夜は兄の提案で
父を焼き肉屋さんへ招待した
父のお気に入りの精肉店が営む
我が家近くにある焼肉屋さんだ
ワタシの元夫も一緒に
4人でテーブルを囲んだ
脂身の多い肉が好きな父は
変わらぬ食欲だったし
ワタシの家で
また呑み直そうかと
コンビニで焼酎やビール
つまみを買い込んで
二次会を開催
呑みながら
カープのテレビ中継に盛り上がって
ワイワイ賑わって
面白可笑しく話をする父は
ご機嫌よくいたのに
お酒を酌み交わすのは
この夜が最後になってしまう
あの女性は
パチンコ屋さんが
閉まる時間くらいに
迎えにやってきた
「Sちゃん、下まで来て挨拶してくれんかあ、角が立たんように」
父の頼みだ
イヤでも笑顔で挨拶だけはせねば
と
街灯下に停めた車へ行き
父が座る助手席のドアを開けて
「こんばんは、お世話になります」
気乗りしないワタシの精一杯の笑顔で
運転席に座る女性に向けて
声をかけた
女性は
こちらを見ることもなく
表情も変えない
身の毛もよだつ
鬼の形相とは
こういうときに使うのかと思うほど
ぞっとするものを
感じた
車に乗った父が
手を振り
「ほいじゃ、またな!おごっそさんよー」
と窓を閉めた
ワタシは車が消えるまで
見送り
心に不安と
心配を抱えた
車の中で
パチンコに負けて不機嫌な女性が
父をつねったり
小突いたりしていないだろうか
いや
父がそんなことをされる訳がない
お金をよこせ
と
ポケットから
財布が引き抜かれやしないか
とか
女性の
あの鬼の形相が
ワタシを心配させている
つづく
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