1001タイ映画、千夜一画 

タイ映画またはショートフィルム他で心の琴線に触れたアーカイブ。

「Blissfully Yours」 02カンヌ映画祭受賞作

2005-05-24 22:43:01 | タイ映画
こういう抽象的な映画というのは色々な記憶を放出させてくれる。昔、黄金の三角地帯の中州にあるラオス領の島を訪れた時も雑木林を抜けると本当に手付かずの自然が残されていいて、ここのカジノ予定地だった場所でも世界からの芸術家を呼んで、アートでカジノ興しの計画もあった事。バンコクからビルマ国境まで車で何日もかけて往復した事。タイのお節介な悪女達は立場の弱い外国人のハンサムな男の扱いには華僑進出以来の歴史で本能的な取り込み方が大変にうまい事。田舎の医者のああいう適当な態度等々。
 
 こんなにタイの生活時間というのは気の抜けたビールのような馬鹿げた連続によって浪費しているのかと、今更ながら恐ろしくなる。この映画の日本語版の解説に書いてあった「タイの官僚主義」だとか「ビルマの軍事政権」だとかは実際にここで生活していると、”あ、そうですか”と全く興味がなくなり、うちのお手伝いさも不法移民でそれほど珍しくなく、ただ暑さ凌ぎでスコールの到来を待つだけの投げやりの態度。タイの映画を英語の字幕で追って行くと何か意味を感じることもあるし、全く違う翻訳もあり、またそれが雰囲気を醸し出している事に気がつく。個人的にはタイ語の日常会話が多少理解できることで有利なことと不利益なことの収支は大幅な赤字。それにも負けずにこういう映画で作品ではなく現実的な生活をしていると何かが焙りだされる効果もあるのはさすがにカンヌ映画祭『ある視点』の受賞作のなせる技か。
 
 この映画の主役はやはり女性かな。普通の国境に普通に暮らす女性達。このポジションもいまでは南部では難しくなったが、北部国境は麻薬の密輸ルートがカンボジアの海岸沿いに移動してから表面的には静まり返っている。悠久の変わらない自然と残酷なまでの変貌を遂げる人間の容姿との対比に垣間みるビルマ青年のあまりにも悲しい軍事政権下での失われたささやかな夢。また夢のない現実的なタイ女性とのドッペルのカウンターパートが面白くて最後の「クイッティオ屋を始めた」というキャプションではそら!みたことかと、結末も「想定の範囲」。タイ人の女性はああやってよく残酷なゴミの捨て方をする。そうだったのか!美しい自然への逆襲という意味合いもあるんだね。タイ語になった有名なボサノバもゴミのようなサウンドだが、その対比で森の音がこうも美しいのには驚いた。ミヤンマーでもビルマー(タイ語)でもいいけど長く続き過ぎた軍事独裁政権って周辺国の政治家の餌食になるだけなんだけど...タクシン首相の高笑いが聞こえそうな気がする。

2002年5月完成/タイ映画/35ミリ、1:1.66/カラー作品/125分. カンヌ映画祭 →
http://www.festival-cannes.fr. アピチャポン・ウィーラーセタクン監督 Director:
Apichatpong Weelasethakul

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2 Comments

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最後のキャプション 他 (近隣諸国 其の弐)
2005-06-18 01:07:38
タイトルパック最後のクイティオうんぬんって、現実の彼女のその後何ですけど・・

ついでにトロピカル・・に関してですが、

冒頭の裸は兵士じゃないですよ。文盲青年ほうです。

通して見ればこの点は明白と思いますが・・・・・。

じゃないと、すべてつじつま合いません

確かにちょい分かりにくい話ですが、

それは東南亜のジャングルのカオス故です





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ご指摘有り難うございます (Fish Sauce)
2005-06-19 02:00:01
ご指摘を有り難うございます。続けて年本も見てしまったので申し訳ございません。今度よく見直してみます。トロピカルに関してはこれで一つのナゾが解けました。
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