ちゃん、どうしたの?」
隣にいた千歌ちゃんが、驚いた様子で私を見た。私――桜内梨子は、首を振って千歌ちゃんに謝る。「ごめん、私の気のせいだったみたい」
「もしかして、前にも言ってたやつ? 『人の視線を感じる』っていう?」
私は頷いた。
実はここ最近、誰かに覗かれているような気配がしている。視線といっても、いわゆるストーカーみたいな、ねっとりした欲望や悪意を向けられた感じではない。ないんだけれど、その視線を「いつでも」、「どこでも」感じている。
例えば外ではもちろん、学校内でもそうだし、自分の部屋の中という限りなく閉じられた場所でもその視線を感じるようになった。
「そっか……人気のないこの道でも、か……」
千歌ちゃんはそう言って周囲をぐるりと見渡した。ここは沼津の中心部から少し外れた路地裏で、時刻は午後四時を回ったくらい。元々ここを通る人は少なく、道は狭いし、通路も一本道だ。私達以外に人がいればすぐ気付くような場所だったけど――誰もいない。
「……千歌ちゃん、心配かけちゃってごめんね……」
そう言うと、今度は千歌ちゃんが首を振った。Aqours5周年 高海千歌 コス衣装
「ううん。そんなことないよ。梨子ちゃんに困ってることがあるなら、私は全力で力になりたい」そして、顔を赤めらせて、目をちょっと伏し目にしながら言った。「――だって……わ、私達……こっ、恋人同士、でしょ……?」
恥ずかしそうに言う千歌ちゃんを見て、私も頬の温度が向上するのが分かった。
「あ、ありがとう……千歌ちゃん」
「え? あ、う、うん……」
お互い気恥ずかしくなって、嬉しいような、こそばゆいような空気が流れる。
そう。私達は付き合っている。
多分、お互いに一目合った時から惹かれ合っていたんだと思う。
気付けば私は千歌ちゃんを好きになっていて、千歌ちゃんも私を好いてくれた。
どっちがどう告白したのかは、もう覚えていない。Aqours5周年 小原鞠莉 コス衣装
けど、唯一覚えていたのは、想いを伝えった時は、夕暮れ時の桟橋――私達が始めて出会ったあの砂浜だったということだけだ。
「それじゃあ、気を取り直して……今日もやってみようか?」
そう呼び掛けると、千歌ちゃんが心配そうな目で私を見た。