10/11から公開が始まった新海誠待望の最新作、『すずめの戸締り』を2日目の先週末に早速観賞。前作『天気の子』から3年ぶりの新作である。観賞した結論として、今までのどの新海誠作品よりも楽しめた素晴らしい作品であった。それには幾つかの理由がある。
ちなみに、シネコンではこちらの『新海誠本』という冊子が観賞者全員に無償で配られるが、これもファンには嬉しい企画だ。
この作品は公開までなかなか作品の全貌が掴めなかった。断片的に公開されていた画像やプロット、そしてタイトルとなっていた“戸締り”の意味が良くわからず、変わったネコキャラも登場する様子だったので、何だか不思議なファンタジー系物語となる予感もあった。同時に少々難しそうな物語にもなりそうな気がしていたので、期待と共に、『君の名は。』や『天気の子』を超えるような作品となるのかという不安もあった。しかし、今回先入観なく観賞した結果、純粋にかなり感情移入しながら楽しむことが出来たし、意外にも物語に違和感がなく、まさに新海誠マジックにまたまんまとハマってしまった(笑)。
物語は、日本各地の廃墟を舞台に、災いの元となる“扉”を閉めていく少女・鈴芽の解放と成長を描く現代の冒険物語。元々災いの扉というのは日本に古くから伝わる伝説でもあり、そこに廃墟のモチーフを組み合わせることで、ファンタジーながらどこか日本人には懐かしい感覚もあるので不思議である。
また主人公の鈴芽が出会う青年、草太は『閉じ師』という、聞いたことも無い職業。災いをもたらす扉を閉める役目を持って日本中の扉を閉めて周っているという。鈴芽の住む九州の街の廃墟となった古い温泉街にも扉があったが、鈴芽がその扉をうっかり開けてしまい、その扉の鍵を守っていた要石(かなめいし)を抜いてしまったことで災いを解放して、その地域に地震を引き起こしてしまう。そして、要石はネコ=ダイジンに姿を変えて鈴芽の前に現れ、なんと閉じ師の草太を3本脚の椅子に変えてしまうのだ。このネコのダイジンとはいったい何者なのか・・・。なかなか奇想天外な物語の幕開けである。
ここから鈴芽と椅子になった草太がダイジンを追って、九州から四国、関西、東京、そして東北と、車や新幹線で移動していくロードムービーが始まるのだが、ネコが日本中の扉を開けることを阻止しようと奮闘するのだが、不思議とこのロードムービーが結構面白く、行った先々で楽しい登場人物と巡り合い、助けられながら旅を続け、そこに鈴芽の叔母、環や、草太の友人、芹澤が鈴芽と草太の後を追いかけてくる展開となる。この辺りの展開の早さと楽しさはロードムービーならではであり、これまでの新海誠作品には無かった魅力となっている。
また『君の名は。』が巨大隕石の落下、『天気の子』が異常気象という自然災害をそれぞれ取り上げて、現実とファンタジーの境界線を見事に描いてきたが、今回は地震や、2011年の東日本大震災をテーマにしている。その意味で、過去の作品よりもリアリティーのある物語となった。
そして本作は鈴芽と、鈴芽の亡くなった母との物語でもあり、母の探索によって鈴芽が成長して行く物語、そして鈴芽と草太のラブストーリーにもなっている点で、なかなか脚本も良く出来ている。鈴芽の声を担当するのが原菜乃華。最近ドラマでも活躍している可愛い人気女優だが、声も凄く魅力的。そして草太の声を担当するのがSixTONESの松村北斗。朝ドラ『カムカム・・・』の出演がまだ記憶に新しいが、とてもいい声をしているので、今回草太役もハマり役であった。ちなみに、叔母さんの環の声は、深津絵里が担当しているのも嬉しい!
新海誠の作品らしく、相変わらず街の景色や描写はリアルで圧倒的な美しさだし、今回も魅力的なキャラクターがたくさん登場する点でも極上のファンタジー作品となっている。漫画が原作のアニメと違い、劇場アニメオリジナル作品である新海誠の映画は、他のアニメ作品と一線を画しており、やっぱり新海誠印で独特の面白さがある。そして、『君の名は。』、『天気の子』に続き、今回も主題歌・音楽を担当するのはRADWIMPS。3度目のタグで、もはや新海誠作品の世界観を創出するには欠かせない存在となっている。
『すずめの戸締り』をすっかり気に入ってしまったので、またシネコンに観に行って新海誠ワールドにもう一回浸りたいと思う。