半澤正司オープンバレエスタジオ

20歳の青年がヨーロッパでレストランで皿洗いをしながら、やがて自分はプロのバレエダンサーになりたい…!と夢を追うドラマ。

ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第87話

2020-07-07 08:04:30 | webブログ

おはようございます、バレエ教師の半澤です!
平日の朝は11時から、夕方は5時20分から、夜は7時から
レッスンをやっております。
土曜日は朝11時から、夕方は6時からです。
日曜日は朝10時から、昼の12時からです。どうぞ宜しく
お願い致します。

ホームページ半澤正司オープンバレエスタジオHP http://hanzanov.com/index.html
(オフィシャル ウエブサイト)

私のメールアドレスです。
rudolf-hanzanov@zeus.eonet.ne.jp
http://fanblogs.jp/hanzawaballet3939/
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ルイースと写真.jpg






創業36年、本場博多のもつ鍋・水炊き専門店【博多若杉】


連絡をお待ちしてますね!

2020年12月23日(水)寝屋川市民会館にて
半澤正司オープンバレエスタジオの発表会があります。


Dream….but no more dream!
半澤オープンバレエスタジオは大人から始めた方でも、子供でも、どなたにでも
オープンなレッスンスタジオです。また、いずれヨーロッパやアメリカ、世界の
どこかでプロフェッショナルとして、踊りたい…と、夢をお持ちの方も私は、
応援させて戴きます!
また、大人の初心者の方も、まだした事がないんだけれども…と言う方も、大歓迎して
おりますので是非いらしてください。お待ち申し上げております。

スタジオ所在地は谷町4丁目の駅の6番出口を出たら、中央大通り沿いに坂を下り
、最初の信号を右折して直ぐに左折です。50メートル歩いたら右手にあります。

連絡先rudolf-hanzanov@zeus.eonet.ne.jp

ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
モスクワ到着
第87話
ここはモスクワ空港。異常な臭い(おそらくは
トイレのタンクの中に入っているタブレット錠の
消臭剤のせいであろうと思う)が充満する
ジェット機内からようやく解放され、あまりの
恐ろしさにまだ足が地上に付いてない感じだ。
大きなドーム状のとても暗い空港内。そこには
外国人を喜んで迎え入れてくれるような雰囲気は
微塵も無く、人間の感情など受け付けようと
しない無言の威圧感と冷たいコンクリートの床に、
これまたデザインなどを無視した共産圏独特な
奇妙な天井が妙に恐ろしく感じられる。

そして入国審査はもっと恐ろしいものであった。
ツアー客同士が入り混じり、ショージも列に並んで
待っているがビザは取得してあるから大丈夫な
はずだ。とは言え、やはり向こうで機関銃を構えて
立っている人間を見たら誰だって恐ろしさに足が
竦むはずである。

この機関銃はカラシニコフと言うマニアたちの
間でも有名な武器だが、有名であろうが無名で
あろうがそんなものはショージには興味は
なかった。それよりもショージの気を揉ませる
のはこの武器を持っている人間の人差し指に
少々の力が入った時に、数十名もの人間が
たった数秒でこの世から消えてしまうという
事だ。どうしてそんな危ない物を構えていな
ければならないのであろうか。理由はどうであれ、
話で解決をしようとする人間たちではないのは
明らかだった。

電光掲示板に映し出された表示にはマイナス
32度と出ている「,げ~っ!?スウェーデンの
最低温度は今までにマイナス24度で、その時は
あまりの寒さに身体が思うように動かなくなり、
アパートの中でもセントラルヒーティングを
目一杯にしても足りないほどだった。それなのに
ここモスクワではマイナス32度だって?
どうやって人間が生きていられるんだ!?」
俄かには信じられない数字だ。道理で道脇の
雪は凍りついて固まってしまうはずだ。
けばけばしく唇を真っ赤に塗った口うるさい
バスガイドと共にホテルへ到着した。

1987年12月23日 鼻無しショージ

翌朝、「さあ、出発だ~っ!僕の人生は自分で
切り開くんだっ!よ~しっ!」バッグを担いで
巨大なホテルの二重ドアーの外に出た。猛烈な
吹雪であった。雪がショージの両頬をバシッ
バシッと引っ叩く感じだった。次の瞬間、
ショージは息が全く出来なくなった。その空気の
冷たさは人間の限界温度を超えて、命を脅かす
ほどの気温なのだ。「うわっ!」ホテルの玄関から
ポンと出たものの、その瞬間にまたポンと後ろ
向きにホテルの中に戻ってしまった。

「な、何だ、この気温は!?出られない…決して
外には出られない!まず息が出来ない。
どうしよう、このままホテルの中で外を眺めて
いても、僕の人生に何の変化は起きない。だから
といって命を危険に晒すわけにもいかない…」
これは大袈裟でも何でも無く,マイナス32度の
気温に吹雪の強烈な風が加わるので、マイナス
38度以下に下がっているのだ。日本でこの気温を
体感できる場所は北海道だけかもしれない。
このホテル内と外の気温差はホテル内が17度
としても、実に55度ほどだ。

「げ~っ!なんちゅう所に来てしまったんだ…
兎に角、どうしよう…早くしないと!えーい、
出るぞ~っ!」バシッとドアーを開いて3歩走り
出したが、瞬時に引き返してしまった。
「ガビーン!何でこんな地獄のような寒さなんだ!?」
そうやって5,6回繰り返してる内に、どうやら
この強烈な寒さにも慣れてきたみたいでようやく
行けそうだ。
(つづく)


ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第86話

2020-07-07 08:04:30 | webブログ

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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
第86話
テープからの秀樹の声…「今からショージさんの
知っている人たちが話しますから聞いていてくだ
さいね!」「半澤君、スウェーデンにいるの?
イタリアにいるって聞いていたけど、寒いでしょ
北欧は…」ああ、この独特の鼻にかけた甘い声は
あの人だ!そして直ぐに「半澤君、佳子です…
覚えていますか?スタジオパフォーマンスの時は
喧嘩もしたわよね…スウェーデンでも頑張って
くださいね!」今では茶の間でも有名になった
女優の床島佳子さんであった。そうそう、確かに
あの筋金入りの九州出身の女性とはパ・ド・ドゥを
一緒にした時にかなりの喧嘩もしたものだ。       

次々に沢山の懐かしい声がテープから聞こえて来た。
「思い出すな…六本木のスタジオで毎日欠かさずに
皆と一緒に頑張って練習をしていた頃を…」この
ティーシャツに書かれてある寄せ書きは秀樹が皆に
頼んで書いてもらったのであろう。ショージはその
ティーシャツを着てみた。「これは宝物だ!」
クラブ「愛」のママからの手紙とこのティーシャツと
カセットテープからの激励が心に沁みた。迷いから
脱出する事が出来たのは遠い日本にいる皆のお陰で
あった。

1987年12月23日 ソ連の飛行機

スウェーデンのゴッセンブルグに来て以来、
ショージはバレエ以外に習慣にしている事があった。
それは毎週木曜日に必ずロシア領事館に行く事で
ある。ソ連に入るためにビザを発給してもらうため
には、何らかの伝手が無い限り日本人がソ連に入る
事は不可能である事から、単純にロシア領事館に
伝手さえ出来たらビザを発給して貰えるだろう
という、普通の人間ならばおよそ発想しない事だ。

ショージはイタリアのバレエ団を辞めてフィン
ランドに行こうと思ったのはロシアで勉強がした
かったからだ。だが、フィンランドのバレエ団では
働く事が出来なかった。そこで急いでスウェーデン
にやって来て仕事をさせて貰う事になったが、
ショージが北欧にやって来た本当の理由は変わら
ない。どうしてもロシアで勉強がしたいのだ。

そんな時だった。たまたま道で見掛けた旅行会社の
看板に「クリスマスにモスクワへ…」が!これこそ
ショージを炎に揺らめく男に変えてしまった。
そしてモスクワに行く決意をした。果たして観光
ビザが日本人のショージに下りるだろうか。だが
その心配は無用であった。すんなりビザが下りたのだ。

飛行機が離陸前に「シートベルトをしてください…」
と機内アナウンスが入り、客たちがちゃんとシート
ベルトをしているのかを確認するためにスチュワー
デスが機内を廻り始めた。背が高くがっしりした
体躯がロシア的なのだが、アエロフロートのスチュ
ワーデスは日航のJALやオランダ航空のKLMと違って
笑顔がほとんどない。

その無言の表情から読み取れる彼女らの声を代弁
したとするならば、「あんたら、ベルトをしたの
かい?していないじゃないかっ!ちゃんとしろっ!」
とまあこんなもんであろう。

気流が悪いせいか機体がグラグラと横に揺れ、
その度にショージの胃の中はググっと込み上がり、
一瞬で30メートルほど機体が落下した。「あ…
駄目か…」と眼をカッ!と見開いた。イタリアの
ダンサーたちが「ドイツとロシアのパイロットは
腕が世界でも最高ランクなんだよな…!ただ、
ロシアの機体は世界の最低ランクだから、どんなに
パイロットが上手でもポトッて落ちても不思議じゃ
ないのさ!ハハハ、チャオ~!」と言っていたのを
思い出した。ショージは顔が真っ青になっているのが
自分でも分かった。
(つづく)


ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第85話

2020-07-05 08:08:01 | webブログ

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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
1987年3月 (23歳)手紙には…
第85話
スウェーデンに着きバレエ団で働き始めた。それから
暫くしてショージは首を痛め、バレエ団から休暇を
もらった。その際、母のように慕っている東京の
麻生十番にあるクラブ「愛」のママに宛てて書いた
ショージの手紙にママから返信があった。ショージは
胸を躍らせ手紙の封を切った。ヨーロッパに来て以来、
誰からも手紙をもらった事のないショージに初めて
ママからの手紙であった。

ショージには一つの大きな迷いがあった。「人生とは
何か…そして人間は何のために生きるのか…」
それをこの手紙から読み取る事が出来たのだ。
そこには「一生懸命に今その瞬間瞬間を生きる事
だけを考えればそれで良い…」ショージは絶句した。
「全神経、全力を賭けて今この時を生き、明日に
備えるために今しなければ成らない事だけに
必死になれば良い…他の一切の邪念を捨て、
先の事など心配などしなくて良い。必死に今の
瞬間、瞬間を繋げた時にそこに自分の道が出来る
のだから…」

 ショージは手紙を見ながら、その文が段々と
波打って見え始めた。ショージの手紙を見つめる
目から滂沱(ぼうだ)の様に涙が堰を切って流れ
出たからだ。「ああ…この懐かしい筆跡!
昔ママから言われた言葉を思い出す…今しか
出来ない事を、その事だけをやればそれで
良かったんだ!何故、僕は今まで迷っていたん
だろう。先の事なんか心配する事など愚の骨頂
だったんだ…」目の前から霞がさーっと晴れて
行くように、そして不思議にも何かショージの
前に又、進むべき道が、方向性が微かに見える
ような気がした。

「ああ、なんて素晴らしい字なんだろう…
ありがとうママ、本当に心に沁み通る「愛」の
ママの言葉だった。

日本語の肉声カセットテープ

麻布のクラブ「愛」のママからの手紙の他に、まだ
包みの中には何かが入っていた。「あれ、何だ
これは?」包みから出すとティーシャツが入って
いた。グレーのティーシャツにマジックで寄せ書き
が書いてあった。それも可笑しいことに胸の所に
ショージがよく通っていた麻布十番の温泉マークが
手書きで書いてあるのだ。もう一つの小さな包みを
開けたらそこにはショージの後輩の秀樹からの
鉛筆で書かれたメッセージがあり、1本のカセット
テープがあった。

ショージは隣の家からカセットレコーダーを借りて
そのテープを聴くためにスイッチを押した。
「ショ-ジさんですか…?」ショージにとって
手紙に書いてある日本語の字も久しぶりであったが
この声にじっと耳を傾けた。数年の間、聞いた事が
なかった日本語の肉声だ。しかも懐かしい、直ぐに
泣く少年の秀樹の声であった。「ああ…なんと懐かしい
この声が…」

ショージは日本を発つ前に麻布のクラブ「愛」に
この秀樹という少年を紹介してショージの後釜
としてママにお願いしたのである。秀樹とは
六本木の「スタジオ一番街」の小川亜矢子バレエ
スタジオで知り合った。彼はまだバレエを習い
たてで生活力の弱い少年であったが、この男なら
真面目に仕事もしてくれるだろうし、秀樹に
とってもクラブ「愛」で働く事が出来ればママから
たくさんの事を教えて貰い、バレエを続ける事を
ママが応援してくれるだろう…そんな思いから
ショージは後釜として彼に白羽の矢を立てたのだ。
(つづく)


ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第84話

2020-07-04 08:17:23 | webブログ

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グレゴリーのアドバイス
第84話
グレゴリーにあらましの経緯を話したところ、
「ショージ…ドイチュ・オパー・ベルリンが
どんなに凄くて君がどんなにそのバレエ団に
入りたいとしても、君は既にこのスウェーデン
のギョテボルグバレエ団と契約済みじゃあないか。
まして君はこのバレエ団から借金してそっち
ドイツにいる訳だろう?君の気持ちは分らなくも
ないけど、良い考えとは言えないな…」

ショージは何とかならないものだろうか…と考え
込んだ。「グレゴリー、こういう幸運は僕にとっては
最初で最後かもしれないんだ!例えば僕が借りた
お金をドイツから返すからという事だったら
どうだろうか…?」

すると「勿論、ショージが絶対にそうしたいなら
それもやれるはずだが、ショージ…、1つだけ
覚えておかなければいけないよ…仮にお金を送り
返したところで、スカンディナビアの法律上で
君は20年間スウェーデンどころか北欧の5カ国
でも仕事が出来なくなるという事を念頭に置かな
ければいけないよ。それでも良いなら、君の自由に
したらいいのさ。」

決断

膝が震えて止まらないショージは上ずった声で
辛うじて、「グレゴリー、僕はもう決めたよ…
スウェーデンに行くよ!こんな事で20年間も
スカンデイナビアに行けなくなるようなそんな
行動には出たくないし、ましてブラックリストに
なんて絶対に載りたくない。またスウェーデンで
何かと宜しくお願いね。ゴメンネ、突然馬鹿な
電話をしたりして。労働許可証が降りたら真っ直ぐに
スウェーデンに行くからさ、じゃあ、ありがとう!」

監督の部屋へと向かったが、ショージは「彼に何と
言ったら良いのだろう…?正直に全部話すのが一番
なのだろうか…」秘書室で「ハロー!」と挨拶を
すると、その奥の部屋で眼鏡を鼻の上にちょこんと
乗せて、何か読み物か書き物をしていたのか芸術
監督がショージに気付き、「あーこっちだ、こっちに
入って来なさい!」と手で招いた。ショージはちょっと
狼狽しながらオロオロと入って行った。まだ何と
話し出したら良いのか見当も付かなかったが
監督のゲルト氏が「んー、グッドダンサー、さて
話しに入ろう!そこに掛けたまえ!」

ショージはもう迷わずに冒頭から「大変済みません、
実は私は既に違うバレエ団と契約をしておりこことの
契約が出来ないのです。まさかこんなに凄いバレエ団
と契約が出来るなんて、思ってもみなかったのです。
それが判っていたなら始めからここに来たかったの
ですが…」

するとニコニコ笑っていた監督の形相が驚きの顔に
変わり「違うバレエ団!?そりゃ一体何処の
バレエ団だね?ドイツ中の全てのバレエ団と
私は繋がりがあるのだが…」 そりゃこんな
大バレエ団の監督をしていれば尤もであろう。
「実はスウェーデンなんです…」するとゲルト氏は
眉間に皺を寄せて、「スウェ…?まあいいか…。
契約済みならば仕方の無い事だ。そうか、ならば
分った…」ショージはこんなラッキーをみすみす
逃がすのは本当に辛かった。ショージは思った。
「僕の人生は何か神様に試されているのだろうか…?」

 不思議な事に、この時から半年後にショージの
無くなったバッグはスウェーデンのバレエ団に届け
られた。一通の手紙が添えられており「列車内で
無くされた荷物は東ドイツ人の駅員が窓から捨てた
みたいで、それを拾った東ドイツの住民が荷物を
駅に届けました。結果的にバッグの中のロシア語の
辞書と地図が幸いしたようです…。東ドイツでは
ロシア人を極度に恐れるためにロシア関係の物が
バッグの中にあって良かったですね…」 

ショージはその手紙を見て苦笑した。が、やはり
無くなった私物が返って来るのは嬉しいものだ。
バッグの中は半年前のタイツやら夥しい数の
汚れた靴下などその時のままであった。「よしっ!
見たかったものは全部見た。イタリアのスウェーデン
大使館からも労働許可が取れた!スウェーデンに
行くぞーっ!」
(つづく)


ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第83話

2020-07-03 08:12:53 | webブログ

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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
第83話
ピアノの前の椅子に座っていた芸術監督の
ゲルト・ラインホルム氏がいきなり叫び、
バレエマスターを彼の元に呼び寄せた。
ショージは咄嗟に直感した。「これはいけない…
彼はとうとう激怒したかもしれない…。多分、
追い出されるであろう…」と。

レッスン受けているショージの乞食のような
格好と言い、また好き勝手をやってしまって
いるステップ…それは神聖なバレエダンサーの
レッスンを汚してしまったものとも言えるかも
しれなかった。芸術監督に腰を折って耳を
寄せるバレエマスター、ショージは上目遣いで
2人をジーッと見つめてその逆鱗に対応出来る
のか…ショージ自身不安でその結果がどの
ようになるのか、時間が恐ろしいほど長く感じた。

バレエマスターがショージに歩み寄り、小声で
「あー、君ね、あそこに座ってる人は、我々の
バレエ団の芸術監督なんだがね…」ショージは
「はあ、、そうなんですか…」「その監督がね、
君一人のジャンプが見たいそうだから今から
君一人でやってみよう。じゃあ、プレパ
レーション…!」ショージは「えっ!?ここから
出て行けって、あの人は言ったんじゃないん
ですか…?」

完全に的が外れ、ずっこけた。ダンサーたちも
シーンと静まり返りそしてニヤニヤと笑って
いる。ショージには彼らの心の声がはっきりと
伝わって来た。「やれ!やってしまえ!」
ショージの目的は最初からそこにあった。
「やるっきゃない!」そしてピアニストが
コクンと頷くと、前奏が響きショージの
全筋肉と神経が一点に集中して行った。
「今回は誰に遠慮しなくても一人だけで
踊るんだ。アドリブに次ぐアドリブで
やろう。そして仕上げにはパラプリに急遽
変更するぞ!」

パラプリとはフランス語で「傘」の意味だが、
まさしくジャンプしてから両足を大きく
開いたまま空中で回転する技術なのだ。
このパラプリこそショージが秘かに温めて
きた最大の大技だ。それを見ていた周りからも
呻き声が響いた。「おお~っ!!」その瞬間に、
ピアノの前の芸術監督であるミスター、
ゲルト・ラインホルム氏が大きな口を思いっきり
広げ、両手を狂ったようにバシバシと叩き
ながら、「グワッハッハハ!いいぞっ!
グーッド・ダンサー!決まりだ、お前を
ソリストで決めよう!ワッハッハ!よし、
こっちへ来てくれ今から私の部屋で契約だ!」

すると、ススッと秘書の女性が出て来て彼の
耳元に小声で何かを囁いたらゲルト氏の顔が
平家蟹のしかめっ面に戻り、ドイツ語で
何かを言うとショージに向き直り笑顔に
なって「じゃあ3時にしよう!3時に私の
部屋へ来てくれ!じゃ後で…」と言ってさっさと
行ってしまった。

ショージがこのドイツ最高のバレエ団のソリスト
だって!?信じる事が出来ずに呆然とした。
レッスンが終わりダンサーたちが次々と
稽古場から消えて行ったが、ショージは
暫し呆然と立ち尽くした。起きた現実が
信じられなかったのだ。レッスンを受けられた
だけでも幸せだと思っていたからだ。仮に
最低レベルの群舞としてこのバレエ団に入れた
としても、それさえ奇跡であるにも関わらず、
まさかのソリスト!?「まさか~!」と
頬っぺたを抓ってもまだ信じられない。

 ショージは即カフェにある公衆電話から、
スウェーデンのバレエ団に電話を入れるよりも
前にまずはあの頭が素晴らしく切れる明朗
快活な黒人の友人グレゴリーに電話を
入れる事にした。
(つづく)