21世紀新訳・仏教経典(抄)

西川隆範編訳・桝田英伸監修

この世の由来-世記経  ~天界の戦い 「怒りを越えて」その1

2012-09-30 21:06:01 | 経典
仏陀は比丘たちに語り始める。

「かつて、〈天の神々〉は〈阿修羅の一族〉と闘い続けていたのだ。

ある時、〈忉利天主にして神々の王・シャクラ(帝釈天)〉が〈忉利天の神々〉に、こう告げた。
『汝らよ。
今から私と共に〈阿修羅一族〉との闘いに来てほしい。
そしてもし勝利を得たならば、〈阿修羅王・ヴィマラチッタ(汚れなき心)〉を捕えて〈五つの縄〉で縛り上げ、
この〈善法講堂〉に連れて来てほしい。
私は彼の王に会わねばならぬのだ』

この〈帝釈天〉よりの命を受けて、〈忉利天の神々〉は戦さの身支度を固めた。


同じ頃、〈阿修羅王・ヴィマラチッタ〉が〈阿修羅一族〉に、こう告げた。
『ぬしたちよ。
今からわしと共に〈忉利天の神々〉との闘いに来てくれ。
そしてもし勝利を得たならば、〈忉利天主・シャクラ(帝釈天)〉を捕えて〈五つの縄〉で縛り上げ、
この〈七葉講堂〉に連れて来てくれ。
わしは彼の王に会わねばならぬのだ』

この〈阿修羅王〉よりの命を受けて、〈阿修羅一族〉は戦さの身支度を固めた。


〈忉利天の神々〉と〈阿修羅の一族〉は、時同じくして鬨の声を上げ、共に闘いを始めた。

結果としては〈忉利天の神々〉が勝利を治め、〈阿修羅の一族〉を撃退した。


〈阿修羅軍〉が退く時に、〈忉利天の神々〉は見事に〈阿修羅王〉を捕え、
〈五つの縄〉で縛り上げ、〈善法講堂〉の帝釈天の許へと連れて行ったのだった。





〈帝釈天〉は
自らの城〈善法講堂〉のなかをゆったりと歩く姿を〈阿修羅王〉に示した。
〈阿修羅王〉は
はるか遠くに〈帝釈天〉が歩いているのを見つけると
〈五つの縄〉に縛られたまま、あらん限りの罵詈雑言を投げつけた。

しかし
それを聞いても〈帝釈天〉は何もしようとしない。


思いあまって
〈天帝の侍者〉は
〈帝釈天〉に向かって、歌でもって語りかける。

 天帝よ何を恐れたもう 修羅は劣勢、誰の目にも明らか
 あの悪態を止めさせたまえ 何故、黙ってお聞きなさるか?


〈帝釈天〉は
〈侍者〉に、歌でもって答える。

 彼の王は、もはや大力は出せぬ 我もまた何を恐れようか
 “大智ある士”とはいかなる者ぞ “無智の者”と争わぬ者ぞ


〈侍者〉は
また〈天帝〉に歌でもって申し上げる。

 今だ服せぬ愚かな者は 忍び難い所作をし続けましょう
 天帝よどうか杖で打ちすえ 己の愚かさ悔い改めさせたまえ


〈帝釈天〉は
〈侍者〉に、歌でもって答える。

 私が常に言うところの“智者”とは 愚かないさかいには応じない者
 〈悪態〉には〈沈黙を守ること〉と知る 即ちこれこそ、彼に勝る道


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