犬はけっこう好きな方だった。
小学校1年生の頃、買い物の帰りの母に子犬がヒョコヒョコついてきた。
姉と二人でその子犬を飼いたい。とお願いした。
両親は最初は渋っていたが、
ちゃんと世話するのならという約束のもと飼わせてもらった。
鼻の先が黒いからという安易な理由で名前はクロと名付けた。
最初の何年間かはクロと結構よく遊んだし、散歩にも毎日のように行った。
友達が来たときもクロと遊んだし、結構それが自慢でもあった。
えさも(親が用意してくれるんだけど)ちゃんとあげていた。
でも、小学校高学年にもなってくると、
友達と遊ぶ事や、習い事やらソフトボールやらに夢中になって
クロの存在すら忘れてしまっているようになった。
まぁ、こういうのよくある話なんだろうな。
親の言った通りになったわけだ。
世話はほぼ全て両親がしてくれていたようだ。
ふと気付くとクロはものすごく太っていた。
ものすごく久しぶりに散歩に出掛けたが
途中でへばってしまうくらいに弱っていた。
でも小6の僕は、きっと太っているせいで
体力が落ちたんだと考え、
それから何日か散歩に無理やり連れ出すようになった。
今までほったらかしにしてしまって、ゴメンという気持ちがあった。
でもその気持ちが空回りしたのは言うまでもない。
多分、クロは病気で太ってしまっていたのだと後から気付いた。
クロの最後の日の散歩。
クロは完全に動けなくなってしまったので、
僕は長い距離を太って重くなったクロをずっと抱きかかえながら帰ってきた。
最後に家の前でクロを降ろしたとき、
ドラマで人が死ぬときみたいに、
クビがグタッとなった。
・・・あっ、なんか、変な感じ・・・
小学生の僕にも分かった。
夕方だった、
錆びてガラガラいう門扉の前
いつもより硬く感じるアスファルト
なんか・・・鮮明に思い出してきた。
愛着のあるものの死を
初めて目の当たりにした瞬間
だったんじゃなかろうか。
いつも僕は生きてるものがいつかは死ぬ事を忘れてしまっている。
もう、だいぶあの風景も変わってしまった。