突き飛ばされたキメラが押し出されるまま仲間の体に激突し――そのまま二体まとめてアルカードの魔具で腹部を貫かれて、電撃で撃たれた様に全身をのけぞらせながら口蓋から血を吐き散らした。
無論、キメラがそれで死んだかどうかはわからない――が、アルカードは突き飛ばしたあとそのまま押し出していたキメラの背中に突き刺していた漆黒の曲刀で胴体を貫く寸前、もう一体のキメラもほぼ同じ位置を貫く様に刃の角度を調整し . . . 本文を読む
「……あれは?」
「空気だ」 セアラの発した誰にともないつぶやきに、グリーンウッドは返事をした。
「奴の魔力の膨張に伴って発生した精霊の反応で、瞬時に極低温まで冷却され固体化した空気だ。しばらくは結界の中から出るなよ、セアラ――生身のおまえは瞬時に凍死するぞ」
その言葉に、かたわらの弟子がグリーンウッドを見上げる。グリーンウッドは吸血鬼の背中から目を離さずに、
「今の爆発は、奴の魔力の反応で起き . . . 本文を読む
†
「よう――お目覚めの気分はどうだ?」
アルカードの軽口に反応したわけでもないだろうが――
調製槽の底でうずくまる様にして崩れ落ち、がくがくと瘧の様に震えていたキメラが、全身から培養液の滴をしたたらせながらゆっくりとその場で身を起こした――壁の縁に手をかけて立ち上がったキメラが、のそりと調製槽の外に歩み出る。
いったい何百年、あるいは何千年ぶりのことであるのか、晴れて調製槽の . . . 本文を読む
その背中を軽く叩いてから、グリーンウッドを追って歩き出す。
先頭に立って迷った様子も無くすたすたと歩いていたグリーンウッドが、両開きの扉の前で足を止めた。扉の戸板と枠の間には蝶番は見えず、扉の両端は少し丸められている。
向こう側に開けるなら、手前の面取りは必要無いはずだが――
そんな疑問をいだいたところで、グリーンウッドが扉を手前に向かって開けた。蝶番を備えていないにもかかわらず、扉はすん . . . 本文を読む
*
歩き出しかけたところでアルカードがついてきていないことに気づいて、セアラは足を止めた――アルカードは腰元につけた小さな雑嚢の中を覗き込んで、さも忌々しげに顔を顰めている。
「どうした?」 グリーンウッドが声をかけると、アルカードは鞄の中から取り出した小さな塊を手に短く返答を返した。
「銃弾が尽きた」 アルカードが手にしているのは弾と火薬を小さなサボットで包み込んで固めた弾薬《カ . . . 本文を読む
「つまり、呼んでもいないのに雑魚悪魔が出てくるってことか」
「ああ」
「そういえば、ここに来る途中の人里の跡地にある墓場のところで襲われたが」
「ああ、俺たちも襲われた」 グリーンウッドがうなずいて、
「理由は知らんが、強い恨みを残した霊魂が自分の死体を触媒に現世に残っていたんだろうな――よくある話だ」
人間が強い心残りを残して死んだ場合、本人に縁のあるもの――自分自身の死体や大事にしていた持ち . . . 本文を読む
†
ひとつ下の階層は、完全に熔岩で埋まっていた。
神威雷鎚・昇雷《サンダー・ブラスト・ライジング》によって発生した電気抵抗による発熱が原因で構造物が熔かされ、熔融はしたものの蒸発するにいたらなかった構造物の一部が熔岩状になって下階層に流れ込んだからだ――セアラも三階層下にいたからいいものの、直下の階層にいたらあっという間に熔岩に呑まれて焼け死んでいただろう。
胸中でそんな愚痴を . . . 本文を読む
おそらく時間的には数秒だったのだろうが、魔力による防御障壁を全力で連続展開し続けていたアルカードにはその雷撃が収まるまでの時間が永遠にも等しく思えた。
眼を開けているのになにも見えない――眼は確かに開いているのに、視界は真っ白でなにも見えていない。
グリーンウッドの魔術が発生した瞬間に生じた閃光を直視していたために、視界を焼かれたのだろう――太陽を直視したときの残像と似た様なものだ。おそらく . . . 本文を読む
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耳元でひゅっという鋭い風斬り音が鳴る――右脇から左肩にかけて角度の浅い逆袈裟の軌道で剣を振るうと、塵灰滅の剣《Asher Dust》の鋒が石造りの床を削り取ってがりがりと音を立てた。
その攻撃を、グリーンウッドが一歩後退して躱す――グリーンウッドに横から接近していた自動人形《オートマタ》が空振りした斬撃の軌道に巻き込まれて頭部を半ばから切断され、そのまま崩れ落ちた。
次の瞬 . . . 本文を読む
「恭介」 と聞き慣れた声で名前を呼ばれて、彼は背後を振り返った――武道場から直接グラウンドに出られる鉄扉がいくつかあるのだが、開け放された鉄扉のうちのひとつからトレーニングウェア姿の雪村香苗が顔を出している。
部活の駆け足が終わったところなのだろう、息を弾ませた女の子が数人一緒にいる。部活仲間だろう、学年が違うのか知らない子もいたがクラスの違う同級生もいた。部室に戻る最中にたまたま武道場を覗いて . . . 本文を読む
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「――十五分間休憩にしましょうか」 稽古着姿の鳥柴薫が、教えている薙刀部の部員たちにそう声をかける――剣道場の三分の一を占めている薙刀部が休憩に入ったので、剣道部の顧問を務める林原も休憩することにしたらしく、対峙していた女子部員に手で合図して構えを解かせてから部員たちに声をかけた。
「うちも休憩しようか」
その言葉に、日向恭介はそれまで対峙していた紅林《くればやし》虎斗《たけと . . . 本文を読む
前回と今回でいろんなタイプのキメラが登場してますね。
今回はそのキメラについてまとめてみようと思います。
キメラというと一番有名どころは鋼の錬金術師でしょうか?
キメラという言葉の本来の意味はギリシャ神話に登場する怪物で、ライオンの体に背中から生えた山羊の頭、尻尾に蛇が生えた想像上の動物です。
キメラはエキドナとその夫テュポーンの子で、兄弟にはオルトロスやヒドラ、ケルベロス、ラドンな . . . 本文を読む