投資家の目線

投資家の目線929(ウクライナを切り捨てるポーランド)

 5月10日、ポーランド最古の週刊誌Mysl Polska(ポーランド思想)に、”Ukraińscy rolnicy lepsi od polskich? - dlaczego Polacy tracą na imporcie z Ukrainy”(ウクライナの農民はポーランドの農民より優れていますか?-ポーランド人がウクライナからの輸入で負ける理由)という記事が出た。その記事では、ウクライナでの紛争によるエネルギーや肥料などのベラルーシからの禁輸措置で、ポーランド経済が崩壊したと不満を述べている。また、ポーランドの品質検査に合格するか疑わしいウクライナからの安価な農産物の流入は、EUやポーランド政府の意思決定がポーランドの生産者や消費者よりもウクライナを重視している印象を受けるとも主張している。同記事ではウクライナ民族主義者組織(OUN)やウクライナ蜂起軍(UPA)によるヴォルィ―ニでのポーランド人虐殺についても言及している。以前書いた通り、ウクライナ民族主義者は第2次大戦中ユダヤ人やポーランド人を虐殺している(投資家の目線885(「ドイツ帝国」が世界を破滅させる))。現在ウクライナで英雄視されているステパン・バンデラが後に党首となるウクライナ国民機構(OUN-B)は1941年の大会で採択された「戦時の闘争活動」の中で「モスクワっ子(ロシア人を指す)、ポーランド人、ユダヤ人は我々に敵対的であり、闘争の中で抹殺されるべきである」(ウクライナ問題について その3 | キヤノングローバル戦略研究所コラム  国際交流  2014/5/13 シリーズコラム『小手川大助通信』)と述べている。ポーランドの人々の間に、ウクライナに対しての不満が広がっているようだ。欧州の歴史的背景を押さえておかないと、日本政府は再度「欧州情勢は複雑怪奇」などというセリフを吐くことになるだろう。

 

 そのポーランドは、ロシア領のカリーニングラードの名称を15-16世紀のポーランド王国時代の名称クロレビエツに変更すると発表した(『ロシア、飛び地呼称変更巡りポーランドを非難 「敵対行為」』 2023/5/10 ロイター)。大ポーランド主義の発露であろう。第2次大戦以前ポーランドは、ソビエト・ポーランド戦争でウクライナやベラルーシの西部を獲得し(投資家の目線882(キナ臭い世界情勢))、現リトアニアの首都ビリニュス周辺(投資家の目線903(最近のウクライナとバルカン半島))を領有、ドイツのチェコ併合と同時にチェコにテッシェン割譲を要求してチャーチルにハイエナに例えられている(投資家の目線911(ポーランドをハイエナに例えたチャーチル))。ポーランドは領土拡大志向が強い。なお現在ポーランドでは、ロシアがウクライナで破壊した劣化ウラン弾の弾薬庫の影響で放射線量が上昇しているようだ(『「放射能汚染の雲が欧州へ」 ロシア高官が脅しか』 2023/5/19 日本経済新聞電子版)。劣化ウラン弾は核兵器とは異なるなどと主張していた学者たちは、これにどう答えるのだろう?

 

 ウクライナには、パトリオットが配備されていた。「パトリオット・システムは、半径100キロメートル以内の航空機、ドローン、ミサイルを自動的に探知・迎撃できるレーダー」(「ウクライナにおける地対空システムの増強は、言うは易し行うは難しである」 2022/3/19 ARAB NEWS)などで構成されているという。ロシアの極超音速ミサイル「キンジャール」は、「速度は音速の10倍に達する時速1万2240キロ」(『ウクライナ「極超音速キンジャール6発含むミサイル18発全て撃墜」、ロシア「パトリオット防空システムを破壊」』 2023/5/18 朝鮮日報日本語版)、つまり秒速約3.4キロで、100キロ進むのに30秒ほどしかかからない。パトリオットは接近するミサイルに30秒以内で照準を合わせ、発射しなければならないことになる。ウクライナのキンジャールを撃墜したという主張と、ロシアのパトリオットを破壊したという主張を比較すれば、ロシアの主張の方が信憑性は高い。ウクライナのゼレンスキー大統領は、サウジアラビアで開催されたアラブ連盟の会議に出席していたが(「ウクライナ大統領、サウジのジッダから仏政府機で広島へ=関係者」 2023/5/19 ロイター)、ロシアのミサイル30発中29発を撃墜した(「ロシア軍、ウクライナ各地にミサイル30発 大半は撃墜」 2023/5/18 日本経済新聞電子版)などという世迷言を発表する政府の代表の主張をまともに相手にするほどアラブ連盟の首脳も無知でもヒマではないだろう。

 

 ブラジル政府高官はG7会議の議題となるウクライナ問題に関して「G7各国とは一致しない立場の国が存在することを忘れてはならない」(「G7サミット招待国のブラジル政府高官、ウクライナ問題でG7を牽制」 2023/5/16 朝日新聞デジタル)と述べている。インドのシンクタンク「開発途上国研究情報システムセンター」のサチン・チャトゥルベディ所長は、ロシアの視点に理解を求めている(「G7はロシアの視点理解を インド・シンクタンク所長」 2023/5/18 日本経済新聞電子版)。南アフリカの通貨ランドは、米国のブリゲティ駐南ア大使が、南アがロシア向けに秘密裏に武器などを提供したとして非難した直後に対USダラーで最安値を更新した(「南ア・ランド、最安値更新-ロシアとの武器取引疑惑で懸念広がる」 2023/5/12 Bloomberg)。南アのゴドングワーナ財務相によれば、「米国がこの件で最初に懸念を伝えてきたのは2カ月前だった。南アのラマポーザ大統領は安全保障担当顧問および独立した判事に調査を依頼するとともに、緊張緩和のために米国へ代表団を派遣したという」(「南ア、ロシア武器供給巡る米国との対立は解決済みと財相-ランド反発」 2023/5/15 Bloomberg)。2か月前の案件を蒸し返して相場を下落させるやり方は、今年1月にあったインドのアダニグループの株価急落を思い起こさせる(投資家の目線914(OPECプラスとBRICS共通通貨創設))。なお、南アの陸軍長官はモスクワを訪問する(“South Africa Downplays Army Chief Visit to Moscow After US Spat” 2023/5/16 Bloomberg)。南アはG7側に転ぶかはわからない。

 

 2016年の大統領選挙におけるトランプ陣営とロシアの共謀疑惑について、ダーラム米特別検察官はFBIがトランプ氏の政敵の証言に依存し過ぎ、具体的な証拠を欠いたまま捜査に乗り出したとする報告書を公表した(「FBIの捜査に問題、トランプ氏のロシア疑惑捜査で特別検察官」 2023/5/15 ロイター)。息子ハンター・バイデン氏の疑惑に続くこの報告書の公表は、民主党政権であるバイデン政権に対する米国人民からの信頼をさらに失わせるものになるだろう。最近、米国では信用収縮の影響で24時間のうちに7社もが連邦破産法11条の適用を申請した(「米国で24時間に7社が破産申請、利上げの信用収縮鮮明に 」2023/5/15 Bloomberg)。経済が危機的状況の中で、米国人民はウクライナへの援助など望んでいるのだろうか?

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