祝勝会は御曹司のスピーチで始まった。「あの子は生まれた時、息をしてなくて僕がこう、息を吹き込んで……」と涙ながらに語ると、「また始まった」「よっ、名調子」などと牧童たちや厩務員からヤジが飛ぶ。どうやらいつも言っているらしい。「トレーニングを始めると、今度は脚の故障が多くて、デビュー戦でも優勝したと思ったら骨折。本当にハラハラし通しでした。しょっちゅう里帰りしてくれる点は親孝行でしたが、その度に育 . . . 本文を読む
関東での仕事を2、3済ませて新幹線で南下した紀野を、駅の北口でピックアップしたのは、年齢不詳性別不問国籍不明な麗人だった。細やかなプラチナブロンド、狼のようなアイスブルーの虹彩、細身だが均整のとれた体躯、洗練された身のこなし。「紀野さんですな。大宮司さんに頼まれてお迎えに来ました」 綺麗に洗車された白のステーションワゴンから降りて来た人物を見て、紀野は思わず声が出た。 . . . 本文を読む
クリスマスをあと3日に控えた日曜日、競馬場はバラエティーに富んだ服装の人々で賑わっていた。まずは普通にカジュアルな冬服の人々。ダウンジャケットやウールのコート、マフラーやニットキャップなどで防寒している。その他にいかにも競馬オヤジな面々ももちろん多い。コーデュロイやツイードのジャケットでおめかししていたり、ジャージやナイロン素材の作業服だったりするが、特筆すべきは帽子の着用率である . . . 本文を読む