「白鳥」の練習の参考にと、サン=サーンス(1835-1921)の作品を努めて聴くようにしています。
それというのも、自身、サン=サーンスは敬遠気味で、その作品についてはほとんどは聴いていないにひとしい状況です。正直に言えば、白鳥ですらまともに聴いていません(笑)。このままではあのサン=サーンスの肖像がさらに渋面になってしまいそうです。
我が家にある数少ないサン=サーンスの音源のひとつはこのイッサーリスの弾く協奏曲第1番、ソナタと小品集です。いずれもイッサーリス独特の暖かいトーンを味わいながら聴くことができます。どこか冷たい感じのするサン=サーンスの音楽が少し暖かく聞こえるかもしれないと感じるのは私だけでしょうか。
この機会に第2番を収めた続編(第2集か)も追加購入しました(久々のCD購入でした)。これでチェロ協奏曲とチェロ・ソナタは全曲揃いました。
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チェロ協奏曲は、第1番(イ短調、作品33、1872作曲、1873年初演)が有名です。サン=サーンスが37歳頃の作品です。日本では明治5年で最初の鉄道が開業した年です。「動物の謝肉祭」の14年ほど前の作品ということになります。
3楽章が連続して演奏されます。通常の協奏曲とは異なる形式に「なんで?」と思うのですが、残念ながらサン=サーンスの流儀がまだよく分かっていません。(そう言えば「白鳥」もまとめてしまうとそんな形式かも(笑))
全体がシンメトリーな構成になっていて音楽的にも緊密な関係性を保持しているということなのですが、初めて聴くと化学式か分子式を見ているようで、置いていかれたり迷ったりしました(笑)。しかし、内容が緻密なためか、あっという間に聴き終わった感じでした。
一方、第1番に比べほとんど演奏される機会のない第2番(ニ短調、作品119、1902年作曲、1905年初演)は、1番の作曲から30年後、日本は明治35年で何かと問題の多い時期になっています。作曲者は既に67歳。交響曲やピアノ協奏曲など大作の創作は終わっています。彼が初の映画音楽とされる「ギーズ公の暗殺」を作曲するのは1908年のことです。
第2番は、1番同様、全楽章が一体となっていますが、第1番とは趣を異にし、より簡素になるとともに密度は濃くなっています。緩徐楽章とされるアンダンテ・ソステヌートは耽美的と言ってもよい美しい旋律が奏でられます。イッサーリスは流されることなく清潔な抒情を聴かせてくれます。
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チェロ・ソナタは、各チェロ協奏曲に相前後するように作曲されています。ソナタ第1番が1872年頃、第2番が1905年に作曲されました。特に第1番はチェロ協奏曲1番の冒頭のような疾風怒濤の雰囲気をもっています。両ソナタはピアノの天才だったサン=サーンスらしく伴奏の巧みさが光ります。
このアルバム(第1集、タイトルの写真)には、「ロマンス」などの小品に加えて「白鳥」が含まれています。イッサーリスの柔らかく暖かい音で聴く白鳥はまた味わい深いものがあります。∎
Camille Saint-Saëns: Cello concerto no. 1, op. 33, The swan, Romance, op. 36, ibid. op. 51, Sonata no. 1 for cello and piano, op. 32 et al. Steven Isserlis, cello, Michael Tilson Thomas, conductor and piano, London symphony orchestra et al. recorded in 1992, 1993. RCA Victor, 09026-61678-2.
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Camille Saint-Saëns: Cello concerto no. 2, op. 119, La Muse et le Poete op. 132, Romance, op. 67, Cello sonata no. 2, op. 123.
Steven Isserlis, cello, Christopu Eschenbach, conductor, NDR-Sinfonieorchestra, Joshua Bell, vn., Pascal Devoyon, pf.
recorded in 1999. RCA Victor, 09026-63518-2.
珍しい弦楽5部のソロによる伴奏の第1番です。簡潔を旨としたサン=サーンスが喜びそうです。ソフィア・バセラーさんのチェロが冴えます。
Saint-Saëns Concerto - Sophia Bacelar - Berliner Philharmonie
ほとんど演奏されることのない第2番は動画も多くはありません。こちらはピアノ伴奏版ですが、よい演奏だと思います。
Saint-Saëns Cello Concerto No. 2, Mvts. I and II -- Neal Cary, cello
Saint-Saëns Cello Concerto No. 2, Mvt. III -- Neal Cary, cello