こんなに立派ではなかったが、わたしのお雛様は母からのお譲り
でかなり大きいものだった。
ある年の春、母を手伝って大きな櫃(中にはお祖母さんのとか、叔母さん
のとか、もっと古いお雛様がたくさん入っていた)の中からお雛様を取り
出そうとしていた。
小窓からさす薄あかりの中で、わたしのお雛様は!
女雛様のお鼻がないのである。
男雛様の装束があちこち破れていて・・・・
幼かった私はわあわあ泣き出して、ずーっと泣いて、
泣き止まなかったそうだ。
ねずみの仕業だったのだ。
男雛と女雛の白い底光るような顔を今でも鮮明に思い出す。
美しいお雛様だった。