5月の終わり頃
梅雨に入る前にと
ワタシはしきみを用意して
父はお墓用の掃除道具一式を持ち
お墓へ行った
車中で父は
「わしは、噴射係をするからのー」
というのだ
噴射?って何やろか
とは思ったが
あえて聞かず
気にもせず
山の麓にあるお墓は
少し坂になっているものの
そろそろ重い父の足は
杖なども必要とせず
「よしっよしっ」と
いいながら
踏ん張って上がっていった
お墓へつくと
小さな自分用の椅子をちょこんと置いて
そこに腰掛けた
ごそごそお道具入れに手を入れると
左手に体用の虫除けスプレーを
右手にジェットスプレーを持ち
「はい、Sちゃん目えつむってー」
立ち上がって
ワタシの頭のてっぺんから
足元まで
むせるぶる程に
スプレーを振りかけた
そして
またちょこんと座る父の左手は
虫除けスプレーから
小枝になり
ここじゃ、あそこじゃ
今度はここ
いやこっち
とワタシに指図をしながら
ワタシがしゃがむとこに
ジェットスプレーを
楽しそうに
シューッ、シューッと撒き散らす
これが噴射係なのだ
時々振り返るワタシに
「なんかいうたか?」
と
ニーッと笑顔で
吹きかける
本当に面白がって
遊んでいるように見えた
一通りお墓の周りもきれいになると
「よし、唱えて帰ろう」
と
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏〜南無大師遍照金剛〜南無大師遍照金剛〜」
しゃがれた声で唱えながら
手を合わせた父は
「足が悪うなりゃー来られんでーの」
そういうのには
少し訳を含む父も
年齢が年齢なだけに
あの女性が
車を占領しているのは
まぁ、良いとしても
女性に
連れて行ってくれとは
言えないようだった
国も違えば
宗教も違う
毎朝
お仏壇にご飯とお茶をお供えする
父の姿が
女性には良しとは見えていないからだ
また
お墓に行きたくなったら
いつでも言ってと
ワタシがといえば
「ほうじゃのう、そうしよう」
そう言う父を
実家へ送った
つづく
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