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兵藤裕己著『琵琶法師;<異界>を語る人びと』を読む

2009年06月30日 | 折々の読書
琵琶(音楽)とは何か。琵琶法師とは何か。以前から心のどこかにこの疑問があった私は躊躇わず,この8㎝DVDが付いた新書を買った。久し振りに読む岩波新書に,昔,古文が不得意(今も,だが(笑))だった私は多少弱気になったが,最後まで興味深く読んだ。

序章から「耳なし芳一」の話である。一般的に琵琶と言えばこの話,そして「平家物語」。琵琶は日本文学史にも日本音楽史にも深い関わりがある存在なのである。

琵琶法師とは何だったのか。「耳なし芳一」の耳とは,盲人芸能者にとって世界を知るためのほとんど唯一の器官であり,「前近代の社会にあっては,<異界>とコンタクトする方法でもあった」(p.9)。霊との交流を行うのが琵琶法師であり,彼の肉体や楽器は単なる媒体に過ぎなかった。だから近代的な演奏や表現法などとは全く異なるのである。中世的な,異界との交流者が琵琶法師の姿である。

それ故に,「祇園精舎の鐘の声...」というとき「この語りの真の発話者は,語り手の<個>を超えた超越的な存在」となる。「声を発しているのは眼前の語り手であっても,声の本当の主体はべつのところにいる」(p.80~81)という説明にはぞくっとするものがある。

本書では,平家物語を中心に琵琶法師達の離合集散,盛衰,そして九州に最後に残った現代の琵琶法師まで詳しく説明されていく。室町幕府の庇護を受けたり,武家に取り入ったり支配されたりして命脈を保っていく。そして「平家」だけではなく,説教節,曲舞(くせまい),浄瑠璃など,宗教的,呪術的役割も果たしながら伝えられた。

著者は研究者として,最後の琵琶法師と言われた山鹿良之氏(1901-96)のもとに通い貴重な映像を記録している(付録)。研究用なので画面は単調だが,反面,演出がなく,近代的な「芸能」とは異なる迫力がある。

■兵藤裕己著『琵琶法師;<異界>を語る人びと』(岩波新書1184)2009年4月刊


8 コメント

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おもしろそう! (ひなげし)
2009-07-01 00:24:32
まさに琵琶法師はメディウムだったのですね。
この本面白そうです。
ご紹介ありがとうございます。

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奥深さ (isis)
2009-07-01 22:42:32
ひなげしさん,

私は琵琶法師はもっと神妙なものだと,あるいは高貴なものと思っていました。この本の内容,そしてDVDの映像と音からすると,もっとおどろおどろしたものではなかったのか(まあ,それが異界ということなのでしょうが)と思いました。実際,DVDを見た(聴いた)ときはショックでした。

日本の音楽でも,本流となるものから傍流,そして異端までたくさんの流れがあり,奥深いもの,重層的なものであることに気付かされました。琵琶法師のスタンスは,むしろ,門付け,霊媒師(メディウムですね)に近かったのでしょう。それを成立させていた中世社会というものが,逆に浮き彫りになるような。。。

彼らが典拠とする『平家物語』覚一本の成立と伝承の話は政治や派閥闘争など現代に通じるところもあって興味深かったです。

こういう地味な研究が,新書版でしかもDVD付きで読めるのは本当に幸せです。そして,ちょっぴり,自分と音楽の関係を再考させられました(笑)。こんなに生ぬるい関係でいいのか?頭だけで了解していないか?などなど。(決して,バッハの降霊を企てるつもりはありませんので,念のため(爆))
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興味深々 (tennmari)
2009-07-02 17:30:24
読書の分野が幅ひろいですね!とても参考になります。この本はぜひ読んでみたいですね。暇なわりには
チェロの練習進まず、本も積読状態です。
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祇園精舎のチェロの音。。。 (isis)
2009-07-02 22:40:51
tennmariさん,

コメント,ありがとうございます。
『平家物語』を読んで,少しでも興味が持てた人ならお薦めです。でも,付録のDVDの映像と音はワイルドですよ(笑)。

私も練習が進まず反省しています。本は電車の中でも読めますが,チェロの練習はできませんから(笑)。
最近はチェロのブログと言うよりも読書感想文になってしまい,少しは軌道修正をしなければと思ってはいます。と,未読の本を眺めつつ。。。
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あの世とこの世のなかよし時間 (ひなげし)
2009-07-04 00:38:36
バッハの降霊ができたら面白いですね。
この曲はこんな風に弾くんじゃない!なんて怒ってカツラを投げ捨てたりして。(笑)

私もレクイエムを歌ったときはすでに死んでいる人たちみんなと一緒に祈っている気分になりましたが。

古来わが国では歌舞音曲で身を立てる人々はメディウムであり、市井に非日常の異空間を現出させる異能者とみなされていたと思われます。
不当とも思われる差別の歴史は畏れと一体だったのではないかと。
そのあたりは教会から始まる西洋音楽の流れとはだいぶ違うようです。

少なくとも琵琶法師とグレゴリオ聖歌隊はだいぶ違う霊性をしょっているみたいですが、あの世とこの世のなかよし時間を歌うという点では似ているかも。(爆)

ところで「路上のソリスト」を観て原作を読みました。
どちらもなかなか良かったです。
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路上のバッハ (isis)
2009-07-05 22:43:09
確かに,バッハにお出で頂きたいですね。
コンピュータで復元した顔と比べてみたい。私の演奏を聴いてもらいたい(あ,帰ってしまった(爆))。。。

西洋だと,吟遊詩人ですかね。琵琶は放浪芸。。。歌舞音曲は健常者のものではなかったのですね。それだけ,日常から懸け離れた存在だったのでしょう。今の一億カラオケ・ブームからは想像もできません(笑)。

『路上のソリスト』http://rojyo-soloist.jp/
関知しておりませんでした。お知らせありがとうございました。でも,もう間もなく終了ですね。残念。DVDで見よう。
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路上のソリスト (ひなげし)
2009-07-05 23:45:32
映画は良かったですが、原作はもっと良かったです。
祥伝社から「路上のソリスト」という題で邦訳が出ています。
原作の最後にはヨー・ヨー・マまで登場してしまいます。

アメリカ版のサイトでナサニエル・アンソニー・エアーズ氏本人の演奏のビデオを見ることができます。

http://www.soloistmovie.com/
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DVDを待ちながら (isis)
2009-07-08 22:50:01
ひなげしさん,

ありがとうございます。
あの脱税の疑いのあるamazonに原作を頼むことにします。DVDが発売になるまで時間がたっぷりありますから(笑)。
エアーズ氏のビデオ,これから探してみてみます。
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