前回、『思い出の曲』シリーズで『Touch Me, Seiko』というB面コレクションを取り上げたばかりだが、実はこのB面コレクションには、2010年にリリースされた『Touch Me, Seiko II』という続編アルバムがある。こちらは『Touch Me, Seiko』がリリースされた26年後にリリースされたのだが、この2枚のB面コレクションにより、松田聖子の1980年代のB面曲を全て網羅出来る仕掛けとなっている。
『Touch Me, Seiko』はリリースされた1984年当時、相当聴きこんでいたので思い出深いアルバムとして記憶に残っているが、こちらのIIの方はリリースされた2010年にはタイムリーに聴いておらず、後になって聴いたりしていた。それでも1980年代当時にシングルレコードを買うと当然B面も聴くわけで、その意味では知っている曲、聴いたことのある曲も多かった。収録されているのは下記15曲。
- RAINBOW〜六月生まれ(作詞:三浦徳子/作曲:森家住吉/編曲:若草恵) 「裸足の季節」B面。
- 少しずつ春(作詞:三浦徳子/作曲:小田裕一郎/編曲:大村雅朗) 「チェリーブラッサム」B面。
- 頬に潮風(作詞:浅川佐記子/作曲:森家住吉/編曲:松井忠重) 「夏の扉」B面。
- 花一色〜野菊のささやき〜(作詞:松本隆/作曲:財津和夫/編曲:瀬尾一三) 「白いパラソル」B面。主演映画『野菊の墓』主題歌。
- 夏服のイヴ(作詞:松本隆/作曲:日野皓正/編曲:笹路正徳) 「時間の国のアリス/夏服のイヴ」2曲目。主演映画「夏服のイヴ」主題歌。
- 硝子のプリズム(作詞:松本隆/作曲:細野晴臣/編曲:細野晴臣・松任谷正隆) 「ピンクのモーツァルト」B面。
- スピード・ボート(作詞:松本隆/作曲:財津和夫/編曲:大村雅朗) 「ハートのイアリング」B面。
- 七色のパドル(作詞:小坂明子/作曲:NOBODY、編曲:大村雅朗) 「天使のウィンク」B面。
- Caribbean Wind (作詞:松本隆/作曲・編曲:大村雅朗) 「ボーイの季節」B面。主演映画『カリブ・愛のシンフォニー』主題歌。
- ベルベットフラワー(作詞:松本隆/作曲:三谷泰弘/編曲:笹路正徳) 「Strawberry Time」B面。
- 凍った息(作詞:松本隆/作曲:大江千里/編曲:井上鑑) 「Pearl-White Eve」B面。
- No.1(作詞:松本隆/作曲・編曲:Paul Cooper, David Foster) 「Marrakech〜マラケッシュ〜」B面。
- Angel Tears(作詞:吉元由美/作曲:杏里/編曲:井上鑑) 「旅立ちはフリージア」B面。
- 恋の魔法でCatch Your Heart(作詞:Seiko Matsuda/作曲:井上ヨシマサ/編曲:大村雅朗) 「Precious Heart」カップリング。
- SWEET MEMORIES(Cinema Version)(作詞:松本隆/作曲・編曲:大村雅朗) サウンドトラック「ペンギンズ・メモリー 幸福物語」収録ヴァージョン。
こちらのIIもなかなか素晴らしいラインアップ。どの曲もキャッチーでシングル曲と言ってもおかしくないくらいの曲ばかり。如何に聖子ちゃんのB面曲のクオリティーが高いかということを改めて思い知らされる。
中でも一番印象に残っているのが『硝子のプリズム』。こちらは『ピンクのモーツアルト』のB面曲だが、当時も良く聴いていたので印象に残っている。彼と別れたばかりの女性の複雑な胸の内を歌った失恋ソングなのだが、今改めて歌詞に目を向けると、如何にも松本隆らしく女性の心情に寄り添っており、とても秀逸な歌詞である。そして曲も『ピンクのモーツアルト』同様、細野晴臣の曲らしくとてもポップでマイルドなテクノサウンドも歌詞とマッチしていて心地良い。
『硝子のプリズム』 (1番のみ)
さよならって言葉 普通っぽいし
握手も嫌みたい そらぞらしくて
助手席になじんだ身体のライン
明日からあの娘が脚を組むのね
私よりKISSが上手?
そんなこと聞けるわけないね
硝子のプリズム
あなたとあの娘と私
硝子のプリズム
綺麗な三角形ね
赤・橙・黄・緑・青・藍・紫
もう・・・屈折しそう
三角関係をプリズムに例え、更にプリズムを通すことで7色に分かれる太陽光や、大気中の水滴がプリズムを通して屈折して見えることも例え、屈折した“彼女”の嫉妬心を巧みに言い表した歌詞となっている。彼と爽やかに別れたつもりが、まだ未練と嫉妬たらたらなのだ(笑)。しかしそれが怖い感じではなく、どこか切ない中にもキュートさがにじみでおり、これは松本隆の歌詞も妙による部分も大きいが、やっぱり聖子ちゃん以外、この曲を歌いこなすのは難しいだろう。
他には『スピード・ボート』、『七色のパドル』、『ベルベット・フラワー』も切ないメロディーが秀逸でとても好きな曲だ。思い出のアルバムというわけではないものの、このB面コレクション第二弾もなかなか素晴らしいものになっているし、もはやB面というよりは、秀逸なベストアルバムと言っても良いだろう。またこのIIを聴きながら、1980年代当時の空気感と聖子ちゃんの歌詞の世界に浸りたい。