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著者と編集部員の「加藤君」が各地の廃線跡を旅して歩きます。私も名前だけは知っていた、耶馬渓鉄道、草軽電鉄、沼尻鉄道、サイパン、ティニアン島の砂糖鉄道など7つの路線が紹介されています。鉄道とありますが、主に軽便鉄道で、軌道が狭く小回りが利いて新開地や山地でも重宝された鉄道です。軽便は生活と密接に繋がっていただけに経済や社会が変化するとついてゆけず姿を消しました。
執筆当時ですら、廃線となって久しく、鉄道としての痕跡もほとんど無くなっていました。消えていった鉄道に寄り添う著者たちの姿は巡礼のようです。文章からは当時の沿線や人々の様子が立ち上がってきます。それは、もう二度と見ることができない鉄道に対するレクイエムにも思えてきます。
廃線巡りというのは、どちらかというとハイキングに近いのではないかと思います。この本でもタクシーや自転車を使ったりしていますが、おおむね、廃止になった細長い鉄路の跡を歩いて辿るというものです。元々、鉄道は勾配や屈曲を嫌い、迂回したりトンネルを掘ったりして極力平坦で直線の経路を確保するものです。線路跡は山の中が多いですからハイキングコースとしてうってつけかも知れません。コロナ禍で窮屈な思いをしている今こそ、自然の中の鉄道の跡を歩いてみたくなりますね(個人の願望です)。
軽便鉄道、ひなびた温泉と言えば、つげ義春の世界です。私も乗ってみたかったなあ。∎
宮脇俊三著『失われた鉄道を求めて』(文春文庫) 2011年5月10日(新装版第1刷)刊.文芸春秋.[1989年9月単行本刊、1992年9月文庫版刊]