白い花の唄

笛吹カトリ(karicobo)の日記、一次創作SF小説『神隠しの惑星』と『星の杜観察日記』のブログです。

STOP! 桜さん! (その4)

2024年09月30日 11時58分28秒 | 星の杜観察日記
 黒曜のことは母から聞いたことがあった。住吉三神をお祀りするようになる前からの、この杜の本来の祭神。水と音楽の女神。琵琶を弾くので弁天さまとも呼ばれている。 月明かりにぽうっと白く浮かぶクジャクソウの花に囲まれて、黒曜は琵琶を爪弾いていた。何かの曲を演奏してるというより、気持ちのままに、思いつくままに、音を出しながらハミングしている。真っ直ぐな黒い髪は地面につきそうな長さだ。中国風というより、奈良 . . . 本文を読む

STOP! 桜さん! (その3)

2024年09月26日 11時09分37秒 | 星の杜観察日記
 夏期講習やJAZZの野外ライブで夏は終わり、秋は大祭の準備で慌ただしい。中2だけど受験生予備軍ということで、本格的なお手伝いは免除されている。これが紫ちゃんだったら、お祓いや神事で役に立てるのだろうけど、私は本当に雑用ぐらいしか出来ることがない。 織居の分家の他にも若い神職さん達が、合宿状態でお手伝いに来てくれているので、私にはさっぱり仕事が回って来ない。うちは神職さん達の修行場と . . . 本文を読む

朱い瞳の魔法使い (その8)

2024年09月13日 13時41分54秒 | 星の杜観察日記
 バーベキューのためにペンションのピクニックテーブルに集まっていた一同に朗報がもたらされた。れーくんの病院に同行していた、側近のアリッシュさんから谷地田さんに電話があったのだ。「怜吏くん、脳波異常ないし、意識もはっきりしてるそうだ。まだ午後にいくつか検査して、念のために今夜は病院に泊まるらしい。千雨さんが付き添うから、イリスさんはこっちに戻ってくるって」「あら。じゃあ、私、車でイリスさん迎えに行く . . . 本文を読む

朱い瞳の魔法使い (その7)

2024年09月11日 13時52分40秒 | 星の杜観察日記
 狂乱のガーデンパーティーが終わった午後遅く、きーちゃんの運転するステーションワゴンでファームに向かっている時のこと。後部座席に瑠那と並んで座っていた村主さんが、身を乗り出して助手席の私に聞いた。「谷地田ファームってーと、大宮司怜吏ってのが出入りしてないか?」「へ? 村主さん、れーくんとお知り合い?」「れーくんってトンすけのライバルの?」 瑠 . . . 本文を読む

朱い瞳の魔法使い (その6)

2024年09月10日 09時17分53秒 | 星の杜観察日記
 その日は、朝から住吉神社は上に下にの大騒ぎだった。都ちゃんの大学が休みに入って瑠那にゆっくり会いに行くね、と約束していた日。その2日前から都ちゃんに先立って希さんが住吉に来た。メノウが言い出して、咲さんと紫さんが乗ってしまい、桜さんが采配を奮って、瑠那の結婚披露パーティーをすることになったのだ。 瑠那は結婚式は要らない、と断っていた。どうやらイタリアを発つ前に、村主さんの兄妹に囲ま . . . 本文を読む

STOP! 桜さん! (その2)

2024年09月09日 15時15分50秒 | 星の杜観察日記
 せっかく山元さんが温かいお茶を淹れて勧めてくれたのに、お団子を口に運んでも何だか食べたくない。山元さんに悪いと思って頑張って一個口に入れてみたが、味がしない。ゴムを噛んでるみたい。一生懸命噛んでるうちに吐き気がこみ上げて来て、慌てて残りのお団子の串をお皿に戻して、お茶で口の中の団子を飲み下した。気持ち悪い。涙が滲む。何とか吐かないように深呼吸した。隣りを見ると、姉もまったく進んでいない。胡麻蜜も . . . 本文を読む

GO! GO! 桜さん!   (語り手: 麒次郎)

2024年09月05日 23時12分46秒 | 星の杜観察日記
 それは本当に突然だった。もっとも、桜さんの言い出すことはいつも唐突で、そして桜さんは言い出したら聞かない。 そしてそれは、まるっきりの唐突というわけでも無かった。少なくとも俺にとっては。俺は多分、9歳ぐらいの時には俺とサクヤが結婚する可能性はあるだろうか、と思案していた。 でもサクヤは、生まれた時から鷹史……俺の兄のものだった。比喩ではなく、文字通りの意味で。 兄の鷹史は宇宙人だ。 . . . 本文を読む

朱い瞳の魔法使い (その5.2)

2024年09月04日 18時33分54秒 | 星の杜観察日記
 都ちゃんは、まだぼーっとした顔で、ドンちゃんを見上げた。ドンちゃんは5歳児みたいな笑顔を見せた。「都がそんな格好してると、何だか嬉しい。可愛いよ。都はもっと、自分の好きな服着たらいい」「今だって別に嫌いな服着てるわけじゃ」「わかってる。でももっといろんな服、着てみたらいい。都が我慢してるの、知ってた。我慢しなくていいよ」 ドンちゃんを見上げる都ちゃんが、ポロッと涙をこぼした。「都、 . . . 本文を読む

朱い瞳の魔法使い (その5.1)

2024年09月04日 18時24分09秒 | 星の杜観察日記
 イタリアから帰国した瑠那が一番驚いたことは、住吉の母屋に着いてみると桜さんがふわふわ浮いていたことだろう。羽化仕立てのヒグラシのような繊細な薄緑色のキャミソールドレスを着て、明るい栗色のウェーブのかかった長い髪をなびかせて、どう見ても20歳前後の若い姿で。桜さんは例によって強引な采配で、私ときーちゃんの再婚を決めて、婚礼祝いの紅白の干菓子を注文し、『集まった人に配るように』と遺言して、その日のう . . . 本文を読む

朱い瞳の魔法使い (その4)

2024年09月01日 10時39分55秒 | 星の杜観察日記
 黒曜はいつものように優しく微笑んでいた。真っ直ぐな黒髪は長く足元に拡がっていた。地面の上にいるはずなのに、水面に立っているように見える。長い髪はその光揺らめく水面にふわっと拡がっていた。綺麗な額の下の眉は、いつもちょっと悲しげに顰めている。一重の切れ長な目。いつも伏し目がちで真っ黒な瞳が、潤んで見える。顎が細いので、面長だけど、男性にも女性にも見える。いくらマジマジと見ても、性別がわからない。完 . . . 本文を読む