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渡辺洋二『死闘の本土上空:B-29対日本空軍』を読んで

2025年03月10日 | 折々の読書


私は戦後の生まれですが、子供だった頃、母や祖母から昭和20年3月10日深夜の東京大空襲の話を聞いたことがあります。当時、二人は千葉県の野田に住んでいて、東京方面の空が真っ赤だったこと、灰が降ってきたことなどを話していました。子供には想像もできない恐ろしすぎる話でよく分からず、大人になってから何冊かの本を読んでその実態の一端を知りました。


空爆、空襲は恐ろしい。普段の生活の場がいきなり戦場、戦線となり、しかも一方的に地上の人間が殺戮され、住むところを失います。卑劣の極みではないでしょうか。それは禁止されるどころか正当化されています。爆撃手に地上の阿鼻叫喚は分らないし、爆撃を命じた司令官や権力者には無辜の市民の苦しみは分らないか無視をします。

明治以降、軍国化の道をたどった日本は攻撃面のみを重視し、防空に対してはほとんど努力を払いませんでした。先に攻撃を行えば防禦は不要という考え方です。レーダーなし、専用防空戦闘機、防空部隊なし、堅固な防空施設なし、高射砲や照空灯ほぼなし、可燃性の高い脆弱な住宅密集のまま迎えた戦争末期。超空の要塞B-29の登場で、日本は一気に焼夷弾無差別爆撃を受けることになります。犠牲になったのはほとんどが市民。しかも、その人数さえ把握されていない。80年経っても何の補償もない。そういう面でも空襲は恐ろしいと言えます。

確かに、防空用に戦闘機はありましたが、仕様が劣りました。B-29への体当り攻撃も含めて個々には奮闘もあったのですが、如何せん、進歩した米軍爆撃機や戦闘機の大群には敵いませんでした。かつ、本土決戦のために航空機や燃料は温存されたため、邀撃に向かう戦闘機はあってもちらほらという状態でした。しかも、陸軍と海軍とに分かれ指揮系統もばらばら。爆撃され放題も当然です。

この本には本土防空線の敗因として、「(高高度戦闘機とレーダーの開発)を妨げたのは、…攻撃偏重主義と、理屈を超えた精神主義が関与」、「部下の愛国心に乗じ半強制化した、特別攻撃隊の大量投入」、「本土上空の攻防戦はまさに、太平洋戦争における彼我の戦力差の縮図だった」とあります。
無謀な戦争であったということです。

渡辺洋二著『死闘の本土上空:B-29対日本空軍』(文春文庫)2001年7月刊.


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