仕事を終えて帰宅し、ひと風呂浴びて身体を拭きながらダイニングにおいてあるテレビの9時のニュースを見ると、ビルの壁面に細長い穴が開いていました。
『ニューヨークでセスナ機がビルに飛び込んだみたい』と同居人が言います。
なるほど、ビルの大きさと穴の大きさがアンバランスでした。
『入浴したらニューヨーク?』
ダジャレを言って『さすが、アメリカ、やることが派手だねぇ!』と、ダイニングで席に着き、発泡酒をプシュッと明けました。
ボストンに語学短期留学しているアンポンタン大馬鹿間抜け倅のことや、ウォールストリートで株のディーラーをしている従弟のジェイムス(ミドルネーム)のことも、その時はまだ頭にありませんでした。
ただ、ビルがワールドトレードセンターであり、壁に空いた黒々とした穴が旅客機のものであることが伝えられると、テレビを凝視しました。
倅はマサチューセッツの叔父のところに逗留し、同居しているジェイムスにウォール街を案内してもらう手はずになっていました。
『ヤツの学校はボストンだけど、ひょっとしたら』
『朝っぱらからツインタワーへは行かないと思うけど』
同居人も不安そうな顔をします。
2機目がツインタワーに飛び込んだあたりから、こちらの心が少しぐらつきました。
『えっと、倅、〇〇郎(ファーストネーム)に会ってニューヨークを案内してもらうって言ってたよな』
アメリカには3人の従姉弟がいます。
一番上は所帯持ち(晩婚)で、お相手の親御さんはユダヤ系の弁護士(大金持ち)です。
その従弟の、ホテル1棟貸し切った結婚式には、アンポンタン大バカ間抜け倅は愚母に連れられて出席しています。
ちっちゃな帽子(キッパ?)をかぶっている姿の写真を持ち帰ってきました。
一番下の従妹はフリーター。
一昨年は年賀状が戻ってきて、音信不通になりました。
閑話休題。
そしてそのうちツインタワーが崩壊し始めました。
テロ機はペンタゴンにも飛び込むし、原発へ向かった航空機も墜落するなど、混乱に拍車がかかります。
ちょいまずいんとちゃうか?
人生にはまさかという坂もある。
まず全米の空港が閉鎖されました。
テレビでブッシュの青ざめた顔を見て、ただならぬことが起きていると思いました。
なかなかアンポンタン大バカ間抜け倅と連絡が取れず、同居人はオロオロソワソワ。
『電話の一本くらいよこしてもいいのに』
同居人の血圧が上がり切ります。
翌日、寮で同室だった同じ大学の学生の家族からTELが入りました。
『こちらにはお電話がありました。ご無事なようです』
バカヤロー、テメェで電話をよこせ!
こっちの血圧も上がります。
取りあえず大学の授業が始まります。
帰国する直前だったのですが、飛行機が飛ばない。
同じ大学の学生と寮では同室でしたが、彼は某政治家の息子だったので、特別便で帰国しました。
『一緒の便で帰してくれてもいいのに』
同居人の血圧が上がります。
更に早稲田の学生用に大学が便を手配しました。
倅の大学も結構でかいのに、一向に動きません。
叔父の家に逗留して、帰って来たのは事件の10日後でした。
『空港にはライフルを持った州兵がいて、安心して飛行機に乗ることができた』
『先に帰った同室の学生は、その昔著名な医者(名医ではない)で、ソイツはその孫だそうだ』
『授業で黒人の教師が「アメリカはこんなことでは負けない」と、大きな声で言った』
9.11の1年後に同居人が眼底出血したのは、その時とてつもなく血圧が上がったからだと思っています。
また、今年になってアフガニスタンから米軍が撤退したのは、9,11の悪夢を一日も早く忘れたいからでしょうか。
ただ、中国やロシアなど悪の枢軸国がアフガニスタンに魔手を伸ばし始めた今、人質商法が復活する可能性があります。
特に日本人は金づる、『日本人には危害を加えない』と言っているそうですが、人質という見方もできます。
東京2020+1でテロが起きなかったのは、皮肉にもcovid-19のおかげだったのでしょう。
また、多数のアフガニスタン人が国外に脱出し、中国に焚きつけられて第二の9.11が米国で起きる日は、そう遠くないかもしれません。