レポートを整理していますが、
20年以上前に書いたものが見つかりました。
当時、私はアラサー(?)世代。
日本語教育をはじめ、語学には今以上に(?)関心のあった時代です。
友人の紹介で,当時東京都品川区の品川埠頭にあった国際救援センターで仕事をしました。
救援センターは法務省、文部省、外務省の管轄。
日本にボートでやってきたベトナム難民が収容され、3ヶ月ほど日本語を勉強するのです。
私の家からは自転車で20分強。
新幹線の停車場のもっと奥の、ほとんどコンテナを運ぶ大型トラックしか来ない
品川埠頭にセンターはありました。
隔離されていた、と言ってもいいほどの陸の孤島です。
そこでは『TPR』(Total Physical Response Approach)
という教授法を採用していました。
TPRは言語以外の要素にも目を向けながら、人を育てていく考え方に基づいています。
1960年代にアメリカの心理学者(→言語学者ではない!)
James J. Asherが提唱た言語習得法です。
幼児は話す力を習得する前に、膨大な時間を『聴く』ことに費やします。
そして、動作と結びつけながら言葉を身につけていきます。
Asherはこのような幼児の言語習得のプロセスに注目し、
そこから外国語を習得させようとしたのです。
つまり
口頭での練習に入る前に、まずは聴解練習を中心に行い、
言語と身体動作を結び付けていくというやりかたです。
センターで学ぶベトナム人たちは、大学で教育を受け英語もぺらぺら、という人から
学校で勉強したこともほとんどない、という人まで、
年齢もまさに老若男女がごっちゃ、という感じでした。
ひとクラスは25名。
でも、一番人が多いとき、私は50名のクラスをこのTPRで教えました。
「~してください,という指示」
TPRは教師が日本語で指示を出し、学習者はその言葉を聞いて身体で表現します。
たとえば、「立ってください』と指示を出します。
「たってください」の日本語を初めて聞くベトナム人たち。
最初は何が何だかわからないのですが、そのうち、勘のいい人が
気がついて立ち上がります。
嘘のようですが、何回やっても、誰かが気がつくのです。
立ち上がった人に向かって、にこにこして「はい、そうです、そうです」
と反応してあげます。
すると、他のメンバーも「立ってください』の意味がわかり、
次にその日本語で指示を出せば、ほとんどの人が
(周りの人を見ながらでも)立ち上がるようになります。
これを繰り返し何回も行います。
この応用で、『歩いてください』「とまってください」『跳んでください』
形容詞と組み合わせ
『高く跳んでください』『早く歩いてください』など、
いろいろな指示に学習者が反応するようになります。
「はい、今から私が10数える間に、AさんはBさんに教科書を読ませてください.』
なんて、使役形の入った複雑な指示にも(マジックのようですが)
従うことができるようになります。
↑でも、これは教師自身のトレーニングが少々必要となりますが、、、。
私も実際に韓国語のTPRの授業を受けたことがあります。
最初は『どうしよう~、、自分だけわからなかったら』なんて心配ですが、
誰かの反応を見て、先生が嬉しそうにしていたら、それが正解なのです。
だから自分が鈍感でも大丈夫。
次からはよ~く『聴いて』その指示に従えばいいわけです。
ちょっと安心、恥もかかないし、、、。
沈黙の期間
TPRでは、幼児が言語を習得する際、口から言葉が自発的に出てくる前のプロセスとして、
「沈黙の期間」があると考えているようです。
TPRの学習法は、教師の指示通りに身体を動かすことが基本で、
強制的に発話させる、話させる、ということはありません。
黙って、聴いて、聞いて,聞いて、いるうちに
ちょっと楽観的に思えますが、いつか自発的に話すことができるようになると考えられています。
学習の転移
TPRでは、聴解力がいずれ他の技能に転移していくと考えられています。
教師の指示通りに体を動かせるということは、聴解力が形成されていると考えらているのです。
学校の授業で学習者同士がディスカッションする時
ずっと黙って発言しない人がいます。
でも、かれらは怠けていたり、発言したくないのではありません。
発言したり、表現したりというのは、さまざまな情報や経験を自分の中に取り込んでいるうちに、
自然に身につく部分が大きいと思います。
私自身も専門ではない分野のミーティングで、すぐに発言したりすることは(恐くて)できません。
情報が理解できるまで、またはよっぽどの疑問がわいてくるまで、慎重に黙って聴いています。
だれでもが、沈黙の期間に自分の考えを熟成させているのかもしれません。
品川の国際救援センターは2年前、その役目を大方終えたということで、閉鎖されました。
このセンターを通して第3国へ出たベトナム人は日本に定住したベトナム人より多かったそうです。
その理由のひとつは『日本語の難しさ』(←やっぱり!)だということです。
センターで私自身が学んだ『TPR』の教えかたは、SEGや体験学習を経て
その後の私の教師人生に大きな影響を与えたように思います。
いい経験を品川のセンターで積ませてもらったと、振り返って感謝!
たまには、昔のレポートなどを整理してみるのも悪くありませんね。
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写真は白神山地のブナの木
聴診器をブナの木に当て、よ~く聴いていると『水の流れる音』が伝わってきます。