思いつくまま、気の向くままの連載記事。
第6回『近畿編その2』です。
≪選抜出場校 思い出編6≫
近畿代表 報徳学園(兵庫) 21度目(3年ぶり)
夏14度出場 甲子園通算 55勝31敗 優勝3回
戦前から和歌山、大阪、京都と並んで”野球どころ”として名高かった兵庫県。その戦前からの老舗の各校から、昭和40年代以降県の盟主の座を奪ったのが、当時新興勢力だった報徳学園と東洋大姫路。昭和40年代から60年代にかけて本当に両校のライバル関係はすさまじかったですね。報徳学園は昭和30年代後半から甲子園の常連校となりましたが、甲子園のデビュー戦が伝説ともなっているあの倉敷工業戦でした。世にいう『奇跡の大逆転』。何しろ0-0で延長11回までもつれこみ、表に相手に6点を先行されながら、裏の攻撃で6点を取り返して追いつき、12回にサヨナラ勝ちですもん。今に至るまで、そんな試合が甲子園で行われたことはありません。様々な『奇跡の戦い』はあるものの、この試合のインパクトはとてつもなく大きいですね。そして報徳学園は、この試合で一気に名前が全国区となったことでしょう。何しろ学校の所在地が西宮市。まさに甲子園の『地元中の地元』という学校です。この報徳について、甲子園でも数々の激闘を演じていますが、ワタシの記憶に残っているのは、1974年春の優勝、81年夏、金村を擁した全国制覇、そして2010年のあの興南を追い詰めた果敢な戦いの3つです。74年春は、のちに慶応大の監督を務める福島監督のチームでした。この大会、注目を集めたのは剛腕エースをそろえた関東勢。中でも関東三羽烏と言われた銚子商・土屋、横浜・永川、土浦日大・工藤はいずれも大型右腕で、ドラフト1・2位でプロ入りした投手でした。報徳は下馬評には全く上がっていなかったものの、何しろ接戦に無類の強さを発揮する”福島野球”で、2回戦では工藤を、準々決勝では土屋を攻略。快進撃を続けて、決勝ではあの『イレブン池田』を破って初優勝しました。先発の右腕・住谷から後半のピンチで必ず左腕・東にリレーする絶妙の継投策は、まさに福島マジックと呼べる采配でした。確かこの大会、金属バットが導入される前最後の大会でした。それゆえまだ『投手中心の細かい高校野球戦法』というのが勝つために最も有効と言われていた時代の野球。これにピタッとはまったのが、報徳のこの年の野球でした。そしてその7年後の1981年。中学時代からの教え子を連れて報徳の監督になった北原監督の下、74年とは全く違うスケールの大きなチームとして甲子園に登場。報徳は、エース金村の超人的な活躍で優勝をまさに”もぎ取った”という感じでした。この年のチーム。春の選抜には出場するものの、初戦で剛腕・槙原の大府に惜敗して白星を挙げることはならず。しかしその試合で垣間見せたスケールの大きさは、夏への期待を十分に抱かせるものでした。そして春夏連続出場を決めた報徳は、夏の大会前には堂々と”西の横綱”という評判をとるチームとなっていました。ちなみに”東の横綱”格は前年度準優勝にしてエース荒木を擁する早実でした。初戦を突破した報徳は、2回戦で前年度優勝校の横浜と激突。前年より戦力を落としていたとはいえ有力校の一つに上がっていた横浜に対し、報徳はまさに『金村のワンマンショー』という感じで快勝。何しろ金村、この試合で投げては強打の横浜打線にスキを見せず1失点完投。そして打っては、横浜の連覇の夢を粉々に粉砕する2打席連続ホームラン。『こいつのスケールは、どこまで大きいんだ!』そんなことを全国の高校野球ファンに見せつける活躍。その風貌と相まって、野武士的な金村の評価はうなぎのぼりでした。その”野武士・金村”が次に対戦したのが”甲子園のアイドル”荒木率いる早実。『事実上の決勝戦』と言われたこの3回戦、甲子園はまさに満員札止めの凄い観客で膨れ上がりました。この試合で荒木の投球は冴えわたり、強打の報徳に対して終盤まで全くスキを見せませんでした。金村も好投するものの終盤に早実の打線につかまり7・8回で4失点。報徳は1点を返すものの1-4のビハインドで最終回を迎えました。ほとんどの観客は早実の快勝を信じて疑わなかったこの試合、9回に物凄い逆転劇が待っていました。まさに甲子園デビュー戦での『逆転の報徳』をほうふつとさせる連打。それまでの沈黙がウソのように、報徳の打者が牙をむいて荒木に襲い掛かっていきました。そして1点を返して2・3塁の場面。そこで打席に立った代打浜中。どうみても打てそうにないこの160センチぐらいの小さな選手の渾身の一撃は、サードベースの上を鋭く抜けていって、同点の2塁打になりました。何度も何度もベース上でガッツポーズを繰り返すこの浜中選手の嬉しそうな姿、今でもはっきりと思い出すことができます。このイニングで報徳が逆襲し始めた時の甲子園の雰囲気、それはもうすごかった。球場のほとんどが『セントポール・マーチ』のメロディーに乗って手拍子を繰り返し、マウンド上の荒木はその完全アウェーの雰囲気に、ものの見事に飲み込まれてしまいました。早実を応援していたワタシは、このシーンを見ていて、とても悔しかった思い出もあります。
そして決着は延長10回。もう余力が残っていなかった荒木に、報徳の誇る中軸の金村・西原が連続でレフトに物凄い当たりの2塁打を放ち、荒木を粉砕して報徳にはっきりと優勝への道が広がっていったのでした。準々決勝からも、報徳は今治西・藤本(元南海)、名電・工藤(SB監督)、そして”沢村二世”と言われた京都商・井口と、まさに好投手とばかり対戦しましたが、その都度金村を中心に強打線が相手を粉砕。並外れた打力と、ほとんどの試合を1失点以下に抑えた金村の投手としての安定感が見事に融合し、夏は初めての全国制覇を成し遂げました。この年をさかのぼること4年前の1977年にはライバルの東洋大姫路が松本投手で全国制覇していますが、その時のチームとこの81年の報徳のチームは、そのスケールの大きさなど、本当に良く似たチームでした。『スケールの大きさと野武士的なゴッツイ芯の太い野球』それがワタシの兵庫県代表、とりわけこの2校に抱く、今も変わらぬイメージです。
その後は2002年に大谷投手(ロッテ)を擁して優勝しますが、このチームは実はさほど印象には残っていません。それよりもインパクトという点では、2010年のチームが印象深いですね。この年は甲子園に『興南旋風』が吹き荒れた年でした。春選抜に優勝した興南は、夏はさらにスケールアップして甲子園に登場しました。エース島袋はこのときは『難攻不落』と言われるほど左腕からの投球が冴えわたっていましたし、『甲子園最多安打』の記録保持者であるキャプテンの我如古の猛打も、とどまるところを知りませんでした。この興南と準決勝で激突することになった報徳は、ここまで『よくやっている』とは言われるものの、戦力的には大きな差があるように感じられました。エース大西と1年生の田村の投の2本柱は、あの74年の住谷―東のリレーをほうふつとさせ、ワタシはその戦いを見ながら、ひそかに昔のことを思って楽しんでいました。それから個人的なことですが、近年関東遠征をおこなうようになった報徳の練習試合を、このころ何度か目にしたことがあり、そんなことから親近感がわいて、報徳を応援したりしていました。でも試合前、『たぶん試合にならないのでは……』と本音では思ったりしていましたが、試合が始まってみたらそんな予想はどこへやら。序盤から報徳の打線が島袋を捕らえ、報徳の選手の動きが、本当に素晴らしくて。。。。。。この年の報徳のチーム、決してスーパースターがいたわけではありませんでしたが、『究極の全員野球』のような感じのチームで、本当に素晴らしい戦いぶりでした。しかしながらこの年の興南は、それを凌駕するほど神がかった存在でした。序盤の0-5のビハインドをものともせず、じわじわと報徳にプレッシャーをかけていくと、7回に追いつき逆転。そのまま逃げ切り、高校野球史の1ページを飾るような素晴らしい戦いに、終止符が打たれました。この試合を見てワタシ、『やっぱり報徳は、魂の野球だなあ』というのを強く思うことができました。
ワタシが知る限りの報徳の野球の系譜。監督は福島監督から沢井監督へ。北原監督を挟んで、現在の永田監督へ受け継がれていると認識しています。永田監督は94年監督就任ですから、本当に長く監督を務めていますね。この選抜で勇退が決定しているということで、今後は大角部長がその報徳野球を引き継いでいくようです。初出場時からずっと変わらず、『地元の代表』として甲子園をわかし続けている報徳学園。この選抜は、永田監督最後の雄姿となるので、選手のモチベーションはいつも以上に上がっていると思われます。『不利の予想の時ほど、いい戦いをする』報徳野球の神髄、見られるかもしれません。楽しみです。
近畿代表 智弁学園(奈良) 11度目(2年連続)
夏18度出場 甲子園通算 33勝27敗 優勝1回
昨年の選抜優勝校、智弁学園です。昨年の優勝は、まさに『まさかの連続』でした。秋の近畿大会では8強で大阪桐蔭になすすべもなくやられていたチームが、冬を超してまさか『こんなにも成長しているなんて。。。。。』と思わせてくれるような、高校生の素晴らしさというものを垣間見たような優勝でした。そして、長年≪弟分≫である智弁和歌山の後塵を拝してきた≪本家≫智弁学園の栄冠に、多くのOBやファンが喜びを爆発させていましたね。昨年のチーム、大黒柱のエース村上の素晴らしいピッチングが、思い出されます。この名門智弁学園。上村元監督の志半ばでの死去など苦しいことも続いたと思いますが、現在の監督である小坂監督が、実にチームを活性化して、いい伝統を作り上げていますね。小坂監督就任以降、智弁学園は8回の甲子園出場を誇っていますが、実にそのうち7回を初戦突破。かつて『なんとなく大舞台では勝ちきれない智弁』というのがイメージにあったワタシにとっては、近年の戦績は『大躍進』に映ります。決して派手ではありませんが、着実に実績を積んできている”名将”ですね、小坂監督は。そんなこんなで、昨年の≪全国制覇前夜≫の智弁学園について書いた記事、張り付けておきます。
昨年の記事 ⇒
奈良県の高校野球と言えば、ここ40年以上にわたり、天理と智弁の2強が君臨している地区です。両校のライバル関係は古く、本格的にライバル関係に入るのは昭和50年代を迎えた頃からと言えるでしょう。智弁学園に、高嶋監督が就任してからです。天理のバイオレット軍団と言われる紫色に対抗して、智弁は鮮やかな茜色、オレンジ軍団です。当時から両校ともにユニフォームも全く変わらず、その強さは相変わらず。伝統を引き継ぐこの両校の対戦、夏の予選を、現地でぜひ見てみたいカードですね。智弁と言ってワタシの印象に残っているのは、やっぱり高嶋監督の時代。最初に高嶋監督がチームを率いて選抜に出場した76年、チームは8強まで進出しました。阪本投手という、いい左腕のエースがいました。そして77年、エース山口哲司(元近鉄)を擁して、ものすごく強いチームを作って選抜に2年連続で出場してきました。安定した投手力と鋭い攻撃。現在の智弁和歌山を彷彿とさせるようなスキのない好チームで、土浦日大、銚子商、早実と関東の名うてのチームをこともなげに撃破していったという思い出があります。その大会をきっかけとして現在まで、何だかワタシは相手ベンチに高嶋監督がいると『負けそうだなあ』という感じがしてくるんですね。苦手意識が、バリバリにあります。結局箕島にまさかの完封負け(0-2)を喫して頂点に上り詰めることはなかったのですが、その夏も連続して登場。夏は2度目の甲子園でしたが、大会初日の第3試合で激突した星稜戦は忘れられない試合です。智弁・高嶋監督と星稜・山下監督の【若き闘将対決】。智弁・山口に対して星稜は小松(元中日)がエース。キラ星のごとく好投手が出場していた大会にあっても、大会屈指と言われた両投手の”静かなる投手戦”は、心にいつまでも残る素晴らしい試合でした。この試合を扱ったその夜の『ああ甲子園』という朝日放送の番組、今でもワタシの心に深く刻み込まれています。その後の両監督の歩みは、改めて紹介することもないほど。高校野球に大きな影響を与えた名将であり、素晴らしい指導者・教育者ですね。そんな智弁学園ですが、初期のセンセーショナルな登場から見ると、甲子園通算成績が26度出場でわずか27勝、そして決勝戦にもまだ出たことがないというのは意外です。ライバル・天理は春夏3度の全国制覇を経験していますので、何とか甲子園の大舞台で『智弁学園ここにあり』というのを見せたいところですね。また、ずっと後にできた兄弟校の智弁和歌山が高嶋監督に率いられ全国の『常勝チーム』になっているのと比較すると、悔しさを感じているOBも数多いかと思われます。そろそろそんな思いを払しょくしたいところですね。ここ数年、青山投手や岡本選手のように、『大会注目選手』が軸に据えられることが多い智弁学園。『あのころの輝き』を取り戻すのは今のような気がしています。いつやるの?いまでしょ!
近畿代表 高田商(奈良) 3度目(23年ぶり)
夏1度出場 甲子園通算 4勝3敗
高田商・・・・・。聞いてまず思い浮かぶのは、三浦大輔(元DeNA)の母校ということぐらいかな。それから、『新潟にも高田商があったなあ・・・・・』ということ。奈良では名門の郡山も、『福島にも同じ名前の学校、あったよなあ。。。。。』なんて思ったり・・・・まあ、余計なことです。奈良県といえば、思い浮かぶのは天理と智弁の2校、そしてかろうじて郡山。まさに高校野球界は『寡占状態』がワタシが高校野球を見始めた45,6年ぐらい前からずっと続いていますので、他校に対するイメージ、まったくないんですよね。それでも予選が見られる地域であればいろいろな学校の野球というものを目にしたこともあるのですが、奈良県の夏の予選、まだ一度も見たことがないので、皆目わかりません。ワタシが生まれてからただ1度だけ甲子園に登場した94年の選抜。記録によると、初戦では佐野日大を破り、2戦目で神戸弘陵に敗れていますが、目にした記憶はありません。ということで、まさに『初めて見る学校』ですから、その試合を見ること、楽しみにしたいと思っています。
(つづく)
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