が双璧で、何とかして回避しようと、あの手この手で逃げ回っていたものだ。一方で、掛かりつけのクリニックでお世話になっているベテランナースさんのウデはそれは見事で、この方になら何回注射針を刺されてもいいと思う。また、先生からは、鎮静剤を用いた無痛内視鏡検査を勧められ、恐る恐る体験したところ、1回で気に入ってしまい、今では鎮静剤の点滴でいつ意識が無くなるのかと、ベッドの上で密かにカウントダウンしているほどだ。自分の身体に関する有用な情報が得られるとはいえ、苦痛を伴う検査は早く無くなって欲しいものである。
さて、会社を退職すると法定の健康診断とは縁が切れる。以後は、掛かりつけの先生に相談しながら己の健康管理をしていくことになるのだが、ロングステイの最中に通院することはできない。バンコクに来てからは、気候、生活パターン、そして日々の食事内容が大きく変化しているので、身体に変調を来していないかは、気になるところである。そんな時に無料健康診断の機会を得たので、渡りに船とばかりに行って来ました。
病院は、サミティウェート、バムルンラット、メッドパーク、バンコクホスピタル等の外国人御用達の大手から選ぶことができたので、今回はサミティウェートを初体験することにした。この老舗総合病院は、多くの日本人駐在員とその家族が住むスクムウィットエリアにあって、日本人年間受診者数13万人を誇り、敷地内には「日本人医療センター」まであるのだ。ここでは受付から検査、問診、会計まで、全て日本語で済ませることができるので、ストレスを殆ど感じない。建屋には年季が入っているものの、内部は清潔でゆとりがあり、設備は最新、日本の病院で感じるような重苦しさはカケラもなく、第一印象は頗る良かった。
肝心の検査内容は、身長、体重、腰回り、視力、血圧、血中酸素飽和度、脈拍数といった身体測定に加え、血液検査、尿検査、便検査、胸部レントゲン、腹部・下腹部エコー、心電図、それに問診とかなり充実していた。驚いたのは、最後の問診時には全ての検査結果が出ていたことである。会社でのおなざりな問診とは異なり、ドクターは数値や映像を見せながら、私にもわかるよう一つ一つ丁寧に解説してくれたので、顧客満足度はとても高い。サミティウェートの評判がいいのもなるほどと頷ける。
しかしながら、ここバンコクでは、医は仁術というより、ビジネスそのもの。地獄の沙汰も金次第の世界である。問診においても、大腸内視鏡検査の追加検診や狂犬病、肺炎連鎖球菌などのワクチン接種をさりげなく勧められた。自分で支払ってはいないが、この2時間余りの健康診断の費用は11,600バーツ(約5万円)。今後も年1回受診するとしたら、それなりの出費を覚悟しなければならない。可愛いもので、オマケとして病院内で使える150バーツの飲食券が付いてきたが、追加料金なしで食事するのはなかなかに難しく、地階にあるスターバックスでアイスコーヒーと交換したのであった。