先日、ジェフ・ベックの『Wired』を取り上げたばかりだが、ここ最近また久しぶりにジェフ・ベックにハマっている。実は初期のジェフ・ベックに関してはあまり聴いていなかったのでちょっとまた色々と遡って聴いてみたくなり、1972年にリリースされたジェフ・ベック・グループのアルバムを今回中古のアナログレコード盤で購入した。レコードだとやっぱり音に深みがあり、とても味わい深くなるような気がする。
ジェフ・ベックはこの頃“ジェフ・ベック・グループ”という名のバンドを編成しており、主に第1期と第2期がある。今回購入したのは、この第2期のバンド編成時にリリースされた2枚目のアルバムとなる。アルバムの正式なタイトルは、バンド名そのままなのだが、なぜかジャケットにオレンジが描かれていることから、通称“オレンジ・アルバム”と呼ばれており、著名なプロデューサーであったスティーヴ・クロッパー氏を迎えてメンフィス録音された、Groovyな極上ファンク・ロックアルバムになっている。ジェフ・ベック初期のアルバムとしては傑作として名高い作品なのだ。
ジャケットは何を狙ったんだか、謎のオレンジが上部にあり、後は5人のメンバーの同じ写真が違う色で4パターン掲載されているもの。一見かなりダサいデザインだが(笑)、これも含め70年代の息吹を感じてしまい、逆に今見ると何週か周って味わい深くて新鮮かもしれない。そもそもなぜオレンジがジャケットに登場するのか不明だが、“オレンジ・アルバム”との愛称で親しまれるアルバムというのも、ビートルズの“ホワイトアルバム”や、プリンスの“ブラックアルバム”のようで、なかなか面白い。
第1期は、ロッド・スチュワート、ロン・ウッドなどを擁してパワフルなブルース・ロックを展開した第一期に対し、本作を含む第2期ではファンク・ロックを軸に、ブラックミュージックのエッセンスを加えた新しい音楽性に挑戦したアルバムで、聴きどころ満載である。収録されているのは下記9曲。
- Ice Cream Cakes
- Glad All Over
- Tonight I’ll Be Staying Here with You
- Sugar Cane
- I Can’t Give Back the Love I Feel for You
- Going Down
- I Gotta Have a Song
- Highways
- Definitely Maybe
どの曲も味のあるロックで、70年代らしいエッジの効いたレトロなサウンドだが、そんな中にジェフの光るギタープレイが随所に散りばめられており、初めて聴いた印象ではとても新鮮であった。ボブ・テンチのボーカルもなかなかパワフルで活きのいいロックを演出しており、ピアノ/キーボードにはマックス・ミドルトン、ドラムスはコージー・パウエル、ベースはクライヴ・チャーマンという5人編成。
ジェフ・ベックの曲は、これまでフュージョン的なインスト曲が好きだったのだが、このボーカルアルバムも悪くない。むしろ意外にもボーカル曲が心地良かった。アルバムの中のボーカル曲では、『Ice Cream Cake』、『Glad All Over』、そして約7分にも及ぶ『Going Down』がかなり秀逸でカッコいい。ピアノ演奏にギターのリフが切リ込み、粘っこいカッティングなどを魅せ、かなりやりたい放題である。“キレとコク”のある(まるで生ビールのCMのような(笑))アグレッシブなサウンドが繰り広げられる。ベースとドラムスのリズム隊も見事なテクニックを見せ、ジェブ・ベックのギタープレイを見事にアシストしていく。
『I Can’t Give Back the Love I Feel for You』と『Definitely Maybe』はインスト曲。共に見事なインスト曲になっており、なかなかカッコいいサウンド。後にリリースされる『Wired』への布石も既に確認出来るのが楽しい。『Definitely Maybe』ではジェフの泣きのギターも冴えわたっており、まるで人の声のように耳に絡みついてくる。ジェフ・ベックのR&Bギターが堪能できる曲としては、ワウ・ギターでバッキングに徹する『Sugar Cane』や、きめ細やかなバッキングが絶品の『Highways』も哀愁のある曲で素晴らしいし、ギターソロも見事。アルバムの中でも特に好きな1曲だ。
また、このアルバムには3曲の印象的なカバー曲が収録されている。『Glad All Over』はロカビリーのカール・パーキンス、『Tonight I’ll Be Staying Here With You』はボブ・ディラン、『I Got To Have A Song』はスティーヴィー・ワンダー。それぞれのオリジナルがわからないくらいバンド・カラーが反映されており、見事なオリジナリティを出している。
全体的にロックではあるのだが、ブラックミュージックを意識していたり、後のフュージョンにも見られる“ジャズセッション”的な楽器の応酬もあり、なかなか多彩で厚みのあるアルバムに仕上がっていたので嬉しい発見となった。ジェフ・ベックのギターは実に抽斗が多いのも改めて痛感。この世を去ってしまったことが悔やまれるが、これから更に色々な時代を振り返りながら、そのギターテクを堪能したい。