思いつくまま、気の向くままの連載記事。
第7回『中国編』です。
今年の選抜出場校は3校ともに甲子園のファンにはまだ”新しい”学校。3校合計でも、甲子園でまだ3勝しか挙げていません。
ニューウェーブともいえるこの3校の戦いぶりで、近年の低迷に歯止めをかけることができるでしょうか。
≪選抜出場校 思い出編7≫
中国代表 宇部鴻城(山口) 3度目(2年ぶり)
夏1度出場 甲子園通算2勝3敗
ここ数年、高校野球という世界の中で、勢力図の変化がダイナミックに起こっていることを肌で感じることができます。かつては厳しい気候条件の中なかなか実績を上げられなかった北海道・東北・北陸などが著しくその実力を上げ、どの大会でもこの地区代表のチームが上位に食い込んでくるようになりました。一方、長い間『野球王国』と言われた中国と四国地区が、ごく一部の特定の学校以外では甲子園で実績をあげるのが難しくなっているという状況が出てきています。中国地区は、広島の広陵と岡山の関西は上位に食い込むことも多いのですが、その他のチームは苦戦が続いています。そんな中、山口県のチームは『奇跡のチーム』と言われた宇部商が相対的に実力を落とすのと時を同じくして、ずっと厳しい戦いが続いています。甲子園では初戦敗退か、勝っても1勝どまりということが多く、かつての宇部商、そしてそのずっと前までさかのぼると下関商などが刻んできた栄光の歴史は、現在では色あせています。そんな中、最近実力を伸ばしてきたこの宇部鴻城。中国大会をしばしば制覇できる実力を備えてきているこの学校は、山口県の高校野球史に新たな歴史を刻んでいくかもしれません。宇部鴻城は過去、選抜には2回出場しているもののまだ未勝利。しかし夏の大会では、2012年にその存在感を発揮しています。初戦で初出場対決となった富山工業を逆転で破ると、2回戦では佐世保実に対してものすごい打撃戦を展開しました。『宇部鴻城って、こんなに打てるチームなんだ!』と、ワタシはこの試合を見ながら感心した覚えがあります。そのあたりのところから、着実に実力を伸ばし続けている宇部鴻城、今年はプロも注目する嶋谷主将を擁して、選抜での1勝を狙っています。
中国代表 創志学園(岡山) 3度目(2年連続)
夏1度出場 甲子園通算1勝3敗
昨年150キロエース・高田を押し立て春夏ともに甲子園出場を果たした創志学園。新しい勢力として、岡山の中で関西、倉敷商など伝統校に挑んでいっています。今年は去年の高田投手のような選手はいないものの、総合力は高いチームのようです。そして、今年は選抜に選ばれるのかわからないというメンタル的に厳しい中で練習を積んできたナインのパワーが、本番で炸裂する可能性はあります。
昨年の記事 ⇒
岡山の新星として、創部わずか2年目でセンバツ初出場を果たしたのが2011年、5年前のことです。女子ソフトボール界の名将で、夙川学院を16度も全国制覇に導き、その後ソフト日本代表ヘッドコーチなどを歴任した後高校野球界に身を投じた長沢監督。神村学園ではチームを選抜準優勝にも導いた指揮官を招きチームを創設したのが2010年でした。既に還暦を迎えたこの長沢監督が、最後のご奉公に選んだのがこの創志学園ですね。そのチーム作りの手法に賛否はありますが、強くするということにかける情熱は満点。名門校がずっと群雄割拠の時代を続けている岡山の高校野球界に、ハレーションを起こす存在になっています。岡山には行く機会も多く、町の地図も頭に入っているのですが、今岡山県の高校野球界を引っ張る新旧の代表格である、この創志学園と関西高校。学校が本当に、びっくりするぐらい近くにありますね。歩いたら2,3分じゃないでしょうか。夏の県大会前なんか、お互いの火花がバチバチ散っているんじゃないかなあ・・・・なんて、考えたりしています。前回2011年出場の時は、チーム結成わずか1年で下級生ばかりのチームでしたが、大舞台では臆することなく自分たちの野球をやりきった感じがありました。選手宣誓も確か、創志の主将だったですよね。。。あれからはや5年。この五年という年月は、長沢監督や学校関係者にとって、果たして長い年月だったのか、それともあっという間だったのか。なかなか試合後のインタビューなども面白い長沢監督。今年のチームは、剛腕高田でひと波乱を狙っています。
中国代表 市立呉(広島) 初出場
夏出場なし
広陵を中心に好チームがひしめく広島から、またも新しいチームが出現してきました。90年代から、高陽東、瀬戸内、如水館、広島新庄、総合技術など、新たな顔が次々に登場してきた広島の高校球界。00年代からは完全に広陵がピラミッドの頂点に立つ構造の中、その広陵に挑む新興勢力が、県内の野球を盛り上げています。市立呉については、今年の選抜に出るまでまったく知らない学校でした。これから歴史を刻んでいく、最初の段階だと思います。広島県の野球は、広島商・広陵の2強が戦前からずっと『野球王国』として引っ張ってきて、広島商が甲子園62勝、広陵が66勝と、2強でなんと128勝を挙げているという凄い歴史を誇っています。そして現在も、指導者に広島商、広陵出身者が実に多いというのも、広島の特徴ではないかな・・・・・と思っています。
一方この市立呉の監督は中村監督。ワタシはこの監督の名前を聞いて、実に久しぶりだなあと思ってしまいました。この中村監督は、尾道商全盛期に監督を務めた方。81,82,86年の3回選抜に出場し、『春の尾商』という感じでした。82年、86年にはそれぞれ2勝ずつを上げ8強に進出。82年のエース左腕、川上投手はなかなかの好投手でした。そしてもっともワタシが印象に残っているのが、86年の2回戦、天理を破った試合です。天理はこの大会では『西の横綱』と言われた強豪で、夏の大会では初の全国制覇を成し遂げた強打のチーム。その天理に対して、尾道商は虎の子の1点を守り通して、なんと1-0とジャイアントキリングを成し遂げてしまいました。この試合を見ていたワタシ、『いつか天理の打線が爆発するだろう』と思ってみていたのですが、尾道商の軟投派投手(たぶんMax120キロ台)が、最後まで球をよく散らして的を絞らせず完封してしまい、本当に驚きました。言い古されている言葉ですが、『ピッチャーはやっぱり、速さじゃねえな』というのを実感するとともに、『やっぱり広島の野球は恐ろしい』というのを実感した試合でした。
その試合からもう30年以上。実に31年ぶりに甲子園で采配を振るう中村監督に、大いに注目しています。
(つづく)