アクアコンパス3 続編

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働くとは、何か 19

2025-02-27 07:35:46 | 社会

 

働くとは、何か 19


前回は、日本が如何に貧しくなっているかを見ました。
今回は、国民の為に働く公務員の窮状を見ます。
ここにも日本の異常さが現れています。

かつて中曽根氏や小泉氏などが行革を唱え、正規の公務員が大量に減らされた。
行革が一段落した後の2019年、さらにユニクロの柳井氏は「日本の公務員を半減せよ」と吠えた。
2022年、財界の新浪氏は、都庁改革に関して「デジタル化による人員減への懸念に対して、邁進すべき!」と激を飛ばした。
大阪の維新も、そうだった。
現在、トランプとマスクは、さらに公務員削減を徹底してやっている。

皆さんは、どう感じているのだろうか?
素晴らしい! 怠惰な公務員を辞めさせ税金を節約すれば、国民は楽になるぞ!
当然だ! 生産効率を挙げて、不要な人は辞めて貰うべきだ!

おかしいぞ? 住民サービスが悪くなるだけではなく、なぜか日本経済が衰退し始めた時期と重なるぞ!


先ずは、実態を見てみましょう。


* 日本の公務員数は、目の敵にするほど多いのだろうか?

 

「図1. 日本の公務員数はOECDで群を抜いて最低!!」

国鉄民営化等の公共事業体を次々と民営化させ、公務員を大量に辞めさせた日本政府の手腕はOECDでトップレベルだった。
「公務員の仕事を、民間企業が肩代わりしているから、少なく見えるだけだ!」との指摘については、それを考慮しても少ないままであることが分かっています。注1

 

「図2. 日本の地方公務員数は、順次減り、今は横這いか」

 


「図3.  日本の国家公務員数は、大幅に減っている」

2001年以前、1985年に日本電信電話公社と日本専売公社、1987年に国鉄で民営化が行われた。
これにより民営化前に在職していた3社の計約73万人は、民営化とその後の合理化で20年後には30万人以上が退職していた。
図2の54万減と図3の52万減の計106万人と上記2公社の30万減で、計136万人が退職した。

ここで経済の悪影響を概算します。
18話で紹介しましたが、2回の消費増税5%で消費が10%減少していました。
これを参考に、136万人が全員転職し約20%減給となり、その後20年間勤めると仮定すると、これだけで毎年2兆円ほどの消費減少が続くことになる。注2
実は、残った人も大量に非正規化されているので、GDPの悪影響はさらに大きくなる。
つまり、公務員を減らし、給与を減らす事は経済に大きなマイナスになっている。

 

「図4. 一般職国家公務員の非正規職員が凄い勢いで増加し、37%越え」

 


「図5. 地方公務員の非正規化が進んでいる」
現在、地方公務員の非正規公務員数は74万人を越え、非正規化率は20%となった。

日本では、あらゆるところで「働く人」への虐めが、公然と行われ、かつ国民の中にも賛同する人が多い。
確かに、政官財と一部マスコミが結託して、国民を先導しているとは言え、実に情けない。
経済、世界、歴史に無知だと、痛い目に遭う好例と言えるでしょう。

 

* 公務員削減の何が問題なのか?

A. 公務員を大量に首切り、または非正規に替えることは、結果的に需要を減少させ、経済にマイナスになる。

B. 公務員によるサービスの質を低下させる。

C. 公務員各人への負担を高め、人権侵害にも至る。


* Aの「経済にマイナスになる」について

既に、簡単な試算でお分かり頂けたと思いますが、紛れもなく、悪い結果が出るのです。

よくある勘違いは、成功した経営者が、「組織を効率化し、余剰人を減らす」を良しとし、これを公共事業体にそのまま適用することです。
これは競争を原則とする一企業内では正しいのですが、国全体の社会経済を考慮すると間違いなのです。
大量の公務員の待遇悪化だけでなく、回り廻って国内経済さえも悪化させるのです。
一連の行革後、良くなるどころか悪化を深めただけでした。
2001年、経済学者の小野義之はその著書で、これら行革の弊害に警鐘を鳴らしていたが、聞く耳を持つ人は居なかった。
高率化は必要ですが、国としてやり方が間違っている。
残念ながら、日本の経済学者は一流では無く、政府が使うのは、米国に繋がっているか、媚びを売る者だけなのでしょう。


* Bの「サービスの低下」について

私はここ15年間ほど、幾つかの公共事業体に関わって来ましたが、現状は憂うべくものであり、とても未来を託せる状況ではありません。
私が見る多くの公務員の方々は、薄給に喘ぎ、やる気を喪失しているか、忙しさにかまけて、本来の住民サービスへと目が向いていない。
おそらく、地方自治体、第三セクター管理の公共事業体、学校教育等の現場に接している人は、職員の多忙さ、意識の低さ、給与の低さに気づいているはずです。

公務員削減の影響を拾ってみます。

2019年の台風に際して水害に見舞われた東北地方の被災地では、ボランティア不足で復旧作業が進まず、関係者たちが悲痛な叫びをあげていた。縮小された公共部門だけでは復旧作業を担いきれず、「ボランティア頼み」になっていた。

子どもの虐待事案に対する児童相談所の不適切な対応も目立っている。父親の虐待の末に亡くなった栗原心愛ちゃんの事件が起きた千葉県柏市の児童相談所では、一人の児童福祉士が、年間約43.6人を担当していた。
深夜に「家を追い出された」と児相に駆け込んで来た少女を、宿直の仕事を業務委託しているNPOの非常勤職員が、追い返すという信じがたい事例も発生している。

厚労省内部には、感染症対策を担う「国立感染症研究所」があるが、ここに所属する研究者は2019年には294人に減らされており、アメリカ疾病予防センター(CDC)と比べ、人員は42分の1、予算は1077分の1でしかない。(米国人口は日本の約3倍)

2020年にコロナが蔓延した時、トランプ政権は後手に回りました。
これは彼の無知も災いしているのですが、彼は就任時、既存の感染症対策室(仮称)を廃止していたので、コロナなどの未知の感染症の早期特定を逃してしまった事が災いしている。
共和党は、小さな政府を標榜しているので、どうしても手当たり次第に政府組織をカットすることになり、これは維新の大阪でも起きました。

 


「図6. 大阪の公務員数は全国最低から3番目」

 


「図7. 大阪府民はコロナで苦しむことになった」

大阪維新が病院の統廃合を行い、手薄にしてしまったのが災いした可能性が高い。
外国からの来訪者が多い事も一因でしょうが。

 

* Cの「公務員の負担増」について

 


「図8. 日本の公務員は少ない人数で多くの予算を扱い、かつ最も給与が安い」
青の棒グラフは、予算を定員で割った率で、各国に比べ突出して高い、つまり仕事量が多い。
黄色の折れ線は、予算を人件費で割った率で、また低い、つまり安い給与で働いている。


* 実は、もっと大きな問題が背後にある。

 

「図9. 日本の公的部門の総人件費は最低なのだが、なぜか財政赤字は飛び抜けて1位」

結果からみれば、行革は公的部門と公務員をスケープゴートにして、財政赤字削減をやったふりしただけで、「働く人」を苦境に追いやるだけでなく景気まで悪くしてしまい、拙いことにさらに赤字も増やしてしまった。

なぜこんな馬鹿げた事が、先進国では日本だけで起きたのでしょうか?

英国やフランス等のヨーロッパは組合が強くて、政府は公務員削減にほとんど手が出せなかった。
そこで公的部門の賃金を下げる方向に向かった、とは言え、日本より賃金は高いのが癪なのですが。
この点、日本では、歴史的、法的に労働組合が弱かったので、ごり押しが可能で、一気呵成に公務員削減と労働組合潰しを行えた。
結局、民営化への転換時に、弱い組合が、さらに解体され、組合は無抵抗になり、労働者政党も弱体化してしまった。
この事が、今に続く非正規化、男女の賃金格差、賃金低下を招き、消費減からGDP減への悪循環を生んだ。

ポイントは以下に要約できます。
日本では明治維新以来、軍事独裁色が強く、組合が育っていなかった。
戦後も、当初民主化を図った米国GHQだったが、数年後には共産主義拡大を恐れるあまり、労働運動を警戒し、自民党政府への資金援助と指導で、組合活動と労働者政党の弱体化を後押しした。注3
こうして日本は、悲惨な状況を一人背負うことになった。


次回に続きます。

 


注1. 『世界価値観調査』では勤務先に関する質問が含まれている。そのなかで、自分が「公的機関(Government or public institution)で働いている」と答えた人の割合――制度上の定義ではなく自己認識によるデータを見ると、日本は10.7%と調査対象58国中57番目となっている。

注2. 136万人の平均賃金380万が300万になったと仮定したら、収入減は-80万x136万人=約1兆円になり、減税時の乗数2倍として、2兆円の消費減となる。正確な試算では有りません。

注3 米国が日本の司法にまで関わっていた事例。1957年、デモ隊が米国軍事基地に侵入した砂川事件の最高裁判決は、被告を有罪とし、米国の駐留に対する違憲問題を避けた。この時の最高裁裁判長は判決を言い渡す前に、米国駐日大使と面会し、報告を行っていた。この時の総理は岸で、岸から佐藤の時代は、米国CIAから莫大な選挙資金を得ていた時代でもあった。

 


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