兄は海外の仕事があると
すぐには戻れない
毎日ワタシは兄の替わりに
様々な支払い、解約の手続き等
卒なくこなし
忙しく立ち回った
そんなワタシを知りながら
全てを任せきりにする女性は
しょっちゅう実家に呼びつける
1人になると
不安と悲しみが襲ってくるので
忙しい方がいい
そう思って
女性の言うことも聞くふりをして
呼ばれれば実家へ行った
支払いなどの他にも
7日ごとに
お寺の住職が
お経あげに来てくださるお布施なども
用意したり、出費も多い
葬儀後すぐから
お金の出し入れ
使い道がわかるようにするために
出納帳に記帳を始めた
きっと後で
役に立つだろうと思ったことと
お金の管理をきちんとしていた
父の性分が、少しでも引き継がれているのだろうか
出納帳を見るだけでも
何日どこへ行った
何をしたのかが明確だ
それに加えてメモまで残している
11日に
スマホの残金を支払いに
モール内のドコモショップに行った時の事だ
待ち時間が長くあるため
父と女性が頻繁に通ったドトールコーヒーへ
女性は店員さん達ともずいぶん親しげだ
「このオンナはー主人のムスメだあ、主人はねーなくなりましたー」
女性がそう言うと
店員さん達は
丁寧に頭を下げて
「お父さんにお顔がよく似てらっしゃいますね」
そう言われて
うれしい気持ちで
奥の席に通された
別室のブースに入ると
嬉しさは一変して
情けなくて、悔しさが込み上げた
禁煙専用のブースだった
「ここにーいっつも、おとさんが座ってえ」
とワタシをその席に座らせると
バカスカ煙草を吸い始めた
気管が弱くて
いつも咳き込んでいた父を
煙いっぱいのブースの中に座らせ
女性や別の客のタバコの煙を
父に浴びせていたかと思うと
ぞっとしたし
情けなくなった
タバコを吸いながら
エスプレッソを飲む女性は
気をよくして
ワタシの心読めずまま
饒舌になっていった
兄と相続の話は進まず
イライラする女性は
今後は兄の味方ではなく
女性の指示に従ってほしいこと
兄とは距離を置くこと
生前の父は
女性をちっとも援助してくれなかったという
愚痴をいい
父をケチだと笑った
そうかと思えば
父は男気があって
お金の払いが良いから
父の子供なら同じように
お金払いが良い人にならないといけない
と
諭すように話す
ワタシが何も知らないとでも
思ってるのかと
もうワナワナした
話半分で何とか聞き流し
スマホの残金を支払いに行き
そのスマホはワタシが引き取った
そのスマホの中には
ドトールコーヒーでの
喫煙ブースでの女性の写真が残っている
父が撮ったものだ
これは父からのメッセージに違いない
女性は父と写真を撮らなかった
いろいろ旅をした割には
写真1枚すらなかったのた
これもいつか必要な時がくるかもしれない
つづく