≪第96回選抜高校野球大会≫
【総合展望】
大阪桐蔭、広陵、星稜軸に大混戦。何が起こってもおかしくはない、大混戦の大会か。
「春はセンバツから」
この言葉が最初に踊ったのはいつの話でしょうか。
長い歴史を紡いできたこの春の風物詩、
センバツ高校野球大会が、今年も甲子園球場で行われます。
センバツを迎えると、
日本中に春が来たと感じさせてくれる季節の風物詩として、
もう100年近く日本のこの季節を彩ってきました。
コロナ禍で「正常な大会」に戻るまで3年もの歳月がかかりましたが、
昨年からはようやく声出し応援が解禁され、
高校野球もようやく本来の姿を取り戻しました。
大観衆と大きな声援、
それがあってこその高校野球、甲子園の春です。
高校野球はここ数年来、
大変革をいくつも行ってきました。
昨年からは、
タイブレークが13回から10回に変更され、
9回を終わるとすぐに「勝負を決める方式」に変更になりました。
それはあたかも、
高校サッカーで採用されているPK戦のようなものです。
それゆえ戦う学校は、
早めに勝負に出なければなりません。
あるいは、苦戦必至と思われている学校は、
「タイブレークまで何とか粘り、そこで勝負」
という戦法を考えているかもしれません。
10回からいきなり採用のタイブレークは、
昨年見ていても、
大きな戦略、戦術の変化をもたらしているような気がしています。
それはこの方式採用の2年目になる今年、
さらに顕著になる予感がしています。
さらに今年から大きく変化するのは、
バットの基準です。
今大会から採用されるバットの新基準は、
従来のものより細くなるというもので、
この変更によって打球は非常に飛びにくくなり、
更にはスイートスポットに捉えるのが難しくなりそうです。
要するに、
「木のバットに似たバットに変更される」
というような変更だと考えればいいでしょう。
昭和49年に採用された金属バット。
これが高校野球に大きな大きな変化をもたらしたのは、
いまさら言うまでもないでしょう。
それまでは高校野球といえば、
出たランナーはバントでキッチリスコアリングポジションに送り、
1死で3塁まで到達すれば、スクイズが定番の作戦でした。
長打、ましてやホームランなどは、
1大会で2ケタに行くことはまれ。
金属採用前最後の大会となった49年春は、
確かランニングホームラン1本だけだったんじゃなかったかな?!
しかしそれ以降、
年々性能のよくなる金属バットが飛び出して、
高校野球で勝つためには打力こそが必要と言う事が言われ始め、
甲子園戦略も様変わりしました。
更に金属バットでより効率よく飛ばすために、
選手たちの鍛え方も様変わりし、
ムキムキの筋肉質の選手が主流になってきました。
そんな高校野球の歴史が、
約50年ぶりに「元に復す」感じになるんですね。
この50年で様変わりした高校野球が、
今後どんな形になっていくのか?
その端緒となる、
今年の大会になりそうです。
果たして「投手優位」な大会になるのか?
それともそんなことはなく、従来に近いような戦い方が多いのか?
ワタシも興味津々です。
さて、そんな中での今年の選抜高校野球大会、
総合展望です。
絶対王者・大阪桐蔭を候補筆頭に挙げる。しかし神宮大会優勝の星稜と広陵は、まったく遜色ない戦力を備える。
高校野球の絶対王者・大阪桐蔭は、3年連続で秋の近畿大会を制し今年も選抜に登場する。しかし過去2年間と違うのは、近畿大会を制した後の明治神宮大会で、初戦関東一に敗れたこと。過去2年間の「公式戦無敗」での選抜出場とはならず、さらにその負け方が悪かったこともあり、一部では今年の大会に危惧する声も聞かれる。しかし大阪桐蔭はひと冬超えるとガラッとその姿を変えるというのも定番。もともと力を持った選手が揃うチームが今年は悔しさを知り、さらに盤石な戦いを見せるという事も十分に考えられるのである。戦力的にはギリギリまで見極めると思うが、今年のチームの最大の”伸びしろ”は投手陣、特に2年生の森の「化け方」ではないだろうか。森は秋もそこそこ投げていたがまだ本格化はしてない感じであったが、しっかり成長するとドラ1の先輩、前田並みのポテンシャルを持っているのではないか。一昨年春に圧倒的強さでセンバツVを飾ったチームと同等になれるか否かは、この森の成長にかかる。しかしその他にも、平嶋、南、そして左腕の山口など多彩な投手陣が控えるだけに投手力は盤石。新基準バットになる今大会、これだけ投手力に強みを持つのは、Vへの約束手形とみてもいいのではないか。明治神宮大会で破綻した守備は、冬場にしっかり鍛えることで春には「いつもの大阪桐蔭の守備」を見せてくれるはず。破壊力今一つと言われる打線は、徳丸・ラマルの中軸がしっかり還す展開に持ち込めれば心配はないだろう。やはりどこをどう切ってみても、戦力的には大阪桐蔭が今年も32校中No1であることは間違いない。あとはいつもの展開で勝ち切れそうにない展開になった時どう対処できるか。そのあたりで一昨年夏、昨春に悔しい思いをしているだけに、西谷監督の手腕が問われる春でもある。
その大阪桐蔭を差し置いて秋の日本一に輝いた星稜は、非常にしぶとくいい戦い方をするチーム。神宮大会では、今大会でも有力校に上がるであろう広陵、青森山田、作新学院などを撃破しての優勝だけに、自信を深めたはずだ。チームの軸には左腕エース佐宗が座る。キレのある球と安定感のあるコントロールで、相手にスキを与えない投球が持ち味。堅田、山口、山本ら、星稜左腕エースの系譜を継ぐ好投手だ。右腕の道本も秋成長し、完全に二枚看板になったのも大きい。あとはやはり打線の援護がカギになる。甲子園で敗れる時は、いつも打線が抑えられてロースコアで接戦負けすることが多い星稜。今年は粘ってしぶとく得点を奪えるだけに、頂点を見据えた時はスモールベースボールの精度が、カギを握るかもしれない。昨春は、新チーム結成以降練習試合も含め大阪桐蔭に敗れたわずか1敗で甲子園に乗り込んで優勝を狙った広陵だが、4強で逆転負けを喫し、夏もタイブレークで涙をのんだ悔しい年になった。しかし敗れたのはどちらも優勝校だけに、「あとほんのちょっと」を突き詰めるだけで、大旗はおのずと転がり込んでくることも予想される。今年は昨年に比べるとやや打線の破壊力は劣るものの、その分投手陣は経験豊かな布陣で守り勝つ野球も十分できそうだ。エース高尾と2番手の堀田は昨年の経験も十分にあり、どちらもしっかり試合を任せられる好投手だ。打線は浜本・只石の経験組ががっちり上位に座り、攻撃力もかなりのもの。中井監督も還暦を迎え、「どうしても全国の頂点へ」の思いは強いはずだ。広陵が甲子園で敗れる時は「息切れ」の印象が強く、あと一歩駆け上がるために何が必要なのか、そのあたりを突き詰める春になるかもしれない。
Aクラスのチーム多く、予断を許さない。好投手を持つチームが急浮上する可能性も大。
上位「3強」に続くチームはどこか。今年の大会は、3強と2番手組の差はほんのわずかで、10数チームが上位にひしめき合う展開になることも予想される。そんな中で大阪桐蔭を秋に破った関東一は、東京勢としては久しぶりにいい戦力を整えて春に向かう。畠中・坂井という左右の二枚看板はなかなかのもので、これに得意の足を使った攻撃が冴える。新基準バットでの大会としては、非常に勝ち上がりそうな戦力を揃えているという印象だ。帝京以来の東京勢春制覇は現実味を帯びるものとなるのか。同じ関東では、連続出場となる健大高崎の戦力も上位だ。昨秋は公式戦のチーム打率が.400を超え、ようやく「強打健大」がはまってきた感じのチーム。投手陣も昨春から経験を積ませている左右の2年生投手、佐藤・石垣が様になってきた。ここのところすっかり甲子園では活躍のない健大高崎だが、何やら昨春の山梨学院と同じようなにおいがすると感じる。昨春選抜準優勝の報徳学園は、こちらも今年こそ3度目の選抜制覇を狙っている。昨春のチームと比べると打線はやや下回るものの、経験を積んだ間木・今朝丸の2枚看板は盤石で、優勝に近いところにいる。秋はほとんどの大事な試合を投手戦で飾ってきており、上位進出のためには2枚看板が両投手ともに好調なことがポイント。打線は新基準バットでより湿ることも予想されるので、しっかりと守って活路を見出していきたい戦いになる。3年連続の春を射止めた高知も有力校の一つだ。辻井、平の2枚看板は強力で、過去2年よりも確実に力は上の評価だ。打線は秋は今一つだったものの、敗れた明治神宮大会の豊川戦ではよく打ち、一皮むけるかもしれない。ライバル明徳に連勝している粘り強さを甲子園で見せれば、必ず上位に進出できるはずだ。
九州の強豪2校も面白い戦力だ。明豊は相変わらず強打のチーム。昨夏甲子園での悔しいサヨナラ負けを経て、一回り大きいチームに変身中だ。そしてその夏に4強まで駆け上がった神村学園も面白い。昨秋は新チーム結成の遅れがあり本領発揮とはいかなかったが、冬にじっくり鍛えて自慢の強打も再度点火準備OKだ。投手陣は昨年に比べてまだまだ成長しきれていないものの、昨夏魅せたようなキレのある攻守は相手校にとっては脅威で、頂点を狙える。青森の2校では、昨秋は青森山田に連敗したものの、ポテンシャルでは八戸学院光星が上か。洗平、岡本と経験のある両投手がマウンドに控え、失点が計算できるのが強み。打線も相変わらずの鋭い打球を飛ばし、東北では屈指の破壊力を誇る。ここも秋は新チーム結成の遅れが響いていたが、一冬超えて見違えるようなチームに仕上がっているはずだ。洗平がその能力をフルに発揮すれば、久々に上位進出する可能性は高い。理解できない「東海地区3番手」の代表になった愛工大名電だが、当然戦力的には東海1番手に思え、このチームのポテンシャルと選抜での過去の強さを勘案すると、優勝候補の一角に推してもいいだけのチームに見える。大泉、伊藤の投手陣は春にはなかなか打ち込まれることはないとみる。そして公式戦でのチーム打率はほぼ4割。ここに倉野監督が、かつて選抜を制した時に駆使した足の攻撃を絡めると面白い。
「候補」に名を連ねずとも、今年は頂点まで行ける可能性のあるチームが勢ぞろい。門馬監督率いる創志学園に、その匂いを感じる。
今年の大会は、32校のうち20校以上に頂点に行くチャンスが転がっている大会だと思う。選抜だけに、まずは初戦を制して波に乗ったチームは、どんどんその力を伸ばしていく可能性が十分だ。それだけに、優勝候補に明確に名前が挙がっていないチームにも、注目が集まっていく。まず秋の関東大会を制し、明治神宮大会でも頂点まであと一歩に迫った作新学院は要注意だ。昨春はケガでほとんど登板ができなかったエース小川が、秋を迎えて復調。それが本物であれば、今年は昨春の8強を超えることも十分に可能だ。打線も昨秋は徐々に整備されてきており、本来は「夏のチーム」と言われるものの、この春はどこまでチームを整備してきているか。昨春選抜を制した山梨学院は、今年は選手が全員入れ替わった全く新しいチーム。しかしそれでも、昨春の経験は十分に生き、粘り強いチームになってきた。この粘りで活路を見出したい。強力な投手二枚看板を擁する青森山田は、十分に甲子園でも戦えるチーム。打線の破壊力は今一つなだけに、投手中心のロースコアゲームで目標の上位進出を果たしたい。古都から出場の京都外大西、京都国際は波に乗れば駆け上がる可能性は十分なチームだ。京都外大西は、昨秋近畿で決勝まで進出。その粘り強さは出色だ。エース左腕田中は昨秋はほぼ一人でマウンドを守り抜き、チームを高みまで引き上げた。基本は投のチームだが、近畿大会では彦根総合、履正社という強豪に対して打撃戦を制して勝利し、チームは変幻自在な展開に対応できる姿を見せた。甲子園でも初戦に勝って波に乗りたいところだ。京都国際は、エース中崎の左腕にかける。強打の相手に対してもひるまずに内角をバンバン突く投球は見どころいっぱいだ。岡山から出場の創志学園は、門馬監督が率いてから初の甲子園。これまで甲子園ではまだ勝利を重ねることはできていないが、今年は「創志学園新時代」を告げる戦いができるかもしれない。エース山口は安定感抜群の左腕。門馬監督は東海大相模時代の前回の甲子園で、エース石田で全国制覇を成し遂げたが、山口にはその石田に近い投球を望んでいる。打線の破壊力はさほどでもないが、浸透したアグレッシブベースボールで、打線がどこまで援護できるか。波に乗れば非常に面白いチームだ。九州大会を制して出場の熊本国府と、東海大会を制した豊川はどうか。両校ともに秋は波に乗って駆け上がったが、ひと冬超えてそれを確実にチームの力に変えていけているかどうか。熊本国府は、30歳と若い山田監督が初めて采配を振るう春夏通じて初めての聖地で、ひと暴れを狙っている。豊川は前回初出場時に4強入りを果たしており、今年もその再現を狙う。主砲のモイセエフは非常に力を持ったスラッガー。打ち勝つ力で浮上を狙う。
新基準のバットに対応し、攻撃力の低下をどこまで防げるかもキーポイント。投手力中心のチームには、絶好のチャンスとなる。
今年から採用される新基準のバット。このバットの導入がどこまで各チームの甲子園戦略に変化をもたらすのかも注目だ。昨年までのように、どんどんヒットを重ねていくという打撃偏重のチームは、チーム戦略を再考させられるかもしれない。一方投手力を中心にスモールベースボールをチーム戦略の中心に置くチームには、絶好のチャンスだという事もいえようか。そんな中、全国に先駆けて明治神宮大会で新基準バットを採用して戦った北海は、敗れたもののいろいろと大きなものをつかんだかもしれない。今年のチームは、昨年と違い投手陣中心の編成。春を迎えてエースに君臨するであろう松田はなかなか面白い好投手だ。プロ経験の投手出身の島田監督が指揮官の常総学院も、150キロを狙う剛腕、小林で上位を狙っている。4年連続出場の敦賀気比は、選抜では3連敗中。やはり雪国だけに、春の初戦に看板の打線が爆発するのは難しいと見えるが、今年は何とかその壁を突破したい。近年甲子園での活躍が目立つ近江は、今年もエース西山で波乱を演出する。多賀監督の狙いは「夏の甲子園制覇」。その一里塚として、選抜は重要な戦いになる。和歌山から初顔の耐久は、エース冷水としっかりした守りで歓喜の1勝をもぎ取りたい。同じ和歌山の21世紀枠、田辺も投手中心のキッチリした野球をやる。智辯和歌山に競り勝った力は侮れない。2度目出場の宇治山田商は強力打線が看板。震災で学校が仮移転している日本航空石川は、何とか被災地に勇気をもたらす戦いがしたいところ。仙台育英の名将、佐々木監督率いる学法石川は久々の甲子園。まだまだ攻守に穴が多いチームではあるが、名門復活となるのか。東海大福岡は7年ぶりの聖地。東海大附属のストライプのユニフォームは今年は1校だけなので、そのプライドを見せた戦いを。阿南光は、旧校である新野の時代、その粘り強い野球は甲子園をうならせた過去を持つ。21世紀枠の別海は憧れの聖地で精いっぱいの野球を見せる。2度目の出場となる中央学院は、県地区大会敗退からよみがえっての聖地。そのサバイブ力で甲子園に嵐を巻き起こす。
今年も3月18日開幕の甲子園。
96回目の春、
ガラッと戦い方が変わる大会になるかもしれません。
彼から10年の高校野球の趨勢を決める。
注目の大会です。