キジローはまだ呆然として、ビスケットの味もよくわかっていないようだった。無抵抗にサクヤの差し出したお茶を飲み、渡されたビスケットを口に押し込んでいる。
イリスはエクルーに耳打ちした。「どうしてあの黒い男は、サクヤにべったりはりついているんだ?」
「サクヤが医者で、彼はもっか患者だから」
「それにしても、ずうずうしすぎやしないか。俺がひとこと言ってやる」
エクルーが慌てて止めた。「イリス。いい . . . 本文を読む
「107全部閉じてたと思ったら、今度は一斉に全部開くなんて。この3年、こんなこと初めてだよ」
エクルーが言った。
「俺だって、17年生きてて初めてだ」
グレンは大きな息を吐いた。
ゲートが開いているかどうかは、一目瞭然だった。昨夜と泉の明るさが全然違うのだ。祠の上の縦穴から青く輝く光が漏れている。脊梁山地沿いに、少なくとも5つ向こうの泉の光まで見えていた。
「他の苗床の定点カメラ、ご覧に . . . 本文を読む
岩山の中腹にある泉の祠は、外が砂嵐のせいで薄暗いにもかかわらず、明るかった。
泉の中から透明な青い光が漏れているのだ。
祠で車座になって、メンバーの顔合わせをした。キジローはちょっと落ち着かない気分だった。
工学博士という、いかにも素人臭いオッサン、髪に植物が棲むとかいう、ロクに口も利けない少女、しっぽと長い耳をもつ原住民の青年。
地球型でない異星人と出会ったり、一緒に仕事をしたこと . . . 本文を読む
全く、辺境とは聞いていたが……ここまで最果ての土地だとはキジローも覚悟していなかった。
ボウズは最低限の情報しかくれなかった。宙港、宿、そこそこ食えるダイナー。着いたら連絡して、と一言だけノートがあった。
ところが、着いてみると磁気嵐で一切通信がつながらない。まだ誘導システムが使えるうちに、星に降りられただけでもラッキーだった。
宿のベッドは、マットはかび臭く、シーツは汗臭かった。これ . . . 本文を読む
キジローはどさっとシートにへたり込んで頭を抱えた。
「キリコも……? その実験のためにさらわれたっていうのか? だが、キリコは普通の子供だぞ。能力者なんかじゃない」
「資質があったんだと思う。だって、あんたも直観力と感応力が強い」
「俺が……? 俺は……!」
「さっき、俺の思考に振り向いたじゃないか」
キジローは愕然としてしまった。
「俺のせいなのか……?」
「ちがうよ、たまたまそういう血筋だ . . . 本文を読む
俺は緑の壁に囲まれた窓も扉もないブースにいた。
大小無数のモニターがあるのに、知りたい情報を引き出せない。
ふいに、背後の壁をすり抜けて黒髪の少女が入って来た。おかっぱの髪がゆれた。一瞬、サーリャかと思った。
でも、もっと大きい。ずっと捜していた友人の娘だと気づく。
君の父さんも、隣りの船に来てる。一緒に帰ろう。
そう言おうとした瞬間、心臓に痛みが走って、気がつくと俺は床に転がっ . . . 本文を読む
主な登場人物のイメージです。
イメージが限定されたくない方は、見ないでくださいね。
画像があった方が話が追いやすい方はどうぞ。
『神隠しの惑星製作委員会』
そのうち、ストーリー内の場面なども描ければ、と思い修行中。
. . . 本文を読む
翌朝早く、グレンはルパを連れて集落に帰った。厄災について一族で相談するために。イリスは泣き疲れて、眠ってしまった。嵐が完全にやんだので、ジンはまた家に戻ることにした。イリスはまだ腫れぼったい目で起きてきて、ハンガーまで見送った。
「ギプスが取れるまでに、イリスがうちでも日光浴できるように温室を作っておくから。ここみたいに立派なのはムリだが。実は昨日もその設計図引いてて、来るのが遅れたんだ」
「ウ . . . 本文を読む
昼近くまで寝こけているので、エクルーは二人を起すことにした。
「ジン、磁場嵐が弱って来たんだ。いっぺん自分ちに帰るなら、今がチャンスだぞ。夜、もう一回弱いのが来るらしい」
「ああ、スマン。しっかり寝ちまって。ちょっと帰って着替え持ってくるよ。お前の借りたまんまだもんな」
「別にそれはいいけど」
ジンが憮然と言った。
「サイズが合わないんだよ。いろいろと」
「サクヤが、こっちで洗濯するから汚れ物 . . . 本文を読む
ミミズクは温室を一巡して、岩山に戻っていった。ヘドヴィクがいなくなったので、水中に隠れていたホタルたちが飛び始めた。
「腹減ったな」ぽそっとエクルーが言った。
「あら、ホント。あなた、帰って来たままこの騒ぎだったわね。何か台所を見てみましょう。あの子もポタージュか何かだったら飲めるかもしれないし。ジン、ここ任せていい?」
「おう。で、何をしたらいいんだ?」
サクヤは温室の入り口に一番近いベンチ . . . 本文を読む