うちの父は、いくつかの病院やクリニックにかかっていますが…
そのうちのひとつに、昭和大学○○病院というのがあります。
父はその病院の名前を呼ぶ時に、必ず昭和医大○○病院、と言ってしまいます。
以前は「昭和大学○○病院ね」と訂正していましたが「いや違うよ昭和医大…」と言い張っていました。
自分が普段使っているボールペンに、正しい名前が書いてあるのに。
車でその病院の近くを通りかかって、看板を見ても「ああ、昭和医大だ…」といいます。
なので近年はそれでスルーしています。
そこまでひどく認知症が進んでいるわけではないし、第一、初めてかかったときはまだ70代で、仕事も現役で…
頭も、もちろんしっかりしていたのに。
そのとき最初に、なぜか間違えて「昭和医大」と覚えてしまったので、その固定観念が取れないんですね。
歳のせいだろうと思う人が多いでしょうし、それも確かにあります。
でも、固定観念は、多かれ少なかれ誰でもが持っているものです。
もちろん私も。
多くの中高年世代が持っている固定観念の代表的なものと言えば…
たとえば保育園で幼児を世話してくれている人=保育士=保母さん=女性という固定観念。
たしかに男性はまだ数が少ないですが、だんだん増えて来ていますよ。
でも、男性の保育士さんを実際に見たことがない人には、イメージすることも難しいかもしれません。
高齢者世代は、病院の病棟で患者さんを見守り、助ける看護師さんを「看護婦さん」と呼ぶ人が多いです。
でも、いま男性の看護師さんがすごく多くなっていることは、入院したことがある人なら知っているはず。
もともと看護師には力仕事も多いので、体が大きく筋力のある男性のほうが向いているのです。
ただ、医師の「助手」というイメージから「助手は女で良い」という先入観があって…
西洋近代の医師の助手は女性がほとんどだったことから、いまだに「女の仕事」という固定観念があるのです。
いや、俺は、私は、固定観念になんか縛られていないよ、と言う人でも…
たとえば男の我が子や、親戚の男の子が「看護学科に通おうと思う」「保育科に通いたい」と言うと…
「男なのに?」とか、どうかすると「男のくせに他の仕事ないのか!」思ってしまう人、いるんじゃないですか?
それはもう、固定観念に縛られている証拠です。
そうでない人でも…
たとえば飛行機に乗っていて、機長からのあいさつです、という放送があったとき…
それが女性の声だったら「あれ?」と意表を突かれたように思ってしまう人は多いんじゃないですか?
それはやっぱり、旅客機の機長は男性、という固定観念が頭の中に出来上がっていたからです。
まあ日本の航空会社では、女性機長はまだすごく珍しいですけれどね。でも欧米のキャリアならあり得る事です。
こういった固定観念が、多くの人に共有されるようになると「偏見」というものになり…
「差別」につながったりします。
「黒人は暴力的だ」「中国人はマナーが悪い」「アメリカ人は大雑把だ」「イタリア男は女の事しか頭にない」
エトセトラ……
人に関する固定観念だけではないです。
「外国と違う日本のいいところは、四季があることだ」なんていう、ちょっと考えればわかるような…
トンデモな「通念」を信じている人、いまだにいますよ。
温帯に属する地域なら地球上のどこにでも、四季はあります。
四季が無い国に、なんで「フォーシーズンズ」なんていう単語があるのでしょう。
(イタリア、ミラノの紅葉の中を走る市電)
(ローマ、エウル地区の桜の花見)
私は以前イタリアを仕事の専門にしていたので、水道の水が飲めるというのも、特別なことには思えないです。
ローマの市街地にある噴水には、誰でも水を汲める口がありますけれど、ちゃんと飲めるし…
東京や横浜の水道水より、夏でも冷たくて美味しいですよ。みんなペットボトルに詰めて持ち歩いてます。
トリノの水道はアルプスの伏流水を地下からくみ上げているので、今まで飲んだどこの水道水より美味しかった。
ついでながら、トリノからミラノあたりにかけては、水田地帯が拡がっていて…
日本のお米と同じ、丸っこくて短い「短粒米」を栽培しています。
(ピエモンテ州の秋の実り)
イタリア人は主にリゾットにして食べますが、お鍋で炊飯する技術があれば美味しい白飯を炊いて食べられます。
こういった、目に見えて間違いだということがわかる思い込みならまだしも……
たとえば「女は感情的」とか「子どもは純粋なもの」とか「東北人は純朴」とかいったような…
解釈次第でどうとでもとれそうな固定観念は、やっかいなものです。
感情的な男性とか、ずる賢い子どもとか、世間ずれした東北人を連れて来ても…
それは例外でほとんどは世間の言う「常識」のとおりだ、と言い張れないこともないですから。
でも、人間の経験からくる考えは、どんなに博識な人でも、しょせん限定的なものだし…
その上、世の中は常に流動的で、目まぐるしく動いているものです。
そしてその動きが、どんどん速くなっていることは、おそらく間違いありません。
固定観念や「常識」にとらわれることなく…
目の前に、今ある物ごとをしっかり観察して…
自分の頭で考えて、頭の中の情報を上書きしていかないと、間違いだらけの現実認識になってしまう。
サボらずに、いくつになっても常に勉強して、知識や考え方をアップデートして行きましょうね。