イヴァノヴィッチ(Iosif Ivanovici, 1845-1902)作曲の『ドナウ川のさざ波』は、子供の頃、クラシック音楽を聞き始めた頃に知った曲です。かなり昔のことで、どうしてこの曲を聴いたのか、誰から奨められたのかはまったく覚えていません。
(この曲は、曲名の表記がいくつかありますが、ここでは『クラシック音楽作品名辞典』(改訂版)によりました。)
しかし、子供の頃聴いた曲は耳に残っているものです。このワルツは転調の鮮やかさ、滔々とした流れや渦巻くような波を抒情的に表現していて、子供の耳にもすんなりと入ったのでしょう。もちろん、音楽的なことは理解できるはずもありません。
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イヴァノヴィッチはルーマニアの軍楽隊長(指揮者、作曲家)でした。そう言えば、序奏部の冒頭はまさに軍楽調です。
ウィキペディアによれば、300曲以上あった彼の作品はほとんど失われ、この曲とルーマニア王妃に献呈された『カルメン・シルヴァ』(ワルツ)以外はまったく知られていないようです。ライトクラシックあるある的な人物です。
(現在、YouTubeでIvanoviciを検索すると、この2曲以外にも数曲が確認できます。)
英文ウィキペディアによれば、E. ワルトトイフェルがオーケストレーションを施したのが1886年(明治19)で、1889年(明治22)にパリ万国博覧会で初演され、喝采を浴びたそうです。
作曲(出版)されたとされる1880年は、日本では明治12年。慶応大学ワグネルソサエティーで斉唱されたのが日本初演とすれば1902年(明治35)のことで、作曲からは22年、パリ初演から13年ほど後のことになります。
日本では英語からの訳で『ダニューブ河の漣』として紹介され、「月は霞む春の夜、岸辺の桜風に舞い…」(田村貞一)*と日本的な歌詞も作られました。
この曲がこうして受け入れられたのは、ルーマニアと日本の感覚に似たところがあったものと思われます。また、音楽を伝える手段として言葉が重要な役割を担っていた時代であったことも分かります。∎
(ご参考)
ドナウ川のさざ波(ウィキペディア)
Waves of the Danube (ウィキペディア、英文)
Ion Ivanovici(ウィキペディア、英文)
*金田一春彦、安西愛子編『日本の唱歌(上)明治篇』(講談社文庫)1977年刊、p.182-3.
さて、動画サイトの『ドナウ川のさざ波』を調べてみました。多くは、子供時代に受けた印象とは異なるものが多かったのですが、このオーマンディの演奏は唯一満足できるものでした。センチメンタルにならず、端正で好ましい演奏だと思います。(序奏部はカットされています。)
Ivanovici: Waves of the Danube, Ormandy & PhiladelphiaO (1967) イヴァノヴィチ ドナウ川のさざなみ オーマンディ