投資家の目線

投資家の目線917(ウクライナ支援でさらに苦戦しそうな日本経済)

 日本経済新聞読者のアンケートでは、生活に悪影響が生じてもウクライナを支援すべきだと回答したという。『日本政府が対ロシア制裁で強化すべきものとしては「エネルギー輸入」が56%と2番目に高く、「食料・肥料輸入」が49%と続いた』(『ウクライナ支援「生活に悪影響生じても」7割 読者調査』2023/2/19 日本経済新聞電子版)と、日本人の生活に欠かせないものに対して制裁を強化すべきと回答している。

 

 「昭和史」(金原左門・竹前栄治編 有斐閣選書)には日中戦争時、「軍需インフレのもとで実質賃金が大幅に低下しているなかで、労働時間が延長され、労働条件は急速に悪化していった。(中略)この長時間労働にみられる労働強化は、結核・事故・労働災害の激増をもたらしていた。(中略)こうした労働条件の悪化による労働者の生活破壊は、戦争の重圧にもかかわらず、労働争議の発生をもたらさざるをえなかった」(p148~149)と書かれている。

 

 このような都市労働者だけでなく農村も疲弊している。中野重治「雪の下」(『改造』1940年3・4月号)に、『福井県敦賀での実情について、「今農村では何か一番問題か」という問いに、群農会の技手Mさんは「まづ肥料ですね」と単純明瞭に答えた』ことをはじめとし、肥料の高騰、さらに実際には協定値段では買えず、「闇取引にならざるをえなかったという(『ドキュメント昭和世相史』戦中篇)(「昭和史」p151~152)と書かれており、ロシア制裁に「食料・肥料」を加えることの危険性を示している。穀倉地帯ウクライナは難民の大量発生と電力不足で農業生産の大幅減が予想されている。都市部の住民が多いであろう日本経済新聞の読者は日本の現状が見えていないのではないか?

 

 G7はロシア非難の声明を出すが(「ウクライナ侵攻1年、G7首脳声明の要旨」 2023/2/25 日本経済新聞電子版)、G20財務相会議ではロシア非難の共同声明はさせなかった(「G20財務相会議、共同声明見送り 対ロシア制裁で溝」 2023/2/25 日本経済新聞電子版)。ロシアの貿易決済はUSダラー、ユーロ離れが進み(『ロシア「脱ドル・ユーロ」進む 制裁受け決済9割→5割』 2023/2/23 日本経済新聞電子版)、制裁の影響を受けにくくなっている。大地震の後、サウジアラビアやUAEなどのアラブ諸国は対立していたシリアを援助(「シリアのアサド大統領、オマーン訪問 震災後初の外遊」 2023/2/20 ロイター)、カタールはトルコに対して仮設住宅を支援するなど(”World Cup Fan Housing to Shelter Earthquake Victims in Turkey” 2023/2/22 Bloomberg)、大戦争に巻き込まれないよう独自に緊張緩和に動いており、G7の影響力は低下している。そもそも、欧州内部でもドイツ、フランス、イタリアのような西・南欧ではウクライナによい印象を持つ人の割合が低下しており(「ウクライナ評価、欧州内で温度差  独仏伊で6割に低下」 2023/2/22 日本経済新聞電子版)、政府が旗を振っても人民がついてこなくなっている。

 

 『中東最大の兵器見本市「IDEX」には戦車や防空システム、弾薬など200点以上のロシア製兵器が出品され、(中略)「出品された製品の大半は、すでに実戦状態で性能を試験済みだ」(『ロシア製兵器、UAE見本市に出品-ウクライナ戦で「性能実証済み」』 2023/2/21 Bloomberg)とアピールしている。兵器のような効果で国の安全にかかわるものの購入は真剣に検討されるだろうから、ウクライナの戦況もどちらの国のメーカーへの引き合いが多くなったかで見当がつくだろう。NATO側は製造拠点の閉鎖で武器弾薬の在庫が不足しているが、ロシアは注文殺到で武器弾薬の生産が追い付かなくなるかもしれない。

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