アルファロメオと小倉唯

正常性バイアス

もうひと月近く前のことなので旧聞に属しますけれど…

 

5月28日のお昼前『ラーメン二郎』歌舞伎町店で火災が発生して、厨房から火の手が上がり店内に煙がもうもうとたちこめているのに…

 

15人ほどいた(ほぼ満席)客の誰一人として逃げることをせず黙々とラーメンをすすり続けたという事件がありました。

 

火事なのに客を避難させず、営業を続けようとしていた店の側が非常識で無責任なのは言うまでもないです。

 

でも隣の客さえ霞むほどに煙が立ち込めて、しかも料理の煙ではなく木が燃えているのがはっきりわかる臭いだったというのに…

 

「店員が何も言わなかったから」

 

「他の客が普通に食べていたから」

 

という理由で、避難するという「自分を守る」判断ができなかった15人の客の方も、どう考えてもおかしいと思いませんか?

 

これを心理学用語で「正常性バイアス」といいます。

 

結局、炎が燃え盛って来て、従業員が厨房にいられなくなったので、避難して客も避難させたと。

 

よくもまあ、ひとりの怪我人も出さなかったと思います。

 

正常性バイアスは、どんな人間にも生じるものではありますけれど…

 

周りを見てそれに倣う、とか…

 

周囲の「空気」を読んで行動する傾向の強い、日本人には特に強いものなのではないかと思います。

 

責任ある者の「指示」が出るまで動かない。

 

あるいは周りの者の多くがどうするかを見てそれに倣うまで行動しない。

 

その代わり、支持があるか、周囲の多くが動き始めたら、ワーッと雪崩を打って同じ行動に走る。

 

自分の目で見て、自分の頭で考え判断して、動くということができない。

 

「最初に動く」者になりたくない、判断して責任を持ちたくないという気持ちもあるのでしょう。

 

私は今、日本社会全体が「5/28のラーメン次郎歌舞伎町店」になって来ていると思いますよ。

 

いや、今というより、だいぶ以前からそうだったのかもしれない。

 

そのくせ、悪い結果になったときだけ「自己責任」と言って、被害者に手を差し伸べることはせず見捨てる。

 

同調圧力には屈するけれど、助け合いはしない。

 

付和雷同はするけれど、間違ったときの責任は誰も取りたがらない。

 

本来責任をとるべき人間に権力や権威があった場合は、責任を問うことさえしない。

 

そんな人たちと同じ社会に住んでいること、正直に言うと、私は恥ずかしいです。

 

前の戦争の後、連合軍による「東京裁判」が行われたとき、被告人たちがほぼ異口同音に言った言い訳。

 

階級が下の者は「上からの命令だから逆らえない。仕方がなかった」と。

 

まあ、これは分かります。

 

でも階級が上の者は「下からの突き上げに従わないと大変なことになる。やむを得なかった」と。

 

これにもまた、それなりに真実があったようです。

 

「上」も「下」も「横」も、みんなが責任を押し付け合った。自分では何も判断しなかったし、自己判断では動けなかったのだと言い訳した。

 

今の日本人の組織も、本当にヤバいことが起きたら、そんなに変わらないような気がしますよ。

 

自分の責任で動くことが怖いから…いや、というか、そうすることに慣れていないから…

 

幼いころから、自分で見て、考えて、判断して、自分の責任で動くということを、何よりも学校でやらされて来ていないから…

 

言われた通りにしなさい。決められたことに従いなさい。みんなのするとおりにしなさいと。

 

起立!礼!着席!とか……前へー倣え!

 

というモードで来ちゃっているから。

 

そういう「和」を乱す者、「秩序」に従わないものは、みんなで寄ってたかって叩く。

 

和を守り、秩序に従ったせいで…たとえば火事でみんな焼け死んじゃったとしても、しょうがないと。

 

誰のせいでもないんだと。

 

そういう人たち。そういう集団。怖くないですか?

 

でも、たとえば今政府は盛んに憲法改正を叫んでいますけれど…

 

彼らの改憲草案には「公の秩序」を守れない者は人権をはく奪される、という意味の文言が、しっかり書いてあるんです。

 

人権を保障されないということは、虫けらのように殺されても文句言えない、ということです。秩序を乱すというだけで。

 

いや、いくら何でもそんな世の中にはならないでしょ、と?

 

それこそ「正常性バイアス」なのでは?

 

いずれにしても、個々の人間が物を考えず、判断せず、自発的に行動できない…

 

そういう集団には本当のイノベーションなんて起こせないし、急速に物事が変化する世界にあっては…

 

そういう社会が衰退の一途をたどる……ということに、ならない方が驚きです。

 

またそんな我々の性癖と、近未来に対する正常性バイアスを、早急に拭い去ることが、実際はどれほど難しいことか。

 

逃げられる人は逃げたほうが良い。

 

未来に夢を持つ人は、どこか場所を変えて、とりあえずそこでがんばったほうが良い。

 

たとえて言えば…

 

ラーメン屋の厨房の中は、もう既に火の海ですよ。

 

そして一旦避難した後で…

 

この災害の多い列島の中の社会をいつの日か立て直すため、落ちるまで落ちた後に、戻って来てほしい…できれば。

 

とは思いますけれど。


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